第3話 再会
俺はあの後、何事も無かったように帰宅する。
「フレア──ただいま」
「お兄ちゃんっ! おかえりなのですっ! 血の匂いがする!? 怪我してるのです!?」
フレアは生まれつき目が見えない……なので血の匂いで俺が怪我をしたかどうかを察している。
「擦り傷だから大丈夫。ちょっと、魔物と戦っただけだよ。今日もお兄ちゃんの勇姿を教えてやろう──」
しばらく、大袈裟に俺が活躍した出鱈目なお話をフレアにしてあげる。
心配はかけたくない。だから俺はいつも嘘を吐く。
母さんは茶色い髪の毛だったが、フレアと俺は父親に似て銀髪で瞳は茶色だ。
フレアは最近髪の毛が伸びてボブカットだ。母さんの面影が少しずつ出て来ている気がする。将来はきっと美人になるだろう。
フレアは父さんと母さんの事をほとんど知らない。
どれだけ凄い人だったのかを俺が教えている。これは嘘じゃなく実際に見た事をそのまま伝えている──その為、フレアは何故か俺も凄い冒険者だと思っているようだ。
丁度、出鱈目なお話も終わる。
「──お兄ちゃん凄いのですっ! 私も見てみたいですっ!」
「……そうだね。お兄ちゃんがいつか目を治してやるからなっ! 必ずだ──お兄ちゃんは凄い奴だって尊敬させてやるぞっ! なんせ父さんと母さんの息子だからなっ!」
元聖女である母さんは【回復魔法Lv9】だった。それでも治せなかった。だから俺はこの2年間使い続けて【回復魔法Lv10】にまで上げた。
だが、どんな怪我でも治せたが──生まれついて見えない目の治療だけは出来なかった……いつか方法を見つけて治してやりたいと思っている。
「うんっ! 約束なのですっ!」
元気よく返事をするフレアは可愛いな……今日あった事が吹き飛びそうだ。
そんな時──
【危機察知】スキルが発動する。
直ぐに【結界魔法】を直ぐにフレアと俺を中心に張る。
爆発音と共に家の扉が吹き飛ぶ。
おそらく──攻撃魔法。
【気配察知】スキルを使う。
敵は──5人……。
部屋に入って来たのは先程の冒険者ギルドで揉めた男とその近くにいた男共だった。
「──『睡眠』──」
俺は直ぐにフレアを【睡眠魔法】を使って寝かせる。
「よぉ、慰謝料貰いに来たぜ?」
「……」
「おいっ! 無視とはいい度胸だな? 早く金を出せっ」
わざわざ家にまで来て強盗とは恐れ入る……。
「……何で俺の家を知っている?」
「受付嬢がペラペラ話してくれたぜ? お前たんまり金を溜め込んでるんだってな?」
本当、この王都のギルドは大丈夫なのだろうか? 守秘義務もクソも無いな。
「……これで全部だ……」
側にフレアもいるので争いにならないよう、小袋を投げ渡す。
「ほう……金貨10枚か……良いだろう、今日は見逃してやる」
そう言いながら男達は去っていく。
俺は溜め息を吐く……。
あいつらはまた来るだろうな……。
はぁ……最近ついてないな……。
しばらくすると、【気配察知】スキルに反応がする。
誰だろうと入口を見ていてるとレーラさんだった。心配して来てくれたようだ。
「エル君っ!?」
とりあえず事情を話そう。
「レーラさん──「ギルドで魔法使ったって聞いたわよ? そんな事したらダメじゃない! 弱いんだから争い事しても良い事なんて無いよ?」──…………」
俺の言葉はレーラさんが言葉を被せるように話してかき消される。
弱いんだから──
その言葉が胸の奥に突き刺さり、俺は言葉が出せなくなる。
おそらく、事情を聞きつけて、ここに来てくれたんだろう……だが、あの場に俺の味方はいなかった。
出鱈目な情報を教えられたに違いない……そうじゃないと第一声がそんな言葉になるなんて考えられない。
レーラさんはきっと俺の悪い噂ばかり聞いているはずだ。
少し前にオーガと言われる鬼顔の魔物をなんとか倒した時に討伐部位を持って行ったら見栄を張る為に買ってきたと思われたぐらいだ。
それに昔に比べると態度が冷たい……。
俺を信じてくれる人は王都にいるんだろうか?
もう、無理だ……。
俺がここで生活するのが……。
「レーラさん……もう帰ってもらっていいですか?」
「なにを──「いいからっ! 早くっ!」──また来るわね……」
俺は普段大きい声は出さない。そんな俺の普段見せない姿を見たレーラさんは怒りながら去って行く。
俺は俯いたまま涙を流し続ける。
涙はもう、流さない──
そう決めたけど、ミレーユの面影があるレーラさんに言われると涙が止まらない。
父さん……母さん……ゾッホ……ブレッド……ミレーユ……皆の顔が見たい……。
──また頑張る為に勇気が欲しい。
特に今はミレーユの顔が見たい……。
ミレーユ──
会いたい──
俺の初恋の人──
今でも俺に微笑みかけてくれる顔が忘れられない。
ミレーユ、ミレーユ、ミレーユ、ミレーユ──
「ミレーユ……ミレーユ……会いたいよぉ……もう、疲れたよ……」
「エル──」
ミレーユの声?
嘘だ──
ミレーユは死んだんだ。父さん達と一緒に……。
「エル──」
また聞こえる。
俺は顔を上げる。
そこには酷い火傷の顔だが、綺麗なさらさらな金色の髪の毛をなびかせているミレーユがいた。
「ミレーユ?」
本当に?
「そうよ?」
「嘘じゃない?」
生きててくれたの?
「なら、私は誰なの?」
微笑みかけながらも揶揄うような言い方に、心がグッと込み上げてくるのを感じた。
「本当にミレーユ? ミレーユ……ミレーユっ!」
俺は居ても立っても居られなくてミレーユを抱きしめる。
「エル──ただいま」
ミレーユの顔を見ると、いつも俺に向けていてくれた笑顔があった。
「おか……えり……ミレーユ──」
俺は涙を流しながら昔のようにミレーユと叫び続ける。
「甘えん坊なのは変わらないわね?」
ミレーユも久しぶりの再会が嬉しいのか微かに涙を浮かべていた。
「うわあぁぁぁぁぁん──」
しばらく、空白だった2年間を掻き消すように俺の鳴き声が響き渡った──
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