8話 月食


「11月19日確定損益:1,219,530円」


いつものように夕食後、満は自分の部屋で本日のトレード記録をスプレッドシートへ携帯で入力していた。


斎藤茜と出会った後、どうもTwitterを開く気になれなかった。「斎藤茜は周りに言いふらしてないだろうか・・」

周りに「自分がカリスマトレーダーのtakayanである事」が、バレないか気になってしょうがなかったが、「茜との数分の出会い」を思い出せば思い出すほど、無意識内で、茜に対しては安心している自分がいた。


満は1週間ぶりにTwitterを開いた。


そこはいつものTwitterの世界だった。


Twitterに短くコメントした。

「 12/19 +121 」


すると、いつものように続々と「いいね」と「コメント」達が現れ始めた。


「すごい!」「121万!」「俺の給料の4ヶ月分、、」「裏山」「さすがtakayanさん」...


「いいね」も3分で、既に254件ある。


いつもは「コメント」も「いいね」もほとんど見ないが、今日は誰が良いねを押してるかを確認してる自分がいた

(誰が誰だか何も分からなかったが)


〜〜〜〜〜〜


《同日同時刻》


施設のみんなと夕食中、ニュースでは


「今夜12年ぶりの皆既月食です」


その後施設のみんなと、月食で盛り上がった。去年施設に来た7歳の千恵子ちゃんからは「あかねちゃん、げっしょくってなぁに?」と、聞かれた。


「月がかくれちゃうんだよ」と茜は答える。


「つきってはずかしがり屋さんなんだね」(千恵子ちゃんはいつも通り可愛かった。。)



茜は、施設のみんなとの夕食後、いつものように、自分の部屋でスタディサプリで受験勉強をしていた。


この1週間、茜はTwitterを開かなくなっていた。先日のtakayanとの偶然の出会いを思い出しては、takayanに逢えた偶然を微笑んで、余韻に浸るも、「良き思い出の一つ」として、心に留めてしまう「のみ」であった。



Twitterの画面を開こうとしたけど、やっぱりやめた。



そして、スタディサプリに戻った。



窓の外を見ると、いつもはある場所の月が、三日月の上弦だけ残して、徐々に隠れていく様子が見てとれた。


しばらく見つめていると、上弦の小さくなっていく部分は、徐々に、徐々に、消えていった。



どれくらい眺めていたのだろう



完全に消えてしまうその瞬間は、まるで美しいバラードを聴き終えた直後の心に微かに残る余韻のように、とても幻想的で、茜の心が氷解されていくような気さえした。



月は完全に隠れてしまった。。。


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