聖女降臨
なんとか花を
一段落して椅子に座り直すと事件の張本人である悪魔が「仲がいいね」と言ってきたので思わず片手でその頬を鷲掴んだ
今のが仲良く見えるなら悪魔家族化計画の道のり遠く険しい
「誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎…」
「いふぁ(痛)いよ」
本当はこんな茶番をしてる場合じゃない
気になるのは悪魔が言う契約の内容だ
「勝手に契約しやがって…悪魔の契約ってのがどういうもんかちゃんと説明しなさい」
「一応使い魔契約をしたんだけど僕の契約は契約主に悪魔の力を使えるようにするだけで魔力の供給とか絶対服従みたいな便利な物はついてないよ?」
確かに自分のステータスを確認したら『悪魔初級中級魔法セットlevel1』というスキルが追加されていた
「僕としては何か特別な事をしたかっただけだからね、人間も結婚する時にキスをするじゃないか、あれと同じだよ」
「だからってお前なぁ…」
平然と言いのけるのは悪魔たる所以か、どうであれ俺には理解し難い…
「そんなことより君の名前を教えてよ」
そういえばお互いに自己紹介もまだだった
名前も知らないのにキスだけ済ませるとか…俺の中のモラルが音速で汚されていってる気がする
自己紹介もほどほどに済ませると俺はある疑問に思い当たった
「そういえば…ダキンシュー?」
「ダキンちゃんと呼んでもいいよ?」
「それは却下だ」
国民的アニメの適役に出てきそうな敬称は避けたい
…色んな意味で
「悪魔にとっちゃ真名を知られたら危険なんじゃないのか?」
フルネームじゃないにしろ一部でも名前は伏せておきたいもんだと思ってたけど…ダキンシューに関しては有名になっちまう程その名前は世間に知れ渡っている
「偽名でも使ってんのか?」
「最初からそんなものは使って無いし、使ってたとしても契約者の君に偽名は名乗れないよ」
「じゃあ何で…?」
「全然影響が無い訳じゃないけど僕くらいの悪魔になると真名を知られたところで対処出来るし、他の上級悪魔はむしろ名を名乗る事で自分の強さを証明する節すらあるよ」
単純な疑問だったが答えも単純だった
強けりゃ真名なんて関係無い
まさにパワー理論
そしてダキンシューもそのパワー理論が通用するレベルの悪魔っつーことか…
「真名云々言うけど君だったら小細工無しに普通に僕を殺せると思うよ?」
何の感情の起伏も無くそんな平坦に言われると俺も正直シラケてしまう
「ダキンシュー…殺すとか殺せるとか、そういうのはもう二度と言うな」
「…?わかった」
物分かりが良くて助かる
こんな話は「家族」間でするもんじゃない
少なくとも俺の中では、な
「まぁいい、とりあえず飯でも食え」
「ご飯?僕は食べなくても平気だよ?」
高レベルの悪魔は空気中の魔素を取り込めるから食事を必要としないとダキンシューは言うが、そんな詰まらない理由は無視する
「俺の飯も食わないで「家族」は語れないぞ?」
「………じゃあ頂こうかな」
「そうそう、それでいいんだよ」
さっそく飯を作り直そうと立ち上がる俺は案外聞き分けの良いダキンシューの頭を撫でる
薄ら笑いが剥がれた彼女は不思議そうな顔で俺を見ていた
「今回は特別にリクエストに応えてやるけど何か好きなもんはあるか?」
「そうだね、強いて言えば昔は魚を好んで食べていた気がする」
「了解」
魚なら生でも焼きでも何でもいいと言うので鯛でカルパッチョでも作ろうかと思っていた矢先、ダキンシューはまた目を細めて邪悪に笑う
「そろそろ来るよ」
唐突言うダキンシューの言葉を俺だけは直ぐに理解した
ダキンシューの時とは違い探知スキルにちゃんと引っ掛かる反応が1つ、猛スピードで接近してくる
「いや、待て……こいつ全然止まっ…!?」
減速を知らないそいつはそのままの勢いで店の入り口を突き破って突入してきた
「皆様お怪我はありませんか!?動けるならば直ぐに避難を!」
砂埃舞う店内で金髪の美女が体制を崩しながら言うが誰1人として彼女に返事はしない
俺はただ唖然としながら瓦礫になった玄関のドアを見つめていた
「さぁ早く逃げて!ここは
彼女はダキンシューを視界に捕らえると携えたランスを悪魔に向かって突き立てる
「民家に逃げ込むとは卑怯ですわ!!何の罪も無い人々を危険に晒すのは許しません!覚悟しなさい!!」
丁寧な口調で威勢のいい彼女の背後に立ち、俺は拳を振り上げた
「デイジー、敵は1人とは限らないよ…?」
未だ不敵な笑みを見せるダキンシューだがその口角が僅かに歪む
振り向いた聖女の顔が引き
後に藤堂に「本物の悪魔が居た」と言わることになるが…
今はただ怒りに任せて拳を振り下ろす
その日、バカンの街には小鳥を握り潰したような短い悲鳴と…
「店を壊すな!!」という怒号が響き渡ったそうな
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