7話 児童養護施設
明正高校
都内偏差値トップの公立高校。偏差値は69で、毎年30名以上の東大生を輩出する名門校である。
斉藤茜はその中でも、成績は常に上位20位以内につける優等生である。
そんな茜には家族がいない。
茜は現在「ユートピアの木」という児童養護施設にて生活している。両親は4歳の頃に死別し、一人っ子の茜はそのまま流れるようにユートピアの木に辿り着いていた。
茜にとって両親がいない事は、別に悲しい事ではなく、幼少の頃からの事なので、至極当たり前の事だった。
小2の時、仲の良かった親友にその事を打ち明けたら、親友とその親御さんに同情され、気を遣わせてしまった事が申し訳無かったので、他人に打ち明ける事はもうやめた。
ここまでの人生、普通の青春を送り、それなりに楽しかった。もし仮に、個人の青春度合いを数値化できる機械で茜を測定したら、「青春偏差値48」ぐらいはあると思う
ただ、家族がいない。
寂しいと思った事は無いけれど、周りの話を聞いてると、「いたらこんな感じなのかなぁ」と想像する事はよくあった。
ただそれだけの事であった。
茜は明正高校入学後、小さな趣味があった。Twitterの「takayan」のアカウントを見る事が大好きだった。株の事は全然分からなかったし「恐らく若い男子」という事以外は一切不明だったが、takayanのtweetが大好きだった。
takayanは、世の中へのメッセージや悪口などは一切無く、ただ好きな株について黙々とつぶやくだけなのだが、文章の句読点であったり、写真の撮り方であったり、優しさと孤独さを併せ持つ感じが、子猫のようで、たまらなく好きだった。
いつからか、日常でもtakayanを探してる自分がいた。自分の高校の近くの下北沢によく現れる事は分かっていたので、takayanのよくいく古着屋、ファミレス、カラオケなど、理由をつけては友達と通った。
意識はしていなかったが、無意識ではもうルーティーンになっていた。友達と遊ぶ時はほとんど下北沢だった。
ある日の帰り道、あの日の事は多分一生忘れない。
あの日は下北沢でカラオケにいってたんだっけ。
カラオケからの帰り道、友達と別れた後、物凄いスピードで後ろから自分を抜き去る、若い男子高校生がいた!!
後ろ姿なのに、なぜだか心の中で「追っかけなきゃ」という声がしたような事を今でも覚えてる。
体は自然と男子高校生を追いかけた!男子高校生は幸いこちらには気づいていなかったが、徐々にゆっくりと、そしてついに立ち止まった。
周りをキョロキョロしていた。
優しそうな瞳に丸顔の童顔。
(takayan!?)
いつかの、takayanのTwitterで、ガラス越しに映ってた、あの顔だった。
(話しかけたい)
・・とはいいつつも、全くの他人だったら恥ずかしすぎる、、、
2〜3分程、茜は右往左往していた。
takayanは携帯を取り出し、何やら打ち始めた。
その時、自然とtakayanに話しかけてる自分がいた。
「あ、あのーtakayanさんですか?」
知らない人にこんな風に話しかけるのは始めてだった。
(それがtakayanで本当に良かった)
・・そこからの記憶はほとんどない。
ただ覚えてるのは、私と話してる時のtakayanが驚きながらも、少し悲しそうな顔をしていた事と、帰りの夕焼けが赤紫色で、とても綺麗だった事ぐらいだ。
「会えたのは今日が最初で最後」
そう実感したのは、赤紫色だった夕焼けの色が紫色になってた頃だった。
・・・・
「おかえり」
ユートピアの木に着くと、山田さん(施設長)とピーコ(猫)が、今日も優しく出迎えてくれた。
「ただ、それだけの普通の日」
夜、ベットの上で、そう自分に言い聞かせては、眠りについた。。。
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