2話 株
トレーダー・・・売買を繰り返す証券投資家。
デイトレーダーという言葉ならきっと皆さんも一度くらいは聞いたことぐらいはあるであろう。
早い話「株の売買で金を稼ぐヤツら」だ。
僕がこの世界にハマる事になったきっかけは5年前の、父からの何気ない一言だった。
「満、ジュニアNISAとやら始めたからお前この中から好きなの選べ」
意味分からなかった。
ジュニアは子供という意味なのだろうが、NISAってなんだ?そもそも読み方分からん。父から渡されたパンダ証券のパンフレットをパラパラめくると、利回り◯%とか、運用成績とか書いてあったので、お金の話なのは大筋分かった。それよりもパンフレット表紙のAKD48の山田茜ちゃんの方が興味があった。
数日後、カレーを頬ばりながら父が言った「満、どの株にするのか決めたか?」
忘れてた。。
山田茜ちゃんのパンフレットにある「金融商品とやらを、一つ選んで父へ報告する」という宿題が父から課されていた事を。
満はこういう時、上手くやり過ごすタイプだ。
「あ〜考えたよ、これにするよ」そういって満は「自動運転 次世代型米株ファンド」という名前を指差した。
・・・
とある日曜の午後、満は悩んでいた。
最新のスマホ機種「ユーフォーン11をどうしても手に入れたかった」から。
満はユーフォーンには強いこだわりがある。創業者のスティーブンジョセフが大好きで、彼のデザインしたユーフォーン5Sを中1から3年間使っている。
しかしジョセフが亡くなってから、ユーフォーンの最新機種には興味が無くなっており、次スマホが壊れたら別の安いスマホに変えようと思っていた。
そんな矢先に発売されたユーフォーンSEは、なんと満の持っている5Sと同じ型、すなわち「もう世に出まわる事の無いと思っていたジョセフモデル」であったのだ。これはマニアからすると購買必須案件である。こともあろう事に、こんな時に限ってお金に余裕が無いのである。
先月人間関係の疲れからカラオケ歌公園のバイトを辞めており、満の貯金は底をついていた。
「!」
満は思い出した、3年前に父から山田茜のパンフレットを見せられ、自動運転なんちゃらという商品を買わされた事を。その話を補足すると、実は満が幼少期から全額貯金して貯めていた「お年玉60万円」で自動運転なんちゃらを買っていたのだ。
・・・「父から買ってもらってない、俺の小遣いを株に変えただけ」なのである。
リビングでソファーにもたれかかってお笑い番組で爆笑していた母に、購入した株について問うと、よくわからない、父に聞いてくれとの事だったので仕事中の父へLINEした。
いつも通り父から2秒で返事が返って来た。
「パンダ証券 口座番号◯◯パスワード△△」
満は急いでスマホからパンダ証券マイページに進み、父から教わったパスワードを入力し、ログインに成功した。
評価額合計:890,735円
満は目を疑った。
しかし何度見てもそう表示されている。確か3年前に60万円ピッタリだったはずの口座が29万円も増えていたからだ。
高校1年生にとっての29万円は大金である。ユーフォーン11を買っても充分お釣りが来る。
・・・
この出来事が2年前に起こった、僕にとって初めての、トレードであった。
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