第2話 追放から2年後

 父さん達が俺の前から消えて2年が経ち、15歳になった。


 俺はあの後、両親が残してくれたお金で食う事に困る事はなかった。まぁ、そのお金も最低限残して、知り合いの孤児院にほとんど寄付してたから生活をする為にも働いている。


 皆との約束を放棄したわけじゃない。


 最近では冒険者もちゃんとやっている。


 俺の冒険者ランクはS~Fまである下から2番目のEランクだ。元はCランクだったが──


 最近とある事件と低い依頼ばかりしていたらランクを下げられてしまった。


 実際の所Cランク相応の強さがあるかと言われると無い。だからランクを下げれてもそんなに気にはならなかった。


 そんな実情ではあるが、毎日少しずつ依頼をこなしている。


 だが、周りの俺への評価は低い。


 王都最強パーティ『銀翼』の英雄アランと聖女キャロルの子供の癖に才能の欠片も無いと裏では良く言われている。


 俺がパーティで幼いながらもいれたのは父さんと母さんがいたからだけじゃない。


 ユニークスキル【】があったからだ。そして、日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っている。そのお陰でこのユニークスキルを活用出来た。


【応援】──それは他者の力を強化する力だ。


 そして、デメリットとしては自分自身が攻撃スキルや攻撃魔法スキルを習得出来ない。


 なので、俺は完全サポート特化だったりする。


 この2年間、臨時パーティに入れてもらっては応援ばかりしてきた。


 その甲斐があって最近やっと【応援Lv5】まで成長出来た。


 スキルには一般スキル、上位スキル、ユニークスキルの3種類で、レベルの有るのと無いのがある。スキルレベルが表記されているのは10段階あり、上がれば上がるほど強力になっていく。


 スキルLv1は駆け出し

 スキルLv2は駆け出し

 スキルLv3は見習い

 スキルLv4は見習い

 スキルLv5は一人前

 スキルLv6は上級

 スキルLv7は特級

 スキルLv8は免許皆伝

 スキルLv9は人外

 スキルLv10は神


 こんな感じだと俺は認識している。


 つまり、応援に関しては一人前になったと言う事だ。


 ただ、正式にパーティを組んでいないから一人で採取依頼を受ける事が多い。


 サポート職はあまり重要視されていないのが現状だったりする。


 なので、今日も薬草を探している。


 こんな事を続けて、皆との約束は守れるかはわからない……だけど、出来る限りの事はやっていこうと思う。


「さぁ、今日も薬草とりまくるぞぉ~! 【鑑定】っ!」


 その辺に生えている草を【鑑定Lv9】を使いながら見ると俺の視界には薬草かどうかの情報が表示される。まるでゲームのようだ。


 鑑定のレベルが9なのは薬草採取の成果だろう。一生かかってもレベルが10になる人は少ない。だが俺は鑑定だけでなく、他のスキルもいくつか熟練度が高レベルだったりする。戦闘以外のスキルだが……。


 これも【応援】スキルの副次効果だと思う。攻撃以外のスキルは習得出来るし、熟練度が上がりやすい気がする。丁度、今【鑑定】のレベルが10になった。


 とても便利だ。このお陰で贅沢しなければ冒険者をしなくても食っていけるだけの稼ぎはあったりする。


 目に映る範囲の薬草を採取に集中していると、【危機察知】スキルが警鐘を鳴らし、何かが近付く気配がした。


 しまったな……いつもは【索敵】スキルを使いながらしているのに今日は忘れていた。


 俺は振り向く。


 そこにいたのはゴブリンと言われる緑色の醜い顔をした子供ぐらいの魔物だった。


 数は5匹。


 護身用に剣は一応持っている……だが、【剣術】スキルの無い俺には討伐出来たとしても1匹が限界だ。


【剣術】スキルがあれば何匹かは倒せるかもしれない。スキルの有り無しは大人と子供ぐらいの違いがある。


 一応、倒そうと思えば倒せるが危険を犯して倒す必要もないと即座に逃げる判断をする。道具とか使えば余裕だろうけど、無限にあるわけじゃないしね。


 それに、まだ10歳になったばかりの妹がいるからな。逃げるだけなら問題はない。それぐらい常に危険からは逃げている。



 俺は【結界】スキルをゴブリンを近付かせないように張り巡らせる。


【索敵】スキルも使いながら走り出す。


 近くに魔物はいない──


 だが、近くに人はいる。


 俺は迷子かと思い、その人のいる方向に近寄ると、視界に入ったのはフードで身を隠している人だった。


 この人は最近、外で依頼をこなしていると見かける人だったりする。


「ゴブリンが近くにいるから帰った方がいいですよ」


 俺はそう走りながら告げて、その場を後にした。




 しばらく、歩き続けると王都に到着した。


 俺は門番さんに冒険者証を見せて中に入ると声を掛けられる。


「おっ、エル、今日も薬草採取か?」


 声をかけて来たのは2年前に王都に来た人で今、名を上げている女性ばかりのAランクパーティ『紅』のリーダーであるカレンさんだ。


「えぇ、下積みは大事ですからね」


「なら明日狩りに行かないか? 丁度、オフで暇なんだよ」


 カレンさんのパーティには俺が助っ人に入ったパーティの一つで、たまにこうやって見掛けたら個人的に狩りに行こうと誘ってくれる。


 いくつかこういうパーティや人はいるのだが、それは俺の有用性に気が付いた人だけだ。


 基本的に後ろの方で援護している俺は役立たず認定されている事が多い。



「明日は用事があるのでまた誘って下さい」


「そうか、残念だ。また行こうな」


「はい、またよろしくお願いします」


 そうして、別れた後は冒険者ギルドに到着した。



 扉を開けて入り、受付に視線を移す。

 今日は受付嬢のレーラさんがいなくて溜め息が出た。


 いないのは仕方がないので、そのまま受付に向かう。


「査定よろしくお願いします」


「はいはい、また薬草なの? たまには魔物狩ってきたらどうなの? あんた男なのに採取ばっかして──」


 俺に対する小言が査定中ずっと続く。


 レーラさんがいれば滞りなく終わるのに…… 。


 レーラさんは『銀翼』にいたミレーユの妹で俺の事を頼まれているようでよく面倒を見てくれるし、俺にもまだ優しく接してくれる。


 他の受付嬢だと路肩の石を見るような目をされたり、こうやって嫌味ばかり言われるし──


「はい、銀貨1枚」


「銀貨2枚のはずですが?」


 こうやって、


 俺は一応、正当な金額を伝えると──


「ぐっ──」


 横腹に激痛が走り、そのまま吹き飛ばされる。


 俺は顔を上げると知らない冒険者がいた。


「文句言ってないで、さっさと報酬受け取って帰れ! 俺は疲れてんだよっ! お嬢ちゃんが困ってるだろうがっ! あ? なんだその目は? お前は──Eランクか? Bランクである俺に逆らうのか? このゴミ屑がっ」


 俺の冒険者証を見て横柄な態度で見下す冒険者の男。

 いつもはこんな事態になっても、レーラさんや知り合いの冒険者が助けてくれるが──


 今は周りに見知った人は誰もいない。見た顔はいくつかあるが皆、低ランクの人だ。その為、触らぬ神に祟りなしという感じで静観している。


 俺が吹き飛ばされた事に歓声も上がっている事から、俺の事をよく思っていない連中ばかりのようだ。


 受付嬢も本来であれば止める立場ではあるが、止めるどころかニヤニヤと笑っている。


 王都には優しい人も確かにいる──


 だが、これだけの悪意が身近に向けられていると、俺の居場所はここに無いのかもしれないと思ってしまう。


 父さん達が守ったのはこんな奴らばかりじゃないと信じたい。



 俺は立ち上がり、無言で立ち去ろうとすると先程の男が更に追い討ちをかけようと殴りかかってくる。


 それに対して即席の【結界魔法】を発動し、身を守る。


 男の拳は結界に遮られ、鈍い音がする。


「ぐがぁぁっ、許さん──」


 男は腰にある剣を抜き──斬りかかってくる。


 おそらくスキルもいくつか使っている。


 即席の結界ではスキルを使われた攻撃は防げない──


「──!? 痛っ……」


 そう思っていると、結界は紙のように切り裂かれ、俺は胸を斬られ出血する。


 その場を流血しながら倒れると、男は俺の顔を踏みつけてくる。


「雑魚がっ、調子に乗ってるからそうなるんだよっ! この金は迷惑料代わりに貰っておいてやるよっ!」


 男はそのまま俺を引きずりながらギルドの外に放り投げて、中に戻って行った。


 中からは嘲笑うように笑い声が響き渡る。


「……『回復』──」


 【回復魔法】を使って俺は立ち上がり、【疾走】スキルを使い──


 帰宅した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る