僕と契約して配偶者になってよ
今日は朝から騒がしかった
『緊急警報!緊急警報!ただいま悪魔・ダキンシューが聖女様と抗戦しながら接近中!!繰り返します
、ただいま悪魔・ダキンシューが聖女様と抗戦しながら接近中!!住民は直ちに安全な場所に避難してください!』
喧しい緊急アラートに起こされた俺はとりあえず皆を店に集め、こっちはこっちで緊急会議を始めた
「警報が出てる以上お前らには避難してもらうんだけど…その前にダキンシューって悪魔について知ってたら教えてくれ」
個人と個人の喧嘩ごときで天災扱いされる悪魔の情報は頭に入れておきたい
この前捕まえたデールの話だと中級から上級の悪魔は勇者を知覚出来るらしく、万が一近くを通ったなら三人も勇者が居るこの店はまず間違いなく狙われるだろう…
「デール、何か知ってるか?」
悪魔のことは悪魔に聞くのが早い
俺は何処か落ち着きのないデールを問い詰めた
「知ってるも何もあいつは元魔王軍幹部だった悪魔だ、人間も悪魔も大概の奴は1度は耳にする」
ライチ以外が深く頷く
「数年前から度々聖女様と戦っていると聞きますが…今の今までどちらかが勝利したという話しはありませんね」
「すんげー力のぶつかり合いらしいけんど基本空中戦だから被害は最小限に収まってんだ」
「何でもその聖女様ってのがSランク冒険者の…今は確か10位らしいぜ?」
トロントとブーノ、おまけに世俗に疎そうなロイまで知ってるってことは知名度に違わぬ実力者…
本当に嵐が来るもんだと思っていいかもしれない
「とにかくあまり時間も無さそうなので早く避難しませんか…?」
リーサが不安気に提案する
考えてる時間も無いので俺は先に結論だけ出すことにした
「俺と花と藤堂、それとデールは残るからお前らは今すぐ避難場所に行け」
勇者が住民に紛れて避難したら一般人に被害が及ぶかもしれない
「おい嘘だろ!?俺はあんなイカれた奴に巻き込まれて死ぬのは真っ平御免だ!」
「何か文句でもあんのか…?」
俺が魔核を握り締めるとデールは観念して項垂れた
デールには御意見番として残ってもらう
異論は認めない
そしてトロント達が神殿のシェルターに向かうのを確認すると俺はトーストを焼き始める
「おいおい…何呑気に飯作ってんだよ」
「正直残ったところでやる事無いしな、飯でも食いながらゆっくり対策でも練ろうや」
焼き上がったトーストにベーコンと目玉焼きを乗せてデールの前に置くと下唇を噛みながら腹を鳴らしていた
「そうやきもきすんなって、それにお前ももうウチの立派な従業員なんだから何かあったら俺が守ってやるよ」
「…変な野郎だ」
不貞腐れた顔でトーストを
「ついでに私達の守護と朝食もお願いしまーす」
朝に弱い藤堂が目を擦りながら要求する
最近俺に慣れ過ぎてきて態度がすっかり小娘だ
「へいへい、今持ってきますよー」
朝食を摂りながら窓の外を眺めていると遠くの空で火花が散るのを見た
距離は20㎞から30㎞先というところ
もちろん人影は確認出来ない
「今散ってる火花が例の悪魔と聖女か?」
「たぶんな」
デールが素っ気ないから『千里眼』を使って確認してみる
映ったのは黒髪から羊のような角を生やしてるスーツを着た女とゴテゴテの装備にランスを構える金髪巻き髪の女
「何か見えるか?」
花が俺の頭に顎を乗せて訊いてくる
最近明らかに距離が近い
「べっぴんさんが二人居る」
「…………」
「すひまへん…」
軽い冗談のつもりだったが両頬を千切れんばかりに引っ張られた
今日も痛いほど愛されとるのを肌身に感じながら観戦を続けていると悪魔の方と千里眼越しに目が合う
最初は気のせいかと思ったが悪魔は尖った歯を覗かせながら笑うと戦闘中にも関わらず一心不乱にこっちに向かってきた
「なんかこっちに向かって来てるぞ」
「この距離で勇者の気配に気付いたってのか!?」
「いや、たぶん俺の千里眼に反応しただけだな」
「どっちにしろここに居たらヤバい!逃げるぞ!」
走り出そうとするデールの襟を掴んで椅子に座らせる
「逃げる暇があるならもっとダキンシューの情報を教えてくれよ」
来ちまったもんは仕方ない
今の内に弱点の1つや2つ聞き出しといた方がいいだろう
「あいつは悪魔の中でも変わり者なんだ、そんくらいしか知らん」
「弱点とか無いのか?」
「強いて言えば俺と同じで肉弾戦が苦手と聞いたことがあるが…それでも聖女と張り合える実力を持ってる」
苦手を突いてもSランク
…こりゃなかなか手強そうだ
「しかも得意な方の魔法は魔力量だけで言うと魔王にも匹敵するとされてんだ…勝ち目なんて無いぞ」
特に有力な情報も得られないまま頭を抱えていると玄関のドアからノックの音が二回聞こえた
「悪魔のくせに礼儀正しいな」
目が合ってからおよそ5分
移動速度も申し分が無い
強い早い礼儀正しい
どっかの美味いラーメン屋みたいな売り文句だな
「ごめんくださーい、千里眼を使ってきた勇者のお宅で間違いありませんかー?」
ちゃっかり勇者という事までバレていた
「ち、違いますよー」
とりあえず誤魔化す
ダメ元だがこれで帰ってくれればめっけ物だ
「勇者が嘘ついちゃダメなんじゃない?」
何が起こったか全くわからなかった
ただ結果だけを言うと悪魔が頬杖を突きながら隣に座っていた
吸い込まれそうな二重円の瞳に不適な笑みを貼りつけ、彼女は俺を見つめていた
「こんにちは♪」
彼女の挨拶と同時に静かな戦いが始まる
俺の魔力感知スキルが反応したので向けられた魔力と同じ量の魔力で反発させた
ぶつかった魔力の感覚からして『鑑定』に近いしい物を感じたのでおそらく俺をまず値踏みしようとしたんだろう
少し目を見開いた彼女は1回の攻防では諦めてくれない
最初より多い魔力で同じ事をしてくる
そんな攻防が3回ほど続くとバチバチと電流が流れたような音が二人の間に響いた
普通魔力がぶつかり合っただけでは何の音もしないがその物量が物を言う
俺は既に全魔力の4分の1の魔力をこの不動の攻防戦に使っているが、この量ならそこら辺のドラゴンを10頭ほど消し炭に出来る
「君、面白いね」
「それは喜んでいい褒め言葉なのか?」
「もちろん♪」
二人とも魔力の息切れはしてないが不毛だと思ったのか悪魔の方から攻防戦は打ち切られた
「そうかい、そんじゃ満足したなら帰ってくんねーか?」
「そんなすぐ追い返そうとしないでよ、折角楽しく遊んでるところからわざわざ抜け出して来たのに」
あの激しい衝突を「遊んでた」で済ませる悪魔の底が知れない
俺の勘だとおそらく聖女よりこの悪魔の方が数段強い
ガチガチ装備の聖女様とわざわざ肉弾戦で戦うところ
その戦いで魔法を使用してないところ
そして未だに聖女が追い付いてこないところ
彼女の中では本当に「遊び」なのだろうと実感した
「ところで彼は君の使い魔かい?」
悪魔に指を差されたデールは石みたいに固まる
「使い魔なんてそんな大層なもんじゃない、デールはウチの従業員だ」
「へー、その強さで力で縛ってる訳じゃないんだ」
「そんなブラックな事はしない」
悪魔じゃなくとも俺はあらゆる種族に重労働は押し付けない
飽くまで常識の範囲内だ
「1つ聞いていいかい?」
「いいぞ」
「君は悪魔のこと嫌いかい?」
嫌いも何もない
嫌いとか好きとかは長い時間の中で決まるもんだ
悪魔だから、なんて固定概念は俺の中に存在しない
「別に嫌いじゃない、好きな訳でもないけどな」
「そうかいそうかい…うん、決めた」
悪魔の中で何かが決まった
俺は厄介なことじゃない事を祈る
「君に仕事を頼みたい」
「わかった」
つい反射で二つ返事をしてしまった
仕事となるとすぐ了承するのは俺の悪い癖だ
しかしここで断るのは労働者の名折れ
俺にも蟻の心臓くらいにはプライドがある
「僕の家族になってくれ」
少し理解に苦しんだ
悪魔特有の隠語かなんかか…?
「僕は長いこと君みたいな勇者を探してた」
悪魔は言った
自分と同等以上の強さを持ち
何処にも属さず
悪魔に寛容な勇者
そんな勇者を探していた、と
俺は訊く
「何で家族が欲しいんだ?」
悪魔はノータイムで返す
「悪魔には家族の絆が無い、だから僕はそれが欲しいんだ」
新たな悪魔が生まれる方法は2つ
普通に繁殖する方法と上級以上の悪魔が1人で作り出す方法
しかし子育てはしない
それはどちらも悪魔がほぼ完成された形で生まれてくるからだ
丁寧な説明のあと
俺は質問を変える
「何で家族の絆が欲しい?」
これもまた表情を変えること無くノータイム
「僕を作った悪魔が僕にそれを望んだから」
端的に言えばそれが彼女の存在理由ということだった
だがあまりにも曖昧過ぎる
彼女の言う「家族」というのが何なのか中身が見えてこない
客が何を求めてるのかが分からなければ俺も首を縦には振れない
「なぁ悪魔、お前は家族をどういうもんだと考えてる?」
悪魔はここで初めて言葉を詰まらせた
「…わからない」
表情は変わらないのに何故か俺には悪魔が虚しそうに見えた
「でもわからない事は悲しいことだって、僕はそう教わったよ」
俺の魔力感知にまた悪魔の魔力が引っ掛かる
だが俺は敵意の無いそれを弾くことはなかった
『
俺も使えるその魔法は自分の感情を他人に流し込むもの
今の彼女は予想通り空虚で、虚しさに包まれていた
まるで俺の心までポッカリ穴が空いたみたいだ
「200年探したよ、この穴を埋めてくれる人を」
「俺なら埋められるってか?」
「うん」
悪魔来訪から1度も立ち上がる事なく
俺は静かに結論を出す
「わかった、その仕事引き受ける」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思ったよ」
「!?」
不意に悪魔が身を寄せてくるとその唇を俺の口に押し当ててきた
触れる様な短いキスを終えると悪魔は「契約完了♪」と微笑む
「やってくれたな、悪魔……この後どうなっても知らんぞ(俺が)」
恐る恐る横目で花を確認するとロボット張りの無表情で台所に向かっていくのが見えた
「しょうがないだろ、僕の契約の形が口付けなんだから」
そんな契約の仕方があってたまるか
「僕だってファースト契約だったんだから、これでお相子だよ」
悪魔はあたかもファーストキスのイントネーションで頬を赤らめる
「ほら、頬染めエフェクトもつけたんだから文句ないだろ?」
「その台詞で台無しだバカ」
画して俺は世間で有名な悪魔と契約を結ぶこととなった
「だ、ダメだよ花ちゃん!それは洒落にならない!」
「放せルリ!!三回くらい刺さないと気が済まねえ!!」
包丁を振り回す花を藤堂が必死に抑える
そんな光景を俺は頭を真っ白にして見守る
そう、俺の修羅場はまだ始まったばかりだ!(完)
…いや、流石にこんなデッドエンドは願い下げだ
今日という日はまだまだ続く…
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