第5話 『白銀の誓い』
朝になった。昨日は夜遅くまでフレアとミレーユの3人で思い出話に花を咲かせた。
フレアには両親の事を最高に格好良い死に方をしたと俺が話を膨らませて話しておいた。
フレアには死んでいると伝えていたから、そこまでショックではなかったようだ。どちらかというと、死んだと思っていたミレーユと再会出来た嬉しさの方が強かったようだ。
皆が寝ている中、俺は朝食を作り出す。
メニューはありふれた──
ベーコンエッグ、サラダ、ポトフ、トーストだ。
夜は知り合いのお店でお手伝いしてたのと、毎日ちゃんと作っていたお陰もあって【料理】スキルは10になっている。
たまに変な調味料でも入っているんじゃないのかと心配になるぐらい食べた人は感動してくるからお店の方は今ではお手伝いに行っていないが……。
まぁ、そんなわけで──こんな簡単な料理でも一流の店並みの味加減で作る事が出来る。
出来上がる頃にはミレーユがフレアの手を引いてテーブルまでやってきた。
「「おはよう(なのです)」」
「おはよう、朝食出来てるよ」
俺達は食卓を囲み、各々が食事を食べ始める。
ミレーユは一口食べて固まる……。
「エル……」
凄く真剣な表情で俺を見つめてくるミレーユ。
「ミレーユどうしたの?」
「この2年間で腕上がりすぎでしょ!」
まぁ、2年前は母さんがいたし、作る機会も今より少なかったからスキルレベルが6ぐらいだったしな……。
「そう? ミレーユに褒められると嬉しいなぁ」
俺は褒められ笑顔で応える。
「私の胃袋は完全にエルに掴まれたわ……不覚……女として……」
ミレーユは酷く落ち込んでいるが、別に料理ぐらい俺が作るけどな。女性が作らないといけないルールなんてないしな。
「お兄ちゃんの料理は絶品なのですっ!」
フレアも俺を褒めてくれる。
「うんうん、そうだろ? お兄ちゃんはフレアの専属シェフだからな! そうそう、近いうちにフレアは冒険者ギルドに一緒に行って登録してもらうよ。10歳から登録出来たはずだし」
「していいの!? やったぁっ!」
俺達は今日中に旅に出る予定だ。目の見えないフレアはずっと家にいたし、いつも俺の話を聞いては「外に出て冒険したい」と言っていたからな……まぁ、俺が王都に居ずらいのもあるが……。
今ならミレーユもいる。道中の魔物ぐらいはなんとかなる。
夢を叶えてやりたい。見えなくても俺が大袈裟に話してやるつもりだ。
しかし、連れて行く前にフレアには言っておかなければ……。
「……ただ──冒険者ギルドでは俺の活躍ぶりに嫉妬している連中がたくさんいるんだ……だから向こうでお兄ちゃんの悪口を聞いても信じたらダメだそ?」
「うんっ! 約束するっ!」
これで、何かあっても大丈夫だろう。フレアは俺の言いつけはしっかり守ってくれるからな。
「エル……」
ミレーユは冒険者ギルドで起こるであろう事を想像しているのだろう。沈んだ表情だ。
「ミレーユがいれば俺は頑張れる」
「そうよ、大船に乗ったつもりでいなさいっ!」
頼もしい。ミレーユがいれば俺はどんな事があっても乗り越えられる。
和気藹々と食事の時間を過ごした。
朝食を終えた俺とミレーユは冒険者ギルドに向かった。フレアの登録はミレーユの提案で後日にする事になった。
──到着し、扉を開ける──
一瞬にして場がざわつく。
ミレーユを知っている人は多い。なんせ2年前の王都で最強パーティ『銀翼』メンバーの1人だからな。
一応俺もなんだけど、父さんと母さんの子供だから付き添いのイメージが強く、出来損ないの子供とよく噂されている。
「お姉ちゃんっ! 生きてたのね!」
レーラさんがミレーユに気付き──
走り出して目の前に寄ってくる。
ミレーユは微笑を浮かべる──
俺は久しぶりの姉妹の再会だし、きっと喜び合うだろうと思ったが、ミレーユの顔を見て驚く。
これは……ミレーユが怒っている時に良くする笑顔だ。
──レーラさんが目の前に来た瞬間、平手打ちをする。
パァーン──
とその音がギルド内に響き渡る。
「おねえ……ちゃん?」
レーラさんは頬を抑えて、何が起こったのか理解出来ないようだった。
「レーラ……貴女には幻滅したわ。後──そこにいる受付嬢共と、そこの5人──私のエルを傷付けた事を後悔させてやるっ!」
ギルド内は一気に冷気に包まれる。
ミレーユはSランク冒険者だ。通称『冷笑』のミレーユ。
【氷魔法】の上位魔法である【氷結魔法】の使い手だ。
魔物を凍らせながら進む、その姿は──
冷笑を浮かべていた事からついた二つ名だったりする。
今のミレーユは俺も超怖い……。
逆らえば氷漬けにされるだろう殺気も上乗せされているからね。
この状態のミレーユには何を言っても無駄だと知っている。このまま見守ろうと思う……。
「何の騒ぎだ──!? ミレーユっ! 生きていたのか!?」
魔力の異常に気付いたギルドマスターのマッチョさんが訪れる。
見た目はスキンヘッドで筋肉もりもりの世紀末に現れそうな風貌をしている。
「あら、マッチョ。まだギルドマスターしてたのね? 私のいない2年間──ここは掃き溜めになったのかしら?」
ギルドマスター相手でも引く気配のないミレーユ。
「久しぶりだというのに随分な物言いだな──」
対するマッチョさんも威圧する。
場の空気がヤバい……フレア連れて来なくて良かった。
「黙りなさい──まず、そこにいる受付嬢全員、エルの報酬を半額以下にしていたわね?」
「「「なっ!?」」」
周りがざわつき始める。
ギルドマスターのマッチョさんは受付嬢全員を射殺すように見詰める。
レーラさんも驚いた顔をしている。知らなかったのか……。
「そして──そこの5人とそこの受付嬢は結託してエルの家を襲撃して金を取って行ったでしょう?」
男共を睨みながら言葉を発するミレーユは答えを間違うと氷漬けになるだろう事が予測出来る。
「お、俺はこいつに魔法使われて迷惑料貰いに行っただけだぜ? ──両足が!?」
口を挟んだ襲撃した男達の足は凍る。
うん、思った通りになったな。
「誰が話せと言ったかしら? 私は一部始終見ていたわ。家に魔法を放って強盗まがいの事をしていたでしょう? そこの受付嬢に場所を聞いて迷惑料貰いに来たって言っていたわね? それにギルドではエルは殴りに来た貴方の攻撃を結界で身を守っただけでしょう? どこが迷惑なのかしらね? しかも、剣でスキルまで使って斬ったのにギルドは全く処罰も無し──これのどこが掃き溜めではないと言うのかしら? ねぇマッチョ?」
マシンガントークのように普段見せない話し方で言葉を発し続けるミレーユ。
「……本当なのか?」
殺気を出し始めるマッチョさん──その矛先はギルド職員と5人の襲撃者に向けられる。
「当然。そこにいる低ランクの人達に聞いてみたら?」
「お前ら──向こうの部屋に来い。お前ら審議官連れてこい」
男性職員が走って呼びに向かう。
しばらくすると、1人の男性が連れてこられた。
審議官──それは【真理】スキル所持者が嘘かどうかを見極める人の事だ。
おそらくこれから別室で質問されていくのだろう。
だが、この場はまだ収まってない。
「さて、レーラ」
「はい……」
ビクッとミレーユの言葉に反応するレーラさん。
「私はエルをサポートするように頼んだはずよね?」
「はい……」
「なのにこの状況はなんなのかしらね?」
「……ごめん……なさい……」
「大方ろくに調べもしないで決めつけていたんでしょ? エルは将来性が無いとでも思ったのかしら?」
「……」
もはや、感動の再会どころではない……この空気にレーラさんだけでなく、俺も押し潰されそうだ……。
「……そう。貴女に見る目は無いわ。エルは──必ずこの先有名になるわ。私がいない間に彼女にでもなってたら良かったと思うぐらいにね」
「……」
レーラさんは目に涙を浮かべる。
気持ちはわかる。今のミレーユ超怖いからな!
「指を咥えて見ていなさい。──そろそろ審議は出たかしら?」
ミレーユはレーラさんとはこれ以上話すつもりはないようで、マッチョさんに話しかける。
「……あぁ、黒だ」
「なら──わかってるわね?」
一気に今まで以上に部屋が冷たくなる。
「わかっている……だから魔力を抑えろ。お前ら5人とそこの受付嬢達は奥の部屋に来い」
「何で俺らが行かねぇとダメなんだよっ!」
男共は武器を各々抜き放ち、氷の束縛から逃れる。
すかさず俺は【結界魔法】を使って閉じ込める。
「またてめぇかっ! ぶっ殺す! ──なっ!?」
「これは──エルか?」
マッチョさんは驚いた顔で俺を見る。
「そうです。『睡眠』──こいつらを早く連れて行ってくれませんか?」
今回は即席で作った結界を破らせる前に【睡眠魔法】を使う。
「おぅ……」
「どうかしましたか?」
「その態度を見てると、アランを思い出すなって……まぁ、あいつはもっと容赦が無かったけどな」
「そうですか……」
父さんか……父さんならどうしたんだろうか?
きっと血祭りにしたかもしれないな……優しかったけど、血の気は多かったし……。
「さぁ、エルっ! パーティ申請するわよ? 早く来なさいっ!」
先程のミレーユとは一転し、いつものミレーユに変わる。
周りは態度の変わり身の早さに驚愕していた。
俺は苦笑しながらミレーユの元に行く。
予想外の出来事だったけど、なるようになったかな?
「パーティ名はどうしますか?」
レーラさんが申し訳なさそうに俺に聞いてくる。
「──『白銀の誓い』──です!」
俺はそう答え、ミレーユを見詰める。
ここからが──
俺の始まりだッ!
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