金夜さんは意気地無し
※藤堂さん視点
こんにちは、私は藤堂ルリです
今回は加賀くんでもタイトルの金夜さんでもなく私がお話を進めていきます
誰だお前は、なんて声が聞こえてくるので軽く私のプロフィールから触れていきます
見た目は長い黒髪を後ろで三編み
大きな丸眼鏡に装備品はハードカバーの本
どこからどう見てもクラスに一人は居そうな文学少女の装いですが意外に活発で行動派だと自負しています
幼い頃には格闘技を3つも習ってましたし
逆によく勘違いされますが勉強の方はたいして出来ません、中の下くらいの成績です
そんな私が今回どのように物語に関わってくるかと言うとタイトルの金夜さんの友人としてです
所謂引き立て役というやつですが私は満足です
大満足
「本当に加賀はここに居るのか…?」
「居るよ、絶対に」
「そ、そうか」
加賀くんが居るであろう建物の前で私は菱形の水晶を取り出し『人探しの精術』を唱える
紐のついた水晶は真っ直ぐに建物を差した
このスキルを覚えるのに半年もかかってしまったがその努力はこうして身を結ぶ
私の隣に立ってるのは今回の主役、
須賀ジャンにロングスカート
金髪に鬼も殺せそうな目付きは正にテンプレートなヤンキーガール
今でこそ丸くなってはいるが1年半前までは数々の武勇伝を残す伝説の不良娘だった
そんな彼女は今、加賀くんに惚の字である
大人しくなった1年半前に何かあったらしいが仲良くなった今でも教えてくれようとはしない
変わりにその事に触れるといつも顔を赤くする
その表情が可愛いのなんのって…それだけで白米三杯はいける
加賀くん…君はいったい彼女に何をしたんだ…?
気になって仕様がないよ
「どう?心の準備は出来た?」
「あ、う…やっぱり明日にしねーか?」
想い人を目と鼻の先にして臆病風を吹かせる彼女の気持ちは解らなくもない…
もしかすると今日は彼女にとって人生最大のターニングポイントになろうという日
何度だって悩めばいい
そんなもどかしさすら美しい
私はこの世の全ての恋を応援する
普通のカップルはもちろん
アブノーマルだろうと百合だろうとBLだろうと異種だろうと関係無い
そこに愛があるなら私は応援する
上手くいこうが破れようが知った事じゃない
そこに熱があるなら私は動く
そして私は力を貰う
生きる糧とも言っていい
「それでもいいけど…明日には加賀くんが物言わぬ屍になるかもしれないよ?」
「…それは」
決して冗談で言っている訳ではない
私達はここに来るまでも沢山見てきた
家より大きいモンスター
野蛮な盗賊団
そして何より街中でも治安が悪い
「モンスターのお腹の中で永遠に叶わぬ恋か…悪くないな」
悲劇もまた一興
名作には意外と叶わない恋も多いのだ
「良かねーよ、謝るから不吉なこと言うな」
「じゃあ私に至高の告白を見せておくれよ、今すぐに」
「お、おう!任せとけ、女は度胸だ!」
女は愛嬌だがこの際そんな細かいことはツッコまない
本人にやる気が出たなら何でもいい
私はやっぱりハッピーエンドの方が好きだ
「頼もう!!」
「ん?なんかデジャブ」
「こんにちはー」
荒々しい道場破りスタイルに疑視感を覚える加賀くん
どうやらこの辺りには気性の荒い人が多いらしい
「おー、か…藤堂と金夜か、久しぶりだな」
半年前と全く変わらない加賀くん
顔色が悪くいつも眠そうな加賀くん
変わったのは彼の周りの環境だ
彼は私達の全く知らない四人と机を囲みミルフィーユを食べていた
綺麗なお姉さん
巨漢の男
そして黄緑色の髪の二人はおそらく姉妹だろう
五人でパーティを組んでるような雰囲気でもなし
「あら、ロージくんのお知り合い?」
姉妹の姉の方がまったりとした声で言う
「まぁクラスメイトっつーか友達だな」
金夜さんはともかく私は加賀くんとそんなに面識は無い
友達と言っていいものか微妙なところだ
「友達…かぁ」
これからなんだから友達扱いされてめげないでよ金夜さん
ここから始まるんでしょ?二人の
「朗志さんってご友人いらしたんですね」
「リーサ…お前は俺のこと何だと思ってんだ…?」
「私はてっきり仕事が友達兼家族兼恋人なのかと思ってました」
「………」
加賀くんの事は前から勤労学生だと思ってたがまさか異世界の人にまで同じレッテルを貼られてるとは…
というか加賀くんももっと否定してくれよ…ぐうの音も出てないじゃない
「ともかく旦那の友人なら大歓迎だべ!もらった酒まだ残ってるから持ってくっか?」
「待て待て、未成年だから酒はダメだ」
異世界に飲酒や喫煙に関する法律は無い
だけどここでお酒なんて飲まされた日には金夜さんの告白するタイミングが完全に迷子になってしまう
ナイス判断!加賀くん!
「ちょっと待って」
姉妹の妹の方が立ち上がると加賀くんの後ろに回り込み真っ直ぐに金夜さんを見据える
「本当にただの友達?」
どうやらこの娘は鋭い乙女センサーを持ってるらしい
そして何と言うか…加賀くん、君も罪な男だなー
私としてはドロドロの修羅場も嫌いじゃないけど今回は推しが居るから妹さんには諦めてもらいたいなぁ
「お前…加賀の何なんだよ?」
密着する二人にご機嫌斜めな金夜さんは眉間に皺を寄せて訊く
「僕はロージの恋人だよ!」
「ちげーよ」
見栄を切るものの本人に即否定されてて少し可哀想でありムッとする表情はちょっと可愛い
「じゃあお嫁さん!」
「違えつってんだろうが、何でレベルアップさせてリベンジしてくんだよ!?」
この僕っ娘面白いな
「あらあら、アイちゃん今日もフラれちゃったわねえ」
「でもね母さん、あと少しな気がするよ」
「その自信はどっから出てくるんだよ…」
姉妹じゃなくて親子かよ…
お母さん二十代中ばくらいにしか見えないけど
これが噂の美魔女ってやつか…異世界すげー
家族ぐるみだしお母さんも綺麗だし頻繁にアピールされてるみたいだけどこの朴念仁は何で今まで手を出してないんだ?
普通の高校生ならこんな可愛い子に猛アタックされたらとっくに堕ちてるはずでしょ、恋に
まさかとは思うけど今でも一途に結城さんの事を想ってるんだろうか…
その心意気も嫌いじゃないけど今時硬派も流行らないよ?
そうなってくると今回の金夜さんの勝率も極めて低いなー…
よし、今日は出直そう
情報不足で戦況も悪い
わざわざ金夜さんに負け戦を踏ませる必要はない
ここは戦略的撤退だ
「騒がしくて悪いな、どうやって調べたか解らんけどわざわざここまで来たって事は俺に用が有るんだろ?聞くぞ?」
「き、今日はたまたま通りかかって加賀くんの気配を感じたから寄ってみただけだよ」
「へー、便利なスキル持ってんな」
そりゃ半年もかかりましたからね…これで不便だったらキレてるよ
「まぁ元気そうでよかったよ、加賀くん誰よりも早く行っちゃったから皆すごく心配してたよ?(主に金夜さんが)」
「じっとしてられない質でね、心配されてる内が華ってやつか」
たまに思うけど加賀くんの言い回しがどうもオッサン臭い時がある
流石に無いと思うけど枯れるのはまだ早いよ?加賀くん
「じゃ、じゃあ今日は様子を見にきただけだからもう行くね…」
言いつつ、金夜さんに目配せするが彼女は私の意図を汲んではくれない
せっかく会えたのにまた離れるのが嫌なのか
ライバルを野放しにしておくのが我慢ならないのか
何を考えてるかは解らないが加賀くんの袖をキュッと指先で摘まむ彼女の姿は中々に乙女でいて可愛らしく私は少し愉悦に浸り呆けてしまった
「ん?どうした?」
「か、加賀…お、お前が……す………す……」
たった二文字が出てこないもどかしさ
もう私に彼女を止める術はない
私はこの瞬間を目に耳に脳に焼き付けるのに全力を注がなければ!
「なんだよ、言いたい事があるならハッキリ言えよ」
「だから…お前のことが……す…」
完熟トマトの様に顔を赤くするも後一文字がどうしても出てこない
そして唇を噛み締めると袖を放し俯いた
あー…今日も言えないか
でも今日は今までで一番頑張ったよ
もともと勝算も低かったし、また出直せばいい
次はきっと…必ず言えるよ
「諦めちゃダメだよ!」
思わぬ声援は敵側から飛び込んだ
「いいのかよ…アタシの背中なんて押して」
「だって…なんだか僕まで悔しくなってきちゃって」
「お前…いいやつだな、名前は?」
「アイリッシュ、アイリッシュ・バカン・ス」
「アタシは花、金夜花だ」
二人は加賀くんそっちのけで硬い握手を交わした
なるほど…『強敵』と書いて『とも』と読むパターンね
うん、こんな熱い展開も嫌いじゃない(そもそも嫌いなものはない)
「盛り上がってるところ悪いんだが俺もそんなに鈍くはないんで察するところがあるぞ」
加賀くんの言葉に金夜さんの背筋が凍り付く
少年漫画の主人公でもあるまいに…流石にこうも解りやすいと気付くか…
それにしても察したところで眉1つ動かさず…あまつさえ落ち着いてコーヒーを啜るとは…
私としてはもっと初々しい反応を期待しているのだよ、加賀くん
さぁさぁ顔を赤めたまえよ
さぁさぁぎこちなく喋りたまえよ
そんな私の期待とは裏腹に加賀くんは冷静な口調で言うのである
「悪いがさっきの続きは言わせてやれないな」
鬼の目にも涙
ほぼほぼ答えと言っていい台詞に金夜さんは目頭に涙を溜める
これはあまりにも残酷だ
血も涙も無い
正直、私は加賀くんを見損なった
「せめて…せめて最後まで聞いてあげてよ!」
「そうだよ!僕もこれは黙ってられないよ!」
私と僕っ娘ちゃんは猛抗議
「朗志さん…あんまりだと思いますよ?」
「酷いわねえ…女の子の決死の想いを
お姉さんとお母さんも加わり巨漢さんは私達四人を
「お前ら何勘違いしてんだ、ここから先は俺が言うって意味だぞ」
加賀くんが言ってる意味がよくわからない
とにもかくにも告白イベントをスキップするような輩は
いくら弁明しようが覆らない
「こういう大事なことはやっぱり男の方から言うべきだと思うんだよ、俺は」
この状況で何を言おうというんだ?君は
女の子をフルのに前置きなんて要らないけじゃないか…
私の中で加賀くんの評価が光の速さで急降下していく
…今度から下衆野郎って呼ぼうかな
「金夜」
加賀くんはポケットからハンカチを出し金夜さんの手に握らせる
「昨日今日の思い付きでもないだろうから野暮な事は訊かない」
そう、そんな短期決戦じゃない
高校生活半分をかけた長期戦だ
人生でたった三年間しかない内の半分
かけがえのない長期戦
加賀くんは至近距離から真っ直ぐに金夜さんの目を見つめ、それに耐えられなくなった彼女は目を反らすため俯こうとする
「俺だって初めてなんだからよ…逃げずに聞いてくれ」
だけど彼は意気地の無い彼女を逃がしてはくれない
覚悟を決めたのか、金夜さんは沸騰しそうになりながらも下唇を噛み締めて加賀くんの目に応えた
加賀くんは彼女の精一杯の勇気に「ありがとう」と呟き慈愛に満ちた微笑みを浮かべ…そして
「これから好きになるので、俺と付き合ってください」
その場に居る全員の理解が一瞬遅れた
「ひゃ、ひゃい!よろしくお願いします…!」
まさかまさかのカウンター告白
私も長年多くの恋愛を応援してきたがこんなパターンは初めてだ
これが噂の大どんでん返しってやつか…(多分違う)
いやはや…非常に貴重で良い物を見せてもらったよ
大満足、感無量
我が生涯に一片の悔い無し
すまなかったね加賀くん…一瞬でも君のことを下衆野郎認定してしまった私が間違いだった
立派だ、実に立派な男の子だったよ
「…………」
ここで腑に落ちないのはやはり僕っ娘ちゃん
喜びと悲しみがせめぎあったような表情をしている
口元は微笑んでいるのに眉が波打ってしまっている
その葛藤もまた青春
私の好物
「おめでとう…水を差したくはないから僕はもう帰るね」
彼女は捻り出すような「おめでとう」を言うと足早に立ち去ろうとするが金夜さんに腕を掴まれ足を止めた
普段の金夜さんから考えて卒倒してもおかしくないはずなのに
どうやら彼女も手放しでは喜べないのかもしれない
「待てよ…上手く言えねえけどさ…まだ終わってないからな」
「わかってるよ…そしてありがとう……でも今は上手く笑えないから一人になりたいんだ」
「………」
会話のキャッチボールは途切れ、腕が解放されると彼女は振り返らないまま外へ出ていった
私も含め気まずさを感じる中、そんな空気を意に介さないのは二人
「今まさに娘が成長してる!感動しちゃうわぁ」
「相も変わらず呑気だなあんたは、追いかけないのか?」
「それは私の役目じゃないもーん」
「…俺の役目でもないっつーの」
親と意中の相手が平常運転なのはこれ如何に…
無情なのか慣れなのか、どちらにせよ僕っ娘ちゃんが少し可哀想である
「アタシが言うのもなんだけど本当に追っかけなくていいのか…?」
「追っかけないな」
「アイツにかける言葉は無いのか…?」
「無い」
加賀くんはコーヒーを一口飲んで短いため息を吐く
「いくら好かれてるからといってよ…いつか居なくなっちまうかもしれねえ男がその気にさせちゃいかんだろ」
言いたいことはわかるけど…
そういうのは理屈じゃないと思う
それは加賀くんなりの思いやりなのかもしれない
いつかその日が来るのかもしれない
傍に居れば居るほど悲しみも絶望も大きいのかもしれないけどさ
もし本当に失くなったとしてもそれを全部包み込める程の物を…思い出を残してあげる事は出来るじゃないかな…?
マイナスよりプラスの方を大きくしてあげることだってきっと出来る
まぁ…これに関しては二人の問題だから私が口出しする事はない
私は飽くまで傍観者
良くも悪くも傍観者
私はただテレビに齧りつくだけの子供に過ぎない
「仕事でもそうだが俺は無責任な事は言いたくない」
「裏を返せば大事にされてるってことぉ?」
「……あんたも食い終わったなら帰んなさいな」
「もー辛辣ねえ、もう少しゆっくり彼女ちゃんの偵察をしたかったのに…」
彼女という響きに金夜さんが顔を赤くする
一悶着あって忘れかけていたが彼女の恋は予期せぬ形で成就してたんだった
「お節介おばさんかよ」
「おばさんですって!?…ダーくんにも言われたことないのに…」
「そりゃ言わないだろ」
親子共々容赦がない
逆に言えば軽口を叩けるほど近しい仲という事なのかもしれない
「私は心に深い傷を負ったのでダーくんに癒してもらいます、さようなら」
「圧倒的にメンタルが弱い…」
「あ、そうそう、明日のおやつを聞き忘れてたわぁ」
「明日はガトーショコラになるんでとっととお帰りあそばせ」
「ふふふ、相変わらず聞いた事はないけれど明日も楽しみねえ」
心に深い傷を負ったのに明日も来るんだ…
なんというか終始ふわふわした世界感でマシュマロみたいな人だったな
そんなふわふわご婦人も去り、加賀くんは上着を羽織ってコーヒーを飲み干す
「んじゃ、俺も午後の仕事行ってくるわ」
「せっかく出来た可愛い彼女さんを置いていっちゃうんですか?」
いいぞお姉さん、もっと言ってやれ
「それとこれとは別だ、切り替えは大事だぞ?」
正論は時として無粋だよ
おまけに言い返せない
「オラが代わるだよ?」
「お前はお前の仕事があるだろ」
優しい巨人の後押しも届かず、加賀くんは金夜さんを素通りし玄関の扉に手をかける
「リーサ、後片付けと二人の部屋の手配を頼んだ」
「…畏まりました」
この10分足らずのやり取りで私の謎はまた深まる
確かにカウンターは有効打の致命傷ではあった
見事だし文句の付け所がない
ただそれ以前に金夜さんはこんなドライな男のどこに惚れたというのか…
クールと言うには些か口数が多い
明るいと言うには程遠い
顔だって平均値を上回るところもない
どちらかに特出するところもなく、仕事以外のことは面倒だと思ってそうなこの男に…彼女は何処に惹かれたのか
「見ての通り聞いての通り、俺は仕事優先だしあまり構えないけど…それでもいいのか?」
遠回しに「まだ取り消せる」と言っているようだ
でも私は知っている
彼女はそんな脅しやら挑発に乗るような覚悟ではないことを
「それでいいよ…お前は仕事してる時が一番格好いいからな」
な、ナチュラルに本音を吐露してるけど…
これは付き合える事に安堵して気が抜けたからなのかな?
それとも早くもデレてるの?
私の知ってる金夜さんは前者なんだけど…
「あ、ちょっと待て!今の無し!!忘れろ…!!」
この取り乱し様はやはり前者だったみたいだ
それにしてもこの娘は今日だけで何回血圧が上がったんだろう
これ以上ときめくと身体にも悪い気がする
まぁしかし今のは破壊力抜群だったよ
「……いってきます」
加賀くんは大した反応も無くそそくさと出掛けていく
彼の居なくなった空間で金夜さんは机に突っ伏し悶え出した
「やっちまった…つい言っちまったぁ~…恥じぃ」
私としては「やってやった、言ってやった」って感じなんだけどな
とりあえずお姉さんと二人で彼女の頭を撫でてみた
「まぁまぁ、御茶請けもまだありますので気を取り直してください」
「勝手に食ったら怒られるだよ?」
「ブーノさん、こちらには彼女さんという免罪符があるのです、きっと大丈夫ですよ」
お姉さんはどうやらお茶会の延長戦がしたいだけみたいだ
ニコニコしながら四人分のプリンを冷蔵庫から取り出す彼女に一切の迷いが無い
「さあ、これを食べて元気を出してください」
「オラはいいだ、これから仕事だしな」
「そうですか残念です…ではお茶を淹れてきますね」
盗み食いもほどほどに
そんな言葉を残して巨漢さんも出掛けていった
「酷いですね…人を盗人みたいに」
女三人、まさに
「それじゃあ恋話でもします?」
ワクワクが溢れ出してるところ申し訳無いけどお姉さん…それはオーバーキルってやつだよ
金夜さんのライフはとっくに0だよ、うん
今日はもう沢山頑張ったから甘味だけで許してあげて
「じゃあ聞くけどさ…」
「はい、なんでしょう?」
「アイツあんなこと言ってたけど…本当にアタシのこと好きになってくれるのかな…?」
不安を孕んだため息を吐きながらする質問は、おおよそ初対面の人に投げ掛けるようなものではない
それほどに彼女もギリギリなんだろう
今はただ喜べばいいのに
「それはわかりません、貴女の努力次第なんじゃないですか?」
励ましの言葉が返ってくるかと思いきやお姉さんの返答は案外投げ槍なものだった
「…そうだよな」
「でも朗志さんは誰かを悲しませる嘘をつく人じゃありませんし、貴女を好きになる努力はきっとしてくれます…それは貴方もよく理解してるんじゃないですか?」
「……………うん」
少しの間を空け頷く彼女は淡く口元を緩ませていた
どうやら彼女の中の加賀くんは信用に足る男だったみたいだ
しかしまぁ好きになる努力なんて彼はしなくていいとも思う
先程玄関に一番近い所に立っていた私がギリギリ確認出来たことなので二人とも気付いてないと思うが、出掛ける間際の加賀くんは普段の顔色が嘘かのように耳まで真っ赤にしていた
彼にとって不意に出てきたあの台詞こそが強烈なカウンターだったようだ
あんなのを見せられたら「その内勝手に好きになるな」と思わざるを得ない
勝ち負けがある事ではない
だけど今日は金夜さんの逆転判定勝ちってところで。
とりあえず私の中ではそう落ち着いた
久々に頬張るプリンはとても甘かった
でも私にとっては二人の
今日のところは大満足で
もうお腹いっぱい
ごちそうさまでした
明日も期待してる♪
.
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