おまけ!?とある日のメイドと主人
※メイドさん視点
機嫌麗しゅう、皆様の心のメイド、コゼットでございます
…失礼、開幕から戯れが過ぎましたね
しかし
今回の事の発端は先日にお嬢様のご友人、花様が屋敷に訪れた時です
花様はロージ様との初めての逢引をそれはもう嬉しそうにお嬢様に語っておられました
お嬢様もお嬢様で当たり障りのない相槌を打っていましたが内心羨ましさに悶えていたに違いありません…
その証拠にその日の夜にお嬢様の部屋に聞き耳をた…ゴホン、お嬢様の部屋の前を通りかかると激しい衣擦れの音と苦しそうな声が聞こえてきました
これには私も寝不足を余儀無くされましたが…あまり深掘りする話ではありませんね
とりあえず副メイド長権限を最大限行使して翌日のお嬢様の部屋の掃除当番を変わってもらいました
職権乱用極まれり、です
まぁそんな話はどうでもよく
問題は翌日から始まった「ロージ様をデートに誘う大作戦」なんですが…これがまた難航を極めまして
お嬢様とロージ様は男女の関係ではないので普通に誘ったところで断られそうですし、そもそもロージ様自体が大変多忙な方です
彼に関して休日の話を聞いたのは私も花様の一件だけ
好きなのに隙の無い殿方をデートに誘うのにお嬢様も苦戦しておりました
これがまず1つ目の問題として
2つ目にお嬢様にデートの話を切り出す勇気が無いこと
普段あんなに好き好き光線を放っているにも関わらず大事な場面ではヒヨってしまいます
我が主ながら情けないことですがお嬢様も経験不足なので致し方ありません
そんなこともあろうかと用意した作戦はやはり仕事関連
ロージ様と言えば仕事なのでこれが最も有力でいて成功率が高いと言わざるを得ません
内容はバカン領のリゾート地の立地調査を手伝ってほしい、という依頼を出すこと
本来今更調べる必要は無いのですがリゾートデートを実現させるための苦肉の策
仕事の内容など有って無いようなものです
これならば難なく実行に移せると思ったのですが蓋を開けてみれば簡単に断られてしまいました
理由は二つ
リゾート地の立地調査など「やり甲斐がない」とのこと
そして水着持参をお願いしたところ「色白だから肌は見せたくない」と頑なに拒まれました
先のはロージ様らしいと言えばらしいのですが後の理由がロージ様らしからぬ女々しさだったので腹いせに思い切り笑ってやりました
ここまで上手くいかないと私も憤りを覚えます
そもそもお嬢様の好意を無下にすること自体許せないので最初から腹立たしい訳ですが私も我慢の限界というものがあります
二週間ほど二人でやきもきしたのち、私は単身ロージ様の店に乗り込みました
ロージ様を見付けるや否や私は彼の頬に問答無用で爪が割れるほどの平手打ちを入れました
これはお嬢様を二週間も悩ませた罰と私自身の私怨の50:50《フィフティーフィフティー》
彼としては理不尽でしょうが私としては当然の報いと言えます
さほど痛がる様子もなく呆然としている彼に私は二週間後に水着持参で屋敷に来るよう命じました
依頼でもお願いでもない私の命令にロージ様は1分を越える長い思案の後、弱々しくも「はい」と返事をしたので私は満足して帰ったのですが…
帰り道の途中、服屋のショーウィンドーに涙を流すメイドの姿が映るのに気付きました
…私は無意識の内に泣いていたのです
その涙がいつから流れていたかは自分ではわかりません
そして止め方もわかりませんでした
結局屋敷に戻っても涙は止まりませんでしたが私は真っ先にお嬢様の元に向かい謝罪と報告を済ませます
報告を聞くお嬢様は終始困惑した表情でしたが私は構うことなく最後まで話しました
報告を終えた私は懐から辞表を取り出しお嬢様に渡すと最後にもう1度深く頭を下げます
頭を下げながら長い間お世話になったお礼と今後のお嬢様の幸せを切に願い、私は自室に戻りました
自室で荷物をまとめているとドアではなく窓から小石をぶつけるような音が鳴ったので窓を開けて外を確認しました
しかしそこには誰もいません
不気味に思いながらも窓を閉めようとしたら窓枠の上からロージ様が顔を覗かせました
それに驚いた私は不覚にも変な声を出してしまいましたが取り乱しはしませんでした
「ようメイドさん、さっきは痛かったぞ」
彼は未だ頬に紅葉を貼り付けながら言います
その顔が面白かったので少し笑ったら眉をひそめて窓から部屋に乗り込んできました
「なんだよ荷物まとめて、出ていく準備でもしてんのか?」
私は彼の問いに答えません
その代わりに頭を下げ先ほど叩いた謝罪と…
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
死んでも言いたくなかった台詞を言いました
「まさに決死の覚悟って感じだけど、その覚悟無駄にさせてもらうぞ」
なんと酷な…
この期に及んで「さっきの約束は無し」とでも言いに来たのでしょうか
そんなことは言わせない
左手の爪が割れても私にはまだ右手が残っています
鬼畜に鉄槌を下すべく表を上げると目に飛び込んできたのは先ほど私がお嬢様に渡した辞表をロージ様がビリビリに破り捨てる姿でした
「こんな
行き場を失った力と気の抜けるような台詞
私はその場に座り込みそうになりましたが辛うじてベッドに凭れかかりました
彼には最初からとってつけた理由など必要なく、私達が思うほど仕事人間という訳でもなかったようです
思い違いで大空回り
どうかこの
ロージ様にそうお願いすると彼は真剣な顔で私の頭を撫でました
「誰が笑うもんかよ、あんたはご主人様の願いを叶えたただの立派なメイドさんじゃねーか」
無意識ではなく
今度は意識的に涙が零れた
「だからもうそんな下らないことで辞めようとすんな、そうなったらアイリッシュはもちろんだし…俺も何となく悲しい」
私は恥ずかし気もなく咽び泣いてしまいました
小さな子供のように
永遠と
私の泣き声を聞き付けて来てくださったお嬢様が抱きしめてくれて、メイド長は昔みたいに頭を撫でてくれました
それはとても暖かく、優しく
きっと私はこれらを失ったらもう生きていけないんだと、本気で思った夜でした
と、まぁそんな経緯をへて今に至るのですが…
約束の三日前、お嬢様の水着は未だ決まらず
連日店を渡り歩いてはああでもないこうでもないと水着を選んでいます
私としてはお嬢様の色んな水着姿を見れるので有難いのですが優柔不断にも程があります
「こちらなんていかがですか?」
私はふざけて殆ど紐状の水着をお嬢様に渡しました
「こ、こんなの着たら変態だと思われちゃうよ…!」
…赤面で戸惑うお嬢様も可愛らしい
「ですがこれを着たらロージ様もイチコロかと」
私の誘惑めいた言葉にお嬢様は困惑しながらも耳を傾けますが仮にこの水着で決定してしまったら全力で止めます
でも試着はしてほしい…
私にだけその麗しい姿を見せていただきたい…
「コゼットはもう決まったの?」
心の声を押さえ付けていると私の水着について尋ねられました
そういえばお嬢様の水着姿を拝むのに必死で自分の水着の事などすっかり忘れていました
私の水着などささっと適当に選んで早くお嬢様鑑賞会の続きを…
そう思いながら私は不意に黒いビキニを手に取ります
以前…ロージ様は私の長い黒髪を褒めてくださいました
もしかしたら黒が好きなのかもしれません
「どれにしたの?」
「あ、これは、違っ!決してロージ様を意識した訳では…!」
「?」
急に顔を覗かせてきたお嬢様に取り乱した私は水着を背後に隠しました
「隠さなくてもいいじゃないか、見せてよ」
「あの…えと…」
何故こんなにも心臓が激しく脈を打つのでしょうか…?
いえ…本当は高鳴る鼓動の原因はわかっています
ただ…今はまだ気付かぬフリを続けましょう
「内緒…です」
いつか、この気持ちが風邪のように治まる事を信じて
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます