大人の階段駈け上がっとく?

※カロム視点





初めてクエストに出てから1年


最近では俺もだいぶ冒険者が板についてきた気がする



ランクもC級まで上がったし

クエスト成功率も上々

何よりも俺自身が前よりもずっと強くなった


今日もティニー達とBランククエストを成功させて堂々とギルドに帰ってくると偶然にも別のクエストに行っていたアニキ達と鉢合わせた



「おう、お前らも今帰りか」


アニキ達は受付でクエスト達成報告をしていたみたいで受付のカウンターにはブリザードドラゴンとボルケーノファングの頭部が乗っかっている


…ちなみにどっちも討伐難易度はSクラスだ


しかも俺達は早朝からクエストに出てたっていうのにアニキ達は確か午前中は普通の仕事があったはず…


相変わらず桁外れな人だ



「相変わらず仕事が早ぇなロージさん、流石はS級冒険者!」


アニキは最近断り続けていたS級昇格を受け入れていた


アニキが最終的に根負けした決め手は受付嬢、ミリーナの泣き落とし


その時は俺も近くに居たけどミリーナが鬼気迫る表情で「私のお給料のためにもお願いしますよー!」と叫んだのは笑ったわ


どうやらS級冒険者を輩出したギルドは箔がつくみたいで巡り巡って下っぱにも還元されるらしい



半泣きのミリーナを見ながら30秒くらい考えてたアニキはあっさり「わかった」と言っていた


そして思惑通り、ミリーナのお給料は上がったとさ

めでたしめでたし



でも俺はアニキが了承した理由がわからなかったから帰ってから本人に聞いてみた


そしたら「いつも笑顔で接客してるミリーナが泣いたんだから理由はそれだけで十分だろ」とかなんとか


荒くれ冒険者にも嫌な顔一つしないし

雑用も文句も言わず懸命にこなしていた


未だに小さな下宿に住んでる話も聞いたことがあったし

実家にいる母親は長いこと病床についているらしい



俺は確かに理由は十分だと納得した



「でももうS級に上がったんだからそんなにバシバシクエスト行かなくてもいいんじゃないか?」


ティニーの言う通り、S級まで上がったら報酬も格段に上がるしアニキみたいに1日に二個も三個もクエストを受ける奴はいない


1回の報酬で半年は活動しなくていいくらい貰えるから実際年に数回しかクエストに出ないS級冒険者も居るくらいだ



「俺が顔出さなくなってまたミリーナに泣きつかれるのは御免だからな」


ティニーは「違ぇねえや」と笑い転げる


あの一件以来、給料は上がったがミリーナには『泣き落としのミリーナ』という異名がついてしまった


汚名とまでは行かないけど…本人はもちろん不本意みたいだ



「ちょっとロージさん!私そんなに泣いてないですよ!」


アニキ達が持ってきた素材の査定を終えたミリーナが受付の奥から出てきて開口一番ツッコむ


「人を泣き虫みたいに言わないでください!」


「悪ぃ悪ぃ、もう言わねーから早く査定結果教えてくれ」


「もう…絶対ですよ?これが今回の査定結果です」



ミリーナは金貨がパンパンに詰まった小袋を2つ、カウンターの上に置いた


「今回は金貨312枚です、どうでしょうか?」


「うん、それでいいよ」


すげー大金

俺もいつかはあんなに稼いでみたいもんだ



「ロージさんの持ってくる素材はいつも既に加工されてるので査定が早く済んで助かります」


「まぁ俺も早く済ませてほしいからな」


アニキは袋の中身を確認すると金貨を15枚取り出して一緒にいたロイさんに渡した


「今回のダメージ量、使用アイテムからみて…こんなもんでどうだ?」


「マジか!?こんなに貰えるとは思ってなかったぜ!」


Aランククエストの報酬を丸々独り占めするような金額を手に入れて大喜びするロイさん


「今夜は帰らないからな!」と高らかに宣言していた



「ミリーナ、ポケットのもんはいつもの駄賃でいい…お袋さんによろしくな」


「…………」


固まるミリーナは微笑みながら額に玉の汗を作る


俺にはよくわからないけど何か怪しい雰囲気を感じた



「カロム、丁度いいから一緒に帰ろう、早く達成報告してこい」


「りょーかい」


俺達のクエストはアースベアの討伐

アニキみたいにアイテムボックスで素材を持ち帰れたらもっと儲かるんだけど…それが出来ない俺達はなるべくレアな素材だけ剥ぎ取るしかない


一応現地の商人に査定してもらえるんだけど時間もかかるし手数料も高いから今回はそのまま森に置いてきた


あとは野となれ土となれってな



達成報告にはアースベアの魔核を提示する


クエスト報酬と素材査定を合わせて金貨4枚

四人で山分けしてから取り分の1割を店の運営費に回す


さらにそこから使ったアイテムの費用と武器の修繕費を引いたらだいたい1人頭大銀貨三枚ってところだな


細かく言うなら宿泊費と食費もかかるけど今回は近場で1日で終わる距離だったから割愛



四人パーティだったらこんなもんだ

人によっては少ないって言う奴もいるけど俺からしたら大金だ


これだけで孤児院の皆に一着ずつ服を買ってやれるし、昼食に肉を入れてやることも出来る

冒険者様々だ



「終わったか?」


「おう!今日も大儲け!」


「そうか、よかったな」


俺はアニキに頭を撫でられる


俺ももう17だし人前で頭を撫でられるのは少し恥ずかしい


身長もほとんど変わらなくなってきたし

…ライチみたいに素直には喜べない年頃だ



どうせ撫でられるならメリーさんみたいな年上のお姉さんがいい…



「坊主共、今日の俺は気前がいいからちょっと付き合え」


ロイさんが機嫌良く俺とティニーの肩を捕まえる


「どっか行くのか?」


「そりゃお前、男が大金抱えて行く場所なんて1つしかないだろ」


「ん?わからん?」


「…これだからお子ちゃまは」


ティニーより先に何かに気付いたメリーさんがロイさんの肩を掴んだ



「ダメですよロイさん…ティニーをそんなところに連れてったら」


「うるせぇ恥女、テメーのセクハラ教育じゃこいつは社会にゃ出れねー」


「…そんな社会なら私がぶっ壊してやります」


何だか今日はメリーさんの迫力が凄い

正直怖い



「旦那ぁ…この恥女黙らせてやってくれよ」


「ロージさん…この変態再起不能にしてください」


「………」


急に振られたアニキは少し悩まし気に考えるとメリーさんの肩に手を置いた



「メリー、今日はとりあえず雰囲気だけでも味わわせてやればいいんじゃないか?」


「そんな…どうして…?」


「よく聞けメリー、常日頃から恥…お前と居るティニーは性の境目があやふやになっちまってる」


「つまり…どういうことですか?」


「このまま育ったらティニーは性犯罪者まっしぐらってことだ」


酷くショックを受けるメリーさんは膝を付いて項垂れた



「そ…それはダメです」


「だから今日はいい社会勉強だと思って見逃してやれ」


「…………はい」





とまぁこんな流れで俺達は夜の繁華街に繰り出した


普段なら夜に出歩くことは無いからそれだけでも新鮮な気分だ



「しかし旦那もついてくるとは思ってなかったぜ」


「お前はともかく二人に本番させる訳にはいかねーからな…審判役だよ」



会話の内容がまるで理解出来ないまま俺とティニーは二人の後をトコトコと付いていく


最初はロイさんが酒でも奢ってくれるのかと思ってたんだけど酒屋通りは既に通り過ぎていた



繁華街の奥の奥まで進んでいくといつの間にか派手に輝く看板が目立ち始める



「お兄さん達暇だったら寄ってかなーい?」


「悪ぃな、もう行くとこ決まってんだ」


「そー、じゃあ遊び足りなかったら思い出してねー」


ちょくちょく女の人に呼び止められ、今みたいにロイさんが断る


呼び止めてくる女の人は全員露出が多くてセクシー…

ドギマギしながらしばらく歩いていると目的地に着いたみたいで一軒の店の前でロイさんは足を止めた



「どこ行くのかと思ったらここかよ…普通客の店に来るか?」


「旦那は気にし過ぎなんだよ、俺は別に気にしねえ」


「さてはお前…あのラミアの娘が目当てだろ?」


「正解」


ロイさんが笑顔で答えながら店のドアを開けるとカウンター越しに角と羽を生やした美女が出迎えた



「おやおや、ロイだけじゃなくあんたも来てくれたのかい?」


美女は煙管キセルの煙を吐きながら少し草臥れた目を微笑ませた


「なぁなぁ、あの人悪魔じゃねーか?」


俺も気になってたことを代わりにティニーが聞いてくれる


「悪魔だけどトゥーシーさんはサキュバスだから問題無い」


「なんで?」


「クエンラ含めて殆んどの国じゃサキュバスは交友悪魔認定されてるからな」


交友悪魔とは人間側に利益をもたらすとして特別に入国を許可されてる悪魔のこと、とアニキはおざなりに説明してくれた



「じゃあ良い悪魔なんだな」


「良い悪魔っつーかエロい悪魔だけどな」


ロイさんの発言に俺のボルテージが一気に上がる


何それ!?もっと詳細を!



「まぁ人間ってのは業が深いんさね、敵でも利用出来るもんはするってことさ」


「俺は悪魔のこと敵だと思ってないけどな」


「あんたは相変わらずの変わり者だね」


「ほっとけ」


アニキ達の話は難しくて俺にはよく解らないけど要は利害の一致ってことらしい


そんなことより俺は「エロい」の部分が気になってしょうがない



「ロイはケフィカでいいんだね?」


「おうよ!」


「三人は初めてだね、要望が有れば聞くよ」


俺とティニーはアニキの顔を覗き込んだ

要望と言われても仕様がわからない


助け船を求めたらアニキは「好きな女の子のタイプを言えばいいんだよ」と明確な助言をくれた


そして俺は迷わず言う



「おっぱい大きい人!!」


トゥーシーさんは「若いねぇ」と笑う

…何かちょっと恥ずかしいかった



ティニーは悩みに悩んだ挙げ句「エルフ」と呟く


それだけ?と思ったがそれはティニーの自由だ



「で、あんたは何かあるかい?」


「俺は監視役で来てるだけだからな…出来れば大人の落ち着きがあるトゥーシーさんがいいんだが」


「アタシかい?止めときなこんなおばさん」


おばさんと言ってるけどトゥーシーさんの見た目は二十代くらいにしか見えない


というか悪魔に年齢の概念があるかどうかさえ怪しい



「とりあえず二百代の若いサキュバスでも宛がっとくよ」


何かもう…人間と比べたら桁が…

二百って言ったよね…今


「まぁ…別に誰でもいいけどよ」



店の奥に誘導された俺達はたくさんある部屋の一室に案内される


中は六畳くらいでそんなに広くはないけどきらびやかで座り心地の良さそうなソファーが置いてあった


トゥーシーさんに4つある二人掛けのソファに1人ずつ座るように指示されると軽く料金体系を説明してくれる



「ウチは三時間50000G、延長は一時間20000Gだよ」


高いな…女の人と飲み食いするだけでそんなにするのか…


「最初の90分はここで女の子達と媚薬入りの酒を楽しんどくれ、それから先は奥の部屋に案内するから煮るなり焼くなり好きにするがいいさ」


煮るなり焼くなりって…何か物騒だな


あとびやくってなんだ?



聞きたいことはまだ一杯あったけどロイさんがトゥーシーさんを急かしたので俺は何一つ的を得ないまま疑心暗鬼で待機


数分後、ドアが開いたと思ったら物凄い美人…だけど下半身が蛇になってるラミアのお姉さんが入ってきた



「ロイちゃん来てくれたのー、嬉しい♡」


「待ってました!今日もケフィカの鱗は一枚一枚艶かしいなおい!」


「あったり前でしょー、身嗜みにはちゃんと気を遣ってんだからねー」


ラミアの尻尾に胴を巻き付かれたロイさんはケフィカさんの腰を腕でがっちりホールドして引き寄せる


「今夜もたっぷり楽しませてもらうぞ!」


「キャー!もう、ロイちゃんのえっち♡」


俺にラミアの性癖は無いけど確かに艶(なまめ)かしいし羨ましい



ケフィカさんを筆頭に、その後はすぐに続々と女の子達が部屋に入ってくる


ニコニコとしたスマイルがチャーミングなエルフさん

艶々したダークブラウンの髪が綺麗な兎系獣人のお姉さん

そして最後に美人で大人しそうなサキュバスさん


なんと全員おっぱいが大きい!(重要)



俺は隣に座った兎の人のパックリと開いた胸元を凝視してしまう


「もっと近くで見る?」


「え!?あ、すみません!」


「んふふ、可愛い♡」


口から心臓が出ちまうかと思った…


え…というか見ていいの!?


そんな世界あるの!?



「先日はお世話になりました」


「あー、あんたか」


アニキとサキュバスさんはどうやら顔見知りみたいだった


「あれから被害はあったか?」


「お陰様で1度もありません」


サキュバスさんは可愛らしい笑顔で微笑むとアニキにお酌する


「お礼に今日はいっぱいサービスしますね♡さぁどうぞ」


そのサービス内容が気になるところだがアニキは彼女からグラスを受け取ろうとしない


「いや…今日はそういう目的で来た訳じゃないから、俺は水でいいよ」


アニキが断るとサキュバスさんは少し目を潤ませて小首を傾げる



「飲んでくれないんですか…?」


「ん…いや……じゃあ一杯だけ…」


俺は思った

ミリーナが上手く泣き落とした訳じゃなくて

単純にアニキが泣き落としに弱いだけだと


それを格好つけて誤魔化すんだから可笑しくて笑えてきちまうよな



「ほら、お兄さんも景気付けに一杯」


「あ、どうも」


「もう…そんな畏まらなくていいのに」


アニキを笑ってる場合じゃない


今までに無い距離感に俺も上手く話せない



そして会話に詰まった俺はとりあえず受け取ったグラスに口を付けることにした



お酒は女の子が目の前で作ってくれてたけどテーブルの上には酒と割り物と得体の知れないハートマークが記された瓶が置いてあった


これがびやく(?)ってやつなのかは解らないけど味は特に悪くはない



しかし口に含んだ一口を喉の奥に流し込んだ時、俺の体に異変が起きた



「サキュバスの媚薬は強烈だからな…ダメそうだったらペッしなさい」


息を荒くする俺にアニキが忠告してくれるけどもう遅い


体の奥底から湧き出す熱と頭に響くほど強く打つ脈


何だかもう自分の体が自分ものじゃないような錯覚まで起きてきた



俺は無意識に兎さんに手を伸ばす



これが大人の階段?




上り切ったらそこに何が待ってんだ…?




.

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