一章 王都から出る前に応援する──

第7話 冒険者登録(フレア)1

 ミレーユが俺の為に行動を起こしてくれた日から数日経った。


 俺は気不味くて未だにフレアの冒険者登録に行けていない。


 このままだと行けなくなると嫌なので今日こそは向かいたい。


 有言実行──


 つまりこれから言って行動を起こそうと思う。


「フレア、冒険者登録をしに行こうか?」


「うんっ! ミレーユも一緒だよね!?」


「も、もちろんさっ! ミレーユは俺の恋人であり、冒険のパートナーだ。これからはいつも一緒さっ!」


 一瞬、ミレーユが来た場合の事を想像して、言葉に詰まったが──


 ミレーユの手前、大歓迎の意を伝える。


「ミレーユとお兄ちゃん皆でお出かけだっ!」


 フレアは可愛らしく両手を上げて喜ぶ。


「恋人……パートナー……」


 ミレーユは俺の言葉に惚けているようだ。


 昔はそんなに相手にされてなかったのに、今では普通に恋愛対象として見てもらえると嬉しいな……。



 そうだ、ミレーユとはいつも一緒だ!


 俺達はいつか結婚するんだっ!


 でも、再度フレアには予防線は張っておきたい……。


「フレア、喜んでる所すまないが──冒険者ギルドで、周りの人が出鱈目な事を言うかもしれない……お兄ちゃんの凄さに嫉妬してる奴が多いからな! だから周りが何を言っても信じたらダメだ!」


「前もそれ言ってたです! 大丈夫なのですっ! フレアはお兄ちゃんを信じてるのですっ!」


「良い子だ。ちなみにミレーユも美人だから疎まれているかもしれない! ミレーユの事について言われても信じたらダメだぞ?」


「ミレーユも!? わかったのです! ミレーユも信じてるのですっ!」


「フレア……」


 ミレーユはフレアの純粋さに感動しているようだ。


 ずっと頭を撫でている……。


 とりあえず、これで大丈夫だろう。



 俺は数日振りの冒険者ギルドに足を運ぶ。


 扉を開けて中に入ると──


「……」


 受付まで道が出来上がり……俺は言葉が出なかった……。


 なんで並んでる人までどくんだよ!?


「お兄ちゃん凄いのです! 人が割れているのです!」


 フレア見えてないよね!?


 何でわかるのさ!?


 まぁ、喜んでるからいいか……。


「ほら、お兄ちゃんは凄いんだぞ?」


 便乗するように俺凄いぞアピールをしながら受付まで進む。


 周りの視線はに固定されている気がする。


 やはり、俺じゃないな……この間の事が噂になってる気がする。


「すいませーん」


 俺は受付嬢に声をかける。


「ひっ」


 怯える受付嬢はレーラさんだ。


 ミレーユに視線は釘付けだ。


 俺もミレーユをチラッと見ると──


 絶対零度の視線を向けていた。


 こ、怖い……。


「レーラ……わかってるわね?」


「はいっ!」


 ミレーユの問いかけに背筋を伸ばして返事をするレーラさん……その姿は蛇に睨まれた蛙がイメージにぴったりだ。


「フレアちゃんの冒険者登録をしてちょうだい」


「フレアちゃんを!? さ、さすがにそれは──」


「レーラ?」


 フレアを登録すると言ったミレーユにレーラさんは驚き、物言いをしようとすると──


 ミレーユは微笑み(殺気を添えて)ながら名前を呼ぶ。


 大気は殺気に満ち溢れている。


 俺は震えないように気合を入れる。


 レーラさんの言いたい事はわかる……フレアの目の事を言いたいのだろう。それと戦えるかどうかもわからないはずだ。


 ちなみに冒険者ギルドではスキルは一応聞かれるが、教えるかどうかは完全に自己の判断に委ねられる。


 俺は教えていないし、面倒事は嫌なのでフレアのスキルも教える気はない。


 だが、これから旅に出るには身分証が必要だ。


 なんとかゴリ押ししたい。



「──またお前らか!? 今度はなんだ!?」


 殺気に気付いたであろうギルドマスターのマッチョさんが声をかけてきた。


「この子の新規登録しに来ただけよ。あれはどうなったのかしら?」


 とはこの間の件の事だろう。


「そうか、また何かあったのかと思ったぞ……アランの息子の報酬を下げていた受付嬢は全員クビにしている。後、あの冒険者共はランクを下げて罰金だ。まず、これを返しておこう。罰金の金額はそのままアランの息子に渡そうと思っている」


 俺はマッチョさんから小袋を渡される。おそらく、不当に下げられた報酬の差額分をくれたのだろう。


「まずまずね。罰金の金額は?」


 ミレーユは俺の代わりにマッチョさんに聞く。


「金貨20枚だ」


「低いわね」


 金貨一枚あたりの価値は前世で言うと約十万円相当だと思う。俺的には十分だと思っていたりするが、ミレーユは不服そうだ。


「Bランクだとけっこうキツイ金額だと思うぞ?」


「金貨50枚にしなさい」


「無茶言うな。こっちにもルールがある。罰金はそのままそっちに払うんだ、こっちは受付嬢もいなくなって大変なんだぞ?」


「ギルドの対応はそれだけなのかしら? 受付嬢がクビになったら終わりかしら?」


「ぐぬぬ……」


 マッチョさん……責任逃れは良くない。


「ギルドから気持ちが足りて無い気がするのだけど? 受付嬢が報酬を払わずに懐に入れるなんて貴方の管理能力が低いからでしょう? 本部に報告しようかしら?」


「……何が望みだ?」


「話が早いわね。この子の冒険者登録をして頂戴。それぐらい安いものでしょ?」


 ミレーユ上手いな……これならフレアは登録出来そうだな。


「……わかった……レーラ登録してやれ」


「しかし、ギルドマスターっ! フレアちゃんは目が見えないんですよっ! 危険な冒険者をさせるなんて何を考えてるんですかっ!」


「……目が? ミレーユ……それはさすがに問題がある……冒険者をする以上は依頼をこなさなければならない。その子に出来るのか?」


「ちっ、レーラ余計な事を……後で覚えていなさい」


 レーラさんは震えているが、マッチョさんがいる為少し強気だ。


「ミレーユ~、戦えたらいいのです? フレア戦えるのです! お兄ちゃんいない時に訓練してたのです!」


 ミレーユは俺に視線を送ってくる。当然俺は首を横に振る。


 思い当たる事が一つも無い……。


「ふむ……なら試験を行おう。その子が戦えると判断したら冒険者登録をする。それでいいか?」


「……わかったわ。登録出来なかったら、ギルドの不始末は金貨上乗せ100枚よ。もちろんマッチョの自腹よ? わざわざ本部に報告しないであげる所を冒険者登録だけで許してあげようとしたのに試験を受けさせるんだから当然よね? 今の私と貴方は対等じゃないの。ギルドの不始末をたった金貨100枚で許してあげるのよ? わかってるわよね?」


「「「……」」」


 話を聞いている者は全員一緒の事を思っているはずだ。


 どちらにせよギルドマスターは敗北していると。


 そして、ミレーユの怖さを実感しているはずだ。



「……とりあえず、試験を行おうか? お嬢ちゃんこっちにおいで……」


 マッチョさんは強張る顔で精一杯笑顔を見せてフレアを呼ぶ。



 俺がマッチョさんの心を代弁しようと思う。


『お嬢ちゃん……戦える事を願っているぞ』


 おそらく、そう思っているはずだろう。

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