勇者暗殺
店を構えてから一週間が経ち、ちらほらと仕事がくるようになった
これも必死に宣伝活動した賜だろう
冒険者ギルドに冒険者登録しに行った時はlevel25の拳闘士という事で少し騒がしくなったが結果オーライ、いい宣伝効果になった
本来なら最低ランクのFランク冒険者からスタートだが俺だけCランクから、そしてロイがEランクスタートになり他は規定通りFランク
すでに二回ほどギルドからの依頼をこなした
内容は近場に出るモンスターの素材集めで一応俺とロイとブーノで赴いたがロイ1人でも大丈夫そうな難易度である
トロントとリーサには主に事務仕事をしてもらってるが今はそんなに忙しくないので二人にはビラ配りとチラシ作りを行ってもらい俺も暇を見つければ街の広場とかで宣伝している
街の方から来る仕事は迷子の猫探しとか家具の修理とかお使いとか
今のところ大きい仕事はまだ無い
体調を崩した母の代わりに夕食を作る、という家事代行の仕事をした時はその家族が俺の料理を大変気に入ったらしく評判が広がって店まで弁当を買いにきた客がくる始末
仕方がないので1度、朝だけ弁当を売る事にしたが初回の30食限定の弁当は10分ほどで完売したし評判も良かったので週1で続ける事にした
表向きには発表こそしてないが玄関の横に小さく「一泊大銅貨二枚と銅貨五枚、三食ベッドつき」と書いたら飛び込みの旅人が二組だけ来てどちらも店から出る時は満足そうだった
客は「パンが柔らかい!!」などと仰天していたが客を取るにあたって用意した羽毛布団が気に入ったらしく帰り際には「あんなに柔らかい布団は人間を堕落させる、恐ろしいアイテムだ」とか不穏な捨て台詞と共に自分だけの穴場を見つけた喜びに打ちひしがれていた
これをヒントに冬になったら炬燵を用意してもっと堕落させてやることを決意する
なんだかんだとせわしない一週間だったが宿として営業してる時以外は全ての業務を18時には終了して皆で夕食を取る
やる気は満々だがブラックに成り下がるのだけは御免だ
ライチ以外にはこの時間以降の外出も許してるし男衆は酒場で羽を伸ばす事もある
家で1人むくれるライチには甘い物を作ってやると機嫌も直るしチョロ…可愛いもんだ
そんなこんなで夜の9時には皆落ち着いて1人の時間を過ごしているが何もしてない訳じゃない
とりあえず今日は次の弁当の献立を考えてる
「サンドウィッチとか食べやすいか…?作るの楽だし…50セットにしても売れるかもな」
呪文のように呟きながら俺は部屋の窓を開ける
俺の部屋は寮じゃなく店の二階
寮の部屋より断然広いが流石に家主特権を掲げさせてもらう
俺は窓から夜風を浴びるのが好きだ
考え事をしてる時は特に
濁った頭が透き通るような気がするから
良いものを運んでくるような気がするから
「こんばんは、今日はもう店閉まいなんだけど」
とりあえず俺は背後の殺気に挨拶をする
感知スキルからは危険信号の悪意がビンビンと伝わってきた
「流石は勇者、隠密は得意な方なんだがな」
振り返ると黒いローブの如何にもな暗殺者がダガーを構えて立っていた
口元まで黒いマスクをつけ顔が殆んど見えないが前髪の隙間から覗く眼光には鋭い殺気が宿っている
「え、勇者って何?訳がわからないんだけど、人違いじゃないか?」
我ながら呆れるほどクサい芝居
もはや茶番の領域
一応しらばっくれてみるが…こういうのは苦手だ
「しらばっくれるな、こちらには確かな情報がある」
やっぱりダメだった
それにしてもこいつには情報源が有るってことか…
となると裏切り者が居るって事だが……
まぁおおよその見当はついてる
俺がまだ城内で世話になってた頃に貴族グループに因縁をふっかけられた事がある
ファルノーツでは国王派閥と貴族派閥の仲があまりよろしくないと聞いたが勇者が活躍すると国王の株が上がる
それを面白く感じないんだろう、貴族は
実際に感知スキルにはちらほらと悪意を向けてくる貴族が引っ掛かったし
「他の奴はもう殺したのか?」
心配なのはそこだ
他の奴らは貴族の悪意にも気付かなかったお気楽な学生
まさか暗殺されるなんて夢にも思わない連中ばかり
簡単に殺される
「そんな事は知らん、俺は個人で依頼を受けてるからな」
もう少し情報を引き出したい
せめて依頼主が誰なのか知りたい
「個人か…誰だそいつ?」
「教える訳ないだろ…と言うとこだが冥土の土産に教えてやる」
はい出ました冥土の土産!
マジチョロいなこいつ
「クロイシャ伯爵だ」
誰だよ
聞いたことないわ
「初耳過ぎる」
「?…相当怨んでたぞ」
「いや、そんなこと言われても…特徴は?」
「前歯が折れてた」
前歯が折れてるって…何だそのヘンテコ貴族は
「…………………………はっ!!」
思い出した
そう言えば無視したら追いかけてきて絨毯に躓いて勝手に転けてた奴が居たな…
…アイツか
つーか逆恨みにも程があるだろ
「思い出したか?これで悔いなく死ねるな」
いや有るわ
人生最後に思い出した顔が小太りのオッサンの顔って嫌過ぎるだろ
絶対成仏出来ねーよ
気持ちとは裏腹に暗殺者のダガーが俺の腹に突き刺さる
「え…あ……うそ…だろ」
「猛毒が塗ってある、確実に死ぬ」
返り血を浴びながら暗殺者が言う
無情に冷酷に
黒いローブが水風船をぶつけたように
赤く、朱く、紅く
人の身体ってこんなに血が詰まってんだなぁ
この期におよんで出て来たのはそんな呑気な感想
「最後に…1つ」
「なんだ?」
「明かりを消してくれないか…?死体の確認は…月明かりだけで頼む」
「よくわからんが、最後の願いくらい聞いてやる」
意外に素直な奴だ
言われた通り明かりを消してくれた
暗闇の中で俺は自分の痛みだけを感じる
手足が仄かに痺れ
身体の内側からじんわりと焼かれいるみたいな
毒耐性大があってもキツいもんはキツい
演技じゃなく本当の事なら上手く騙せるだろう
さて、そろそろ
『死んだ振り《ファニーデス》』
暗殺者、芸人、狩人をそれぞれ10level以上上げると得られるこのスキルは生きながらにして死ぬことが出来る
鼓動と呼吸は止まり、体温も冷たくなる
しかし厄介なのは10分以上動かないと身体が硬くなること
その前に油断してるところを取っ捕まえてやる
俺は力尽きた振りをして窓際の壁に徐に座り込んだ
「死んだか…」
暗殺者は俺の脈と瞳孔を確認すると1つ大きな溜め息を吐いた
その溜め息は安堵からかもしれんが死んだ振りでは脈も止められるし勿論瞳孔だって開けっぱなしのユルユルに出来る
「………」
気が緩んだのか
暗殺者は血のついたローブとマスクを外し床に投げ捨てた
これで顔は覚えたし逃がしたところで見つけだせる
…それにしてもマスクの下はなかなか整った顔立ち
俺なんかご近所さんに「いつも顔色悪い人」として覚えられてるっていうのに…
個人的な問題だがこいつに対する罰が俺の中で二段階ほどアップ
私情私怨上等だ、こっちは殺されてる(死んでない)んだから文句は言わせない
「お、あった」
暗殺者は部屋の中を軽くうろつくと風呂場のドアを開けた瞬間にそう呟いた
まさかお前のんびり風呂にでも入ろうってのか!?
殺した奴の家で、死体を放置して!?
サイコパスかっ!!
まぁいい…テメーが優雅に血の臭いを落としてる間に素っ裸で無防備の状態のところを襲撃してやるよ
今に見てろよこのヤロー
「こんな所にも…これもダメだな」
そして案の定服を脱ぎ出した暗殺者はYシャツにまで血が染みてるのを見つけ落ち込んでいた
ざまあ見ろ
俺を殺した(だから死んでない)罰だ
人を殺した罰がシャツの染みなのは些かショボい気がするが未だ消えぬ毒の感覚で俺は今冷静さを欠いているんだと思う
しかし暗殺者がYシャツを脱ぎ捨てた辺りから事態が一変する
「よかった…これは無事だ」
何故か暗殺者は胸部の辺りに包帯を巻いていた
怪我でもしてるのかと思ったがすぐにそれが的外れだと気付く
そこには男にはあるはずのない微かな膨らみがあった
まさか…
「最近少し苦しくなってきたな…ここにきて成長期とか笑えないぞ」
彼女は自分の胸を撫で下ろし溜め息を吐くと風呂場に入っていった
『金渡使徒さん、男だと思ってた暗殺者が女で、しかも不可抗力とはいえ裸を見てしまった時はどう対処したらいいですか?』
『まず最初に私はsiriではありませんし、用がないなら呼ばないでください』
『相変わらず冷たいな』
『一つだけ申し上げれるとするなら最低です、としか』
『………』
ぐうの音も出ないので金渡使徒さんに頼るのを止めた
こんな状況で罵倒されるのは心が持たない
いやね、目を瞑る事も出来たんだけどそれだと死んだ振りがバレてしまう訳で…いた仕方なかった訳で…決して疚しい気持ちがあった訳ではない…はず…たぶん…おそらく…きっと
スーパー言い訳タイムをループしていると彼女が風呂から上がってきた
落ち着け俺、俺落ち着け
落ち着かないと死体から脂汗が出る怪奇現象と共にバレる
そんで今バレたら俺が悪者みたいじゃないか
「これでいいか」
彼女はクローゼットから適当に服を見繕うと何の躊躇いもなく袖を通した
着替えがないからといって殺した相手の服を着るのはいかがなものかと思う
もう少し用意周到にしとけよ
いや、もうこの際そんな事はどうでもいい
こうなったらここは一刻も早く彼女には立ち去ってもらいたい
服もやるし殺した事も許すからとっとと出ていってくれ…!
俺の願いも虚しく彼女はベッドに腰掛け煙草を吸い始めた
というかさっきから現場に証拠残し過ぎじゃない!?
暗殺者なら跡を濁すなよ!
あ、こら!花瓶を灰皿にするな!!
いや、落ち着け
こんなに無駄に長居するということは誰かを待っている可能性も視野に入れといた方がいい
となると仲間が近くに居る?
とにかく、もう少し様子を見よう
「来たか」
俺の予想は当たり、彼女が煙草を吸い終えるタイミングで二人の男が窓から侵入してきた
男達は俺の変わり果てた姿を見ると口元を歪ませて下卑た笑みを作る
「よくやった、お手柄だ」
「これで約束通り指定した孤児院のバックアップ…を!?」
彼女の腹部にもう一人の男がナイフを刺した
「伯爵様があんな小汚ないガキのために金を出す訳がないだろ」
「騙した…な」
「少し考えれば解るはずだ、騙されるお前が悪い」
なんだこの茶番は、胸糞悪い
もう死んだ振りをする必要もないな
「おい…人ん家で勝手な事すんなよ」
硬くなった関節を鳴らしながら立ち上がる俺を男達はまるで幽霊を見るような目で見ていた
下卑た笑みは消え、その顔は驚きと恐怖に支配される
「お、おま、死んだはずじゃ!?」
腹には未だにダガーが生え、毒のダメージも食らっているがこんなダメージ量じゃ死ぬ訳がない
俺のHPの底はこんなんじゃまだまだ拝めない
「勇者ナメんな」
俺はスキル『威圧』を発動した
威圧は戦闘職の合計level差が大きければ大きいほど効果があり、相手を気絶させる事が出来る
問題なく男達は気絶
彼女は苦悶と驚愕が入り雑じった顔でその光景を見ていた
「お前…毒……効かないのか…?」
「静かにしてろ、今治してやるから」
俺は自分の腹のダガーを抜き傷口をアイテムボックスから出したポーションで治す
自分自身に治癒魔法はかけれない
不便な仕様だ
「少し…いや、かなり痛いが我慢しろ」
「アグッ…!」
彼女の腹のナイフを抜き直ぐに完全回復を唱える
「安心しろ、女の身体に傷跡は残さねえ」
「………」
無事に傷は塞がり跡も残らなかった
とりあえず一安心
だが裏切られとはいえ暗殺者
一応手足を縛ってベッドにくくりつけておく
「ちょっと事後処理するからお前は大人しくしてろ」
俺は気絶してる二人の顔に手を翳し『
途端、二人はパチリと目を覚まし入ってきた窓から出ていく
「今、何をした?」
「ちょっと記憶を弄った、これであの二人の中では俺とお前は死んだ事になる」
加えてその内容を主人に伝えるよう暗示をかけたから上手くいけばもう刺客を送られることはないだろう
「勇者ってのは化物染みてるな」
全勇者がそうとは限らないが俺は否定しない
「どうする?まだ反抗期?」
「あんなの見せられて暴れる気は無い、もともとそんなつもりも無い」
嘘は言ってなさそうなので俺は彼女の拘束を解いてやる
「何で俺を助けた…お前にメリットは無いだろ……そもそも俺はお前を殺そうとしたんだぞ」
面倒なシリアスパートに入ろうとしてるが俺はそういうの苦手だ
「いや、なんか事情がありそうだったし…このまま殺されんのも可哀想だなと思って」
俺がこいつを助けた理由なんて同情以外の何物でもない
それが全てだ
目の前に死にそうな人がいて自分の力で助けられるなら誰でもそうすると思う
少なくと普通に生きてきた人間なら、誰でも(建前)
というか自分の家で人が死ぬとかマジで勘弁してほしい(本音)
「お前…いや、名を教えてくれ」
「?、俺は朗志、加賀朗志だ」
ターゲットの名前も知らなかったのかと心の中でツッコミを入れる
「加賀か、覚えておく」
「勝手にしてくれ、そんでお前は何ていうんだ?」
「スミヤ」
「変な名前だな」
「加賀に言われたくない」
確かに、こっちでは俺の名前の方がマイナーだ
だがスミヤもなかなか珍妙だと思うけどな
どっちかって言うと男の名前みたいだ
まぁ飽くまで日本人の基準だと、だけど
「ところでスミヤはこれからどうするつもりだ?」
こんな殺し屋紛いの事を続ける気なら放っておく訳にはいかないが…
「この仕事、俺には向いてないみたいだ…命も惜しい」
そうだそうだ
こんなことするもんじゃない
本人が懲りてるなら問題も無さそうだ
「でも…俺が何とかしないと……俺が育った家が…家族が…」
「お前…今まで何人殺した?」
深刻そうな彼女に場違いな質問かもしれないが俺にとっては重要だ
「殺しの依頼はお前で二回目…だが二回とも失敗した」
「そうか、じゃあまだやり直せるな」
人を殺めなければ
奪わなければ
まだ取り返しがつく
「お前はもうその家には帰るな、危険だから」
仮にさっきの伯爵連中に生きてることがバレたら確実に命を取りにくるだろう
そうしないと今度は国王の意思に背き勇者を殺そうとした自分達の身が危ぶまれる
「だけど…あの家は俺が居ないと」
「俺がなんとかしてやるよ」
「お前に何が出来る!20人の子供を養うのか!?それは勇者にとって足枷にしかならないはずだ!」
あー、そんなに居るんだ
そう言えばさっき孤児院がなんとかって言ってたな
「あんまり声を荒げるなよ」
「すまん、しかし…」
彼女の不安を消し去る方法は一つしかない
俺は金渡使徒に頼んで金貨が詰まった袋を懐から取り出した
「OKOK大丈夫、勇者は金持ちだからな(嘘)50枚はある、これだけあれば20人だろうがしばらく何とかなると思わないか?」
スミヤの口が何か言いたそうに開いているがどうやら言葉が出てこないようだ
「気持ちは解るけどここは大人しく言うことを聞いてくれ、でないとお前だけじゃなくガキ達の命も危なくなる」
深い絶望
遅い後悔
失う虚無感
三つがスミヤの中で混ざり合い
静かに涙となって零れ落ちる
その泣き方はどこか無機質で
脳の処理が追い付かなくて勝手に出てきたみたいな
「お前泣き方怖いぞ」
「いや、これは…なんだろう…止められない」
俺はここでスミヤを慰められるほどの伊達男って柄でもなく
何だったら初対面の奴に殺された挙げ句泣き出される地獄の所業にこっちが泣きたいくらいだ
血と涙で汚れるシーツ
洗ったばっかりだったのに…
「…俺はもうあいつらに何もしてやれないんだな」
5分ほど泣いて落ち着いたスミヤがポツリと言う
「そうだ」
俺は何の捻りもなくドストレートに返す
「皆仲良くおっ死にたいなら帰ればいいし、いつかまた会える希望を抱きながら生きてくもよし…まぁオススメは後者だけど選択権は飽くまでお前にある…俺も暇じゃないんで今決めてくれ」
急かすようで悪いがサンドウィッチに何を挟むかまだ決まってないもんで
「そうやって解りやすく言葉にしてもらえると諦めもつくな、ありがとう…すまんがあいつらを頼んでもいいか?」
「了解、んじゃ近い内に手を打っとくわ」
時計を確認すると短針が11を指そうというところ
「もうこんな時間か…今日は泊まってけ、女の夜道は危ないからな」
「………」
俺はもう少しだけ仕事に関する予定をまとめたいので一度下にコーヒーを淹れにいく
ついでに金渡使徒で輸入したココアも一緒に淹れてスミヤに渡してみた
「これは?」
「ミルクの入った甘い飲み物」
「それは?」
「コーヒーっていう苦い飲み物」
コーヒーもココアもこっちの世界には無い
得体の知れない液体を恐る恐る口に運ぶスミヤ
「ん、美味いな」
「それは良うござんした、俺はあとちょっとだけ仕事の準備があるからお前はそれ飲んだらとっとと寝ちまえ」
ココアは異世界人の口に合ったようなので俺は机にコーヒーを置き小さなランタンにだけ明かりを灯す
そしてしばらく静かな時間が流れる
聞こえるのは夜に鳴く虫と鉛筆が紙の上を走る音のみ
ホットだったコーヒーがぬるくなってきた頃だった
「なあ」
唐突にスミヤが言う
「何だよ、鬱陶しいなら下で作業するから早く言えよ?」
正直この手作りデスクで作業した方が捗るから場所を移したくない
「いや…そうじゃない」
「じゃあ何だよ?」
「お前は…加賀は何故そこまでしてくれるんだ…?」
何故と言われても理由なんか特に無い
無くてもいいだろ
そんなもん後から付いてくるもんだ
「理由が無くちゃ不安か?」
「ああ、このままだと眠れそうにない」
「じゃあ俺が勇者だから、ってことで」
一度もスミヤの方を振り返ることなく、取って付けたような事を適当に言ってみる
「………」
スミヤの返事は無い
納得はしてないだろうが呑み込んでくれたのか…
「なんで俺が女として生まれたのか…今日、なんとなくわかった気がする」
「はぁ?今度は何を言…おぶッ!?」
訳のわからない事を口走りだし流石にイライラしてきたので仕事の手を止めて説教でもしてやろうかと思ったが背後に立っていたスミヤが全裸だったので驚いて咳き込んでしまった
「こんな貧相な物しかなくて申し訳ないが他にやれる物は無い、好きに使ってくれ」
「そ、そんなつもりでお前を助けた訳じゃ…ん!?」
手首を掴まれ強引に口付けされた
…初めてだったのに(この体では)
「わかってる、でもこれは俺なりのケジメだから…受け取ってくれないか?」
ダメだ、今のでもう頭の中ぐちゃぐちゃになって冷静に思考出来ない
「ひ、ひでぇ…もうお婿に行けない」
「ん?その時は俺が貰わせてもらうよ」
あらやだ、イケメン…
……いかんいかん、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった
「いやいや、でも若い娘さんがそう無闇に肌を晒すもんじゃあ…」
焦って実年齢が顔を出してるのに俺は気付かない
「俺ももう18だ、純潔を散らすには適正年齢の範疇だと思うぞ?」
もう何を言ってもスミヤの勢いは止まらない
このままじゃ本当に犯される
「それにお前はこんな俺を女として見てくれた…なんというか……悪い気はしなかった…////」
止めてくれ…
このタイミングで潮らしく顔を赤くされても困る
理性がサヨナラホームランしそうだ
「なんだろうな、この高揚感…初めてだ……なぁ、もう一度してもいいか…?」
「な、なにを…?」
「ん…言わせるなよ、意地悪…////」
頭の中で何かが弾けたような音がして
俺の理性は逆転サヨナラ満塁ホームランした
ここから先は
あまり記憶にない
ーーーーー
気が付けば朝
店を開ける時間
「おはようございまーす!」
「うぇ…頭痛ぇ…呑みすぎた」
早番のロイとライチが出勤してきた
「……おはよぅ」
「なんだ旦那、今日は何時にも増して顔色悪いじゃねーか、大丈夫か?」
「今ここからすごいイケメンさんが出てきたように見えたんですけどお客さんですか?」
罪悪感に苛まれ喋る事すら億劫な俺はテーブルの上の朝食だけ指差す
「わーい!ごはんです!…あれ?食器が四人分ありますよ?」
「さっきの客の分じゃねーか?」
しまった…食器を片付ける事すら忘れていた
「ははーん、なるほど」
ロイが要らん考察に答えを出す
「さては旦那、男色か?」
「………」
「だんしょくってなんですか?」
「チビ助…お前にはまだ早い」
勝手に色々話を進める二人に俺は昨晩とは違う意味で限界がきた
「違ぇわボケェェエエエ!!!!!」
ーーーーーー
朗志の怒号が木霊している頃、スミヤは新しく獲得した称号を確認していた
「何だこれ、『勇者の伴侶』?」
その称号にどんな意味があるのか
それはまだ誰にもわからない
.
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