アイテム縛りって…キツくないすか?
無数の針に囲まれているような殺気に誰も喋ることすらままならない
身動き一つ…それこそ呼吸すら難しく感じる中、黒い勇者だけが妖刀のように邪悪に笑う
「いい面構えじゃねえか、聖女を守るならそのくらいの覇気がねえとな」
自分の面構えなんて鏡が無い限り確認出来ないが、おそらく眉間に皺が寄ってるであろう俺はダキンシューの腕を
「…ここじゃ狭いから場所変えるぞ」
嫌悪感を隠す事なく、俺達は額を擦り合わせる
「望むところだ…と言いたいところだが、俺は聖女の前で悪魔以外とは戦えない」
「だったら今すぐその殺気消せよ」
「悪魔を前にしてそれは無理な話だな」
埒の明かない押し問答に強制的な決着をつける
「んお?…ワープか」
狂犬を巻き込んで飛んだ先はいつぞやバオケルナを吹き飛ばした広大な岩場
ここなら思う存分暴れても大丈夫だ
と思ったんだが予期せぬおまけが付いてきた
「おいおい、置いていかないでくれよ♪」
飛ぶ瞬間に手を掴まれたのでまさかとは思ったけど…
…何で普段フラフラしてんのにこんな時だけしつこくくっついてくんだよ
「危ないからワープしたのにこれじゃ意味無いだろうが」
「そばに居たらダメかい?」
その薄ら笑いの仮面の下は今どんな表情なのか…
喜怒哀楽、どの分類の感情なのか…
俺にはわからないが
そんな風に言われたら答えは1つしかない
「いいに決まってんだろ」
「よかった♪」
よかったと、思ってくれるならそれでいい
それが全てだ
「お荷物抱えて勝てるほど俺は甘くないぜ?」
「お荷物じゃねえよ」
確かに甘くはなさそうだが格好つけてる割には肝心の
「武器も無いのに随分強気だな」
「あれはもう俺の体…いや、心の一部だ、何処に在ろうと関係無い」
熟練度も極めると魔法と同じか
狂犬の手元が一瞬黒く光ると次の瞬間にはランスを握っていた
「お前こそ丸腰じゃねーか、アイテムボックスに何か入ってんのか?」
もちろんアイテムボックスには多種多様な武器が入っている
だけどこれは殺し合いじゃない
ただの喧嘩に物騒な武器は持ち出したくないね
「俺はこれでいい」
俺は腕捲りをして拳を狂犬に突き差した
「馬鹿なのかナメてんのかは知らねーが後悔しても遅いからな」
「大丈夫、馬鹿だから後悔しねー…よっ!」
喋り終わるか否かというところ、俺は間合いを詰めて狂犬の顎を狙う
ただの右ストレートだがレベル40くらいのモンスターならこの1発で終わるし、そこら辺のチンピラなら5回は死ねる威力
これが綺麗に決まって脳震盪でも起こしてくれれば万々歳なんだが…そう簡単にいくはずもなく、片手で難なく受け止められた
「本当馬鹿だよなお前、折角聖女が居たっつーのにわざわざ挑んで来やがって」
中途半端な不意打ちを意に介さず何事も無かったように喋り出す狂犬は正に余裕だった
「お前が見逃してくれんのは俺だけだろ、ダキンシューは違う」
それじゃ意味が無い
「まぁそうだな」
「仮にお前が今回ダキンシューも見逃してくれたとしてもな…これからお前に怯えてブルブル震えながら生活すんのは御免だね」
俺は敢えて狂犬に寄せて言い換える
「お前は俺達の「絶望」だ、だから今日絶対にぶちのめす!」
『
「おっ?」
零距離で10倍の衝撃を受けた狂犬が余裕の笑みを崩す
しかしその衝撃すら3mの電車道を地面に刻むに止まった
「なかなかやるじゃねえか!久々に面白くなりそうだぜ!!」
「喧嘩に愉悦を求めんな…アホらしい」
台詞こそ噛ませ犬みたいで願わくばそのまま負け犬になってほしいところだが、目の前に居るのは狂犬だ
噛まれたら火傷程度じゃ済まない
「んじゃ次はこっちから行かせてもらうか」
狂犬はしっかりと言い切ってから構える
宣言してから構える動作まで丁寧に見せてくれたのに俺は反応出来なかった
『
「っ!?」
狂犬が消えたと思ったら脇腹にランスが突き刺さっていた
動きが全く見えず、瞬間移動でもしたのかと錯覚する
「貫いたと思ったんだけどな、見た目より耐久力もあるな」
避けるのは無理でも辛うじて張った防御術式が功を奏した
武器がランスだから『不貫術式』と『堅防術式』の二つを張ったが限られた時間で俺は良い選択を出来たみたいだ
一撃目から一杯一杯の俺に対し狂犬は冷静に敵の情報を見定める
悔しいがまさに歴戦の勇者の貫禄だった
「流石にまだ倒れないよな?」
「くっ…」
苦し紛れに距離を取る俺を狂犬は余裕で見守る
狂犬が余裕をカマしてる内に回復でもしようかと思ったがアイテムボックスから出した瞬間ポーションを
…遠距離にも対応してるなんてちょっと反則なんじゃないか?
しかも手元に戻るから無制限だ
「萎えるからそういう小物は無しにしようぜ」
最悪だ…俺からアイテムを奪ったら何が残るっていうだ
無慈悲にも程がある
「さっきみたいにチート級のアイテムを出されたらかなわん、お前に関して怖いのはそれだけだ」
会って二時間くらいの奴に核心をつかれるのは癪だが何も言い返せない
「お前の言う通り…俺はアイテムが無いとまともに戦えない」
俺の固有スキル自体7割方アイテムに使ってる
アイテム=固有スキルと言っても過言ではない
「あらゆる可能性とか細心の注意を払って必死で用意したってのにお前のせいで俺の努力が水の泡だ」
「男が物に頼ってんじゃねーよ」
「頼らせてくれよ…」
アイテムが使えなくなると途端に怖くなる
強力なアイテムが使えなくなること
回復できなくなること
俺に無い能力を補えなくなること
そんなことはどうでもいい
一番不安なのは…
「…俺はまだ人を殺す覚悟なんて無いからな」
『愚かな難行』 解除
「んぐっ…!?」
俺の手刀がデルドレの脇腹に突き刺さる
「悪いな…俺はもう手加減出来ない」
悪魔を助けても人は殺したくない
両方求める俺は
強欲だろうか…?
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます