第4話 唯一の理解者
俺が落ち着いた所でミレーユに話しかける。
「夢──じゃないんだね?」
「夢じゃないわ。エル……今までよく頑張ったわね……」
ミレーユの言葉に報われた気がした。
「ミレーユ……俺頑張ったんだよ……でも─」
「言わなくていいわ。私は王都に帰って来てから、しばらくエルの様子を見てたから大体は知ってるわ……レーラには後でお仕置きしとくわね?」
「もしかして、フードの人?」
思い当たるのはその人しかいない。それにそのフードを纏っている。間違いないだろう。
という事はここ1ヶ月ぐらいという事だろう。
「そうよ。先に伝えておくわ──『銀翼』で生き残っているのは私だけよ……」
「……そう……なんだ……」
「……私だけ生き残ってごめんなさい……」
俺は首を横に振る。
「ミレーユだけでも生きていて良かったよ……そりゃあ父さんと母さんの事は残念だけど、銀翼のメンバーが全員死んでたと思ってたからさ……」
「そう……」
「父さんと母さんの最後教えてもらってもいい?」
軽はずみに俺が言った言葉にミレーユの表情が暗くなり、強張る。
「……そうね──「やっぱりいいや」──何故?」
「ミレーユ……震えてるよ? 思い出したくないでしょ? だから──いつかで大丈夫っ!」
少し考えて話そうとするミレーユは震えていた。きっと思い出したくないぐらいの目にあったんだろう。
別に今聞けなくてもいつか聞けたらそれでいい。
「強くなったわね……」
「強くなんかないよ……あの頃と何にも変わってない……弱いまんまだ……」
本当弱いままだ……2年前と変わったのは攻撃系スキル以外が成長したぐらい……皆がいた頃のような明るさも無くなった気がする。
「そんな事をないわ。昔のまま──変わらず優しいまま育ってくれてアランやキャロルもきっと喜んでるわよ」
「そうかな……誓いは守れてないよ?」
英雄なんかなれていない。いや──俺にはなれない。
「あれは皆が貴方に生きる勇気を与える為に言った事よ……気にしなくていいわ……この1ヶ月ちゃんと見てたって言ったでしょ? 少しは信じなさいよ」
何を見てたんだろう?
「う、うん……」
俺は疑問に思いながらも返事する。
「冒険者ギルドの依頼ってね? ランクが低いと雑用ばっかりでしょ?」
「そうだね……」
確かに家のお手伝いやから始まり、前世であるような日雇いバイトみたいな仕事ばっかりだな。
「そういう仕事って新人の頃以外はしないんだ……だから、進んでそれをしているエルは偉いんだよ?」
「ランクが低いし、弱いからやってただけだよ……」
そう、俺は皆を待つと言い訳して、固定のパーティを組まずに戦闘を極力避けて1人で出来る依頼ばかり受けていた。
「それは違うわ。エルは魔物討伐しようと思えば出来たはずよ? 昔私達に見せてくれたじゃない? 貴方は──『銀翼』が守ったこの街を影から守っていた。そうでしょ?」
「……なんでそう思うの?」
「……だって、防壁の修繕なんて何回もやらないわよ? 他にも街の為になる仕事ばかりしてたし、教会で治癒してたのも見たわ。それに最近流行り病があったでしょ? その為にずっと薬草ばっかり納品してたんでしょ? イザベラのいる孤児院にもアラン達が残したお金を寄付してたみたいだし……」
「……」
ちゃんと見てくれてる人がいたんだ……。
「ほらっ、泣かない……エルのお陰で助かった人達はきっと英雄だと思ってるわ」
ミレーユはそっと頭を撫でてくれる。
「ありがとう……」
「私だけはちゃんと味方でいるわ。だから卑下しないで?」
昔と変わらない優しさに胸が熱くなる。
「……うん……ミレーユさ……お別れの時──お嫁さんになってくれるって言ってたよね?」
俺は変わらないミレーユが愛おしく、約束していた事を思い出して聞く。
「……そうね……だけど……私なんかより、もっと良い子がいるでしょ? 私が見てる限りだとモテてたわよ?」
「俺はもう今年成人した……ミレーユ……俺は昔から変わらず、ずっと好きだ」
「……ありがとう……私も優しいエルが好きよ……だけど……もう私の体は綺麗じゃないわ……」
フードを捲るミレーユ。
片腕、片足は無く──
氷魔法で作った義手、義足をしていた。
更に服を脱ぐミレーユを見詰める。
白く綺麗だった肌は顔だけじゃなく、大火傷の後が痛ましく残っていた。
ミレーユも年頃の女の子だ……きっと辛いだろう……きっと、俺との約束もあったから直ぐに会うのを躊躇ったに違いない。
「ミレーユ……」
「これを見てもお嫁さんにしたい?」
「もちろん。ミレーユはミレーユでしょ?」
俺はそんなのは問題ないと自信満々に答える。
涙目になるミレーユはそのまま言葉を紡ぎ出す。
「……こんな私じゃ無理だよ……新しい子を探して──「ミレーユっ」──なに?」
俺はミレーユの胸に手を当て魔法を使う。
「──『回復』──」
俺の【回復魔法】スキルはレベル10だ。フレアを治す事は出来なかったが──
──通常の部位欠損ならレベル9で治せる。
「こ、これは────」
失った片腕と片足は盛り上がり──
逆再生するように再生していく。大火傷も完全に消えて、綺麗な肌になっていく。
この世界でもこれだけの事が出来るのは俺の知る限り、俺と──母さん、そして今代の聖女と呼ばれる人だけだろう。
まさしく神の身技だ。
驚いた顔で自分の体と俺を交互に見るミレーユ。
「ミレーユ……今度は俺が言うよ。自分を卑下しなくて良い──気になるなら、これからいくらでも怪我をしたら治していく。だから俺のお嫁さんになってくれないかな?」
「エル……ありがとう──エルは私の英雄よ……」
涙を流しながらミレーユは俺を抱きしめてキスをする。
唇が離れ──
「こちらこそ──ありがとう」
そう言いながら、俺も満面の笑みを浮かべて抱きしめ返す。
父さん、母さん……心は一度折れたけど、ミレーユのお陰で俺はまだまだ頑張れそうだよ……。
俺は父さんみたいな英雄にはなれないし、なれる気はしない。
ミレーユの英雄でいれればそれで良い。
これからは英雄に拘らず──
自由に、そして幸せになれたらそれで良い。
「ミレーユ……明日、冒険者ギルドに一緒に来てくれ。パーティ申請するよ。パーティ名は──『白銀の誓い』──だ」
「ふふっ、良いわよ? 『銀翼』の皆もエルの門出を祝っているわ」
俺を見ながら再会して心からの笑顔を見た気がする。
「何で笑うんだよ……」
「忘れたの? 銀翼の正式名? 『白銀の翼』よ?」
そうだった……白銀は父さん、翼は母さんってい意味だったな……。
父さんは母さんがいるからどこまでも羽ばたける──そう言っていた。
『白銀の誓い』といえば──最後の皆の誓いを思い出すな……少し安易な気もするけど、しっくりくるんだよな……。
「そうだったな……無意識に思いついたから気付かなかった……」
「似た者親子ね? 誓いにはどんな意味があるのかしら?」
「ミレーユとずっと一緒にいるって誓いだよ」
「恥ずかしいわね……」
「言ってる俺も恥ずかしい……」
「でも、悪くないわ……私も誓う……エルといつまでも共に──」
俺達は見つめ合い──再度キスをすると──
「ふわぁぁ、おはよう……!? ミレーユの匂いがするのですっ!? お兄ちゃん! ミレーユいるのです!?」
フレアの目が覚める。ミレーユの存在もわかっているようだ。
この後、夜遅くまで昔話に花を咲かせて3人で談話した。
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