働かざる者でも食いたいけどね…
俺達が勇者として転移してから1ヶ月が経った
時が経つに連れてここが本当に地球とは違う星なんだと実感する
まず太陽と月が2つずつあるし
エルフとか獣人とか居るし
剣と魔法の世界だし
しかしそんな世界でもやはり金は天下の回りものだ
王から軍資金として貰った金は三千万G (ゴールド)
単純に1G=1円として考えて問題なく
出回る通貨の計算も案外容易くて助かった
10G=小銅貨
100G=銅貨
1000G=大銅貨
10000G=銀貨
100000G=大銀貨
1000000G=金貨
10000000G=大金貨
大金貨にして三枚分だがそれだと使い勝手が悪いのでいくらか銅貨や銀貨に両替してもらっている
物価は日本に比べるとかなり安い
おおよそ三分の一くらい
イメージとしては120円のパンが40円で買える感覚だった
これだけあると10年くらいは遊んで暮らせそうだが殆んど全員高価な装備を買ってあとは路銀にするらしい
「んー、こんなもんかな」
ファルノーツ王国の隣国、クエンラ王国のバカン領に来た俺は木の板に黒い塗料で『よろず』と書いて満足気
俺は武器や防具なんて買わなかった
その代わり思い切ってクエンラの土地と家(の材料)、そしてファルノーツの奴隷商から奴隷を五人買った
腕っぷしは強いが気性の荒い蛇眼族のロイ
美人で気立てはいいが目の見えないリーサ
読み書きが出来るが左脚が無いトロント
耳を失ったエルフの少女ライチ
巨漢で力持ちだが声が出せないブーノ
商人にとっては全員欠陥品らしく安く買い叩けた
ちなみに奴隷は名を奪われるらしく全員俺が名付けた
旅馬車で10日ほど揺れていて、その間全員「はい」か「いいえ」くらいの受け答えしか喋らなかったがそんなコミュニケーション能力じゃ困る
上げたlevelと得た特技を駆使して5日で三軒の家を建てた俺は周辺住民に驚かれながらも看板を一番大きい家の玄関先に掲げた
そう、俺は職を得たい
剣士とか魔法使いとかそういう職業じゃなく働いて金を稼ぐまっとうな商売をしたい
いくら金を持っていて楽な生活が送れるとしてもそんなの俺の性に合わない
何もしないでそわそわしてしまうのはもはや呪いなのかもしれないが…
とにかく!
俺はこの街で商いを行う!
彼等はそのために集めたスタッフだった…のに
客商売にこんなテンションじゃ目も当てられんわ!
まぁ彼等の境遇もなかなか悲惨なものだったと思う
見た目はもちろんのこと、全員死んだ魚のような目をしてる
「全員集合!」
店として使う家に皆を集めると真新しい椅子に座るように指示した
奴隷は主人に逆らえない魔法の契約を交わしてるので基本大人しく言うことをきくが蛇眼族のロイだけは納得いかない様子だ
しかしそんなことこの際気にしない
「お前らが今までどんな人生を送ってきたか知らねーが過去の自分は今この場をもって殺せ!出来なくても俺が殺す!」
奴隷達が困惑の顔を浮かべる中、ロイは床に唾を吐く
「訳わかんねーよ、あんたもしかしてヤバいやつか?」
「それはお前らの判断に任す」
俺は
これには悪態をついていたロイも驚愕する
契約書の破棄は奴隷所有権の放棄と同義
つまりこの瞬間彼等は自由の身
さぁどう出る?
「こいつやりやがったぜ!!」
なんとも下卑た笑みを浮かべるとロイは俺に殴りかかってきた
「自由だ!俺は自由!!テメーの死体から全部奪って新しい人生おっ始めてやるぜ!!」
「黙らっしゃい!!」
「ヘブっ!!?」
まごうことなき平手打ち
食らったロイは空中三回転捻りの後に床に転がり気絶した
死んではいない…はず
たぶん…おそらく
「うるさいのも静かになったし、次だ」
今の光景を目の当たりにして小刻みに震える彼等の心情を踏みにじりながら俺はエルフの少女の顔を両手で挟む
死んだ魚の目が絶望と恐怖を語り出すが仕事のためなら俺は心を鬼に出来る
「
「……え?」
淡い光が掌から漏れると彼女の尖った耳が再生された
「初めて使ってみたけど上手くいったのか?」
「うそ……聞こえる」
死んだ魚の目は生きた人間…もといエルフの目に戻りポタポタと大粒の涙を流し始めるがこんな事でいちいち感動されてたらいつまで経っても仕事が出来ないだろうが
俺はライチをポイっと投げ捨てると元奴隷達の悪い箇所に次々と触れていき片っ端から完全回復を唱えた
そして数分後…
「うお~!ご主人ー!オラあんたに一生ついて行くだよー!!」
「このご恩一生忘れません…!!」
「今日初めてこの目で見た貴方の顔、深く…深く心に…刻まれました」
「うぅ~…ひっ…ひっ…あり、ありがとぉお~!」
号泣の四重奏
なかなかに鬱陶しい
手に脚にベタベタと張り付きやがって
動けないだろ
「そういう暑苦しい展開は望んでない、とっとと離れろ」
約二週間ほとんど黙りだった奴らがよくもまぁベラベラと喋ること喋ること
しかしこれなら最低限接客は出来そうだ
飼い慣らされた忠犬のように行儀よく正座する四人に椅子に座るよう促すと俺はようやく本題を切り出す
「お前らはもう奴隷じゃない、人間の…そしてエルフのお前らに頼みたい」
人は一人にじゃ生きていけないのと同じように人は一人じゃ仕事も出来ない
少なくとも俺はそう思っている
「俺と仕事をしてくれないか?」
もちろん俺がこいつらを雇うという形になる
日当は銀貨1枚
週休2日で三食飯付き
俺が提示した条件に誰よりも食い付いたのは意外にも…
「なにっ!?何だその好条件は!?」
ロイだった
「相場の2~3倍じゃねーか!?」
「意外と復活が早いな…んで、お前はやるか?」
「やるやるやる!ぜひやらせてくれ!!」
さっきまで殺気立ってた奴が調子が良いことで…
これが金の力かと思いながら他の四人にも意見を聞く
「もちろんやるだよ!」
「是非ともやらせていただきたい」
「こんな私でよろしければ」
「願ったり叶ったりだよー!」
これで無事従業員五人ゲット
合意的かつ合法的
といってもこの世界の法律はまだあまり理解してない
「んじゃ交渉も成立したし買い出しでも行くか、全員で」
欲しい物は山ほどある
家具に衣類に食料
特に食料は必須だ
この長旅で食べてきたのは味気のない保存食ばかりだし
ラスクの様に硬くそのくせ味の無いパンにはほとほとうんざり
思い出しただけて顎が痛い
使い勝手のいい台所もつけたし久しぶりに自炊して和食が食べたい
「その前に今日の分の給料渡しとくから何か気に入ったもんあったら買っていいぞ」
奴隷の大半はまともな教育を受けていないらしく
トロントとロイ以外は金の使い方も知らない
従業員は奴隷じゃない
奴隷が従業員じゃない
これを機に金を稼ぎ、そして使う喜びを覚えてもらえれば御の字である
労働意欲に繋がるはずだ
「ダッハッハッハッ!奴隷に金を渡すなんてよー!本当にあんた正気の沙汰じゃねーよ!」
受け取った銀貨が本物だと悟るやいなや笑い転げるロイ
こいつは情緒が不安定過ぎるだろ…
「奴隷じゃねーって言ってんだろ?ロイ」
名前を呼ばれたロイの笑い声がピタリと止む
「俺はよう…お袋にだって名前で呼ばれた事がなかった……悪さをしちゃ捕まって売られて…逃げて殴って捕まって売られて、の繰り返し……俺は世の中にとって害悪な存在で、だから誰にも必要とされないし名前も呼ばれないんだと思ってた……だけど何なんだよアンタは……俺はいったい何なんだよ…」
「ナイーブになんな面倒臭い…お前はロイ、以上だ!とっととついてこい」
「ん……おう」
急に病まれても気の効いた台詞なんて言えないし言う気もない
そういうのは本当…面倒臭い
「なあロイ、名無しの誰かは死んだか?」
「……さあな」
ここまで態度が急変すると少し気持ち悪いが大人しくなったならそれでいい
クエンラ王国自体は潤った国として知られているがバカン領はそれほど栄えてはいない
決して悪くはないがファルノーツの王都に比べたら圧倒的に活気が足りない
まぁ…王都と比べちゃいけないのかもしれないけど
人口12万5千人
国境に隣接する領地で主に旅人を相手に生計をたてている
隣国は亜人族の国、タレンキン帝国であり、そのためか人口の半分は亜人
この人口比率は人間主体の国としては他に類を見ない
多種族の文化が混ざり合い独自の文化を形成していく様を見て発明の街なんて仰々しく呼ぶ輩も居る
反面、亡命者とはまた別の密入国者も潜伏先にしているため治安はさほどよろしくないとか
人拐い然り
暴漢然り
一応自警団があるが人手が足りてないらしい
まぁ俺としては土地が安く買い叩ければ何処でもよかったから特に文句は無い
しかし気分もよろしくない
「………慈悲を」
歩いていたら妹より小さい女の子の物乞が俺にタカりにきた
五人がまだボロ布だから奴隷を多く連れてる金持ちだと思ったんだろうが慈悲をやる気は更々無い
「服屋…どこにあるかわかるか?」
「?…綺麗なドレスを飾ってる店ならこの先の広場にあるよ?」
「そっか、ありがとよ」
俺は礼を言うと少女の小さな手で作った皿の中に大銅貨を入れる
「うわあ大きいやつだ!ありがとうお兄ちゃん!」
あんまり大きな声で言うと他の誰かに横取りされるんじゃないかと思ったが近くに悪意が無いことを確認して安心した
これは初級の感知スキルで俺は常に発動してる
「ああいうことをするのは良くないと思いますよ…?」
トロントの忠告はもっともだ
俺も馬鹿じゃないからそれくらいは解ってるつもり…なんだが
「あの女の子、明日も明後日もその次の日も貴方を見付けたらきっと駆け寄ってきます」
「んー…まぁそん時は何とかするよ、とりあえず先に服屋だ」
これ以上あんなストリートチルドレンに纏わり付かれるのは御免だ
精神的に来る物がある
そうならないためにもコイツらにはもう少し小綺麗になってもらわないといけない
「おじゃましまーす」
少女の言っていた店を見つけさっそく扉を開ける
「いらっしゃい、どんなものをお探しで?」
「とりあえずこの小汚ない連中に三着ずつ服を見繕ってください、普段着と作業着と洒落着を一種類ずつで」
服屋の女店主が景気よく承諾すると奥から男女の若い店員を呼んで素早く採寸を終わらせた
「サイズは問題無さそうだ、在庫ならすぐ用意出来るよ?」
「じゃあそれで」
「まいど!」
とりあえずこの場で洒落着に着替えさせること数分
「いやあ皆見違えたね!これなら何処に出しても恥ずかしくないよ!」
店主は世話焼きの臭いをぷんぷんさせながら満足そうに微笑んだ
「あの…これ、ちょっと露出が……////」
薄いピンク色のワンピースをヒラヒラ靡かせて喜ぶライチとは対象的にリーサは露になったへそを手で隠しながら顔を赤らめる
「若いんだからこれくらいいいんだよ!あんたはスタイルもいいし!それとも何だい、アタイのコーディネートにケチつけようってのかい?」
「いいえ…決してそのような事は……」
半ば強引な店主に押され気味のリーサ
悪いとは思いながらも面白そうなのでそのまま放置する
「しかしこの履き物は…あまりにも体のラインが…」
タイトなジーンズがタイト過ぎてリーサは戸惑いを隠せない
太股の間のセクシートライアングルが眩しいこと眩しいこと
…っと、実年齢が如実に出てきたので俺は無心になるとしよう
「いいじゃないかい、せっかく安産型のいい尻してんだから!見せびらかしてやんな!」
「ひんっ!?」
ケツを叩かれ小さく跳び跳ねるリーサをもう見ていられない
目のやり場に困った俺はショーウィンドーの看板商品に目を輝かせるライチに忍び寄る
「それはたぶん高いからちょっと今回は勘弁して」
「ひゃわっ!?ご、ご主人様、驚かさないでください!」
見た目中学生くらいの女の子に「ご主人様」と呼ばれるのはなかなかにヤバい状況だから止めてほしい
「俺のことは加賀か朗志と呼んでくれ…」
「え、何故ですか?ご主人様はご主人様ですし私の恩人です!」
「恩人のお願いなんだけど…」
「わかりました!ろーじ…様?」
「できれば「さん」で」
「了解です!ろーじさん!」
素直で良い子だ
しかしライチを買ったのは素直で良い子だからじゃない
この子は魔法が使える
1人は欲しい人材だった
エルフは生まれながらにして魔法が使える森の民
それはもう自転車に乗るよりも容易く
本来なら貴重なエルフの奴隷だが彼女には耳が無かった
故に魔法に必要な詠唱も辿々しく、その効果は著しく劣っていた
「それにしても…綺麗だな、それ」
少女はドレスと言っていたが結果としては全く異なる物…
そう…これは
「魔道着ですね」
魔道着は魔法を行使する奴にとって1度は欲しがるアイテム
袖を通した者の魔法を一段も二段も上げてくれる
それは本来黒色が主流だが理由は制作工程でどうしても不純物が混ざるから
しかし条件が揃うとその色は何の屈託の無い純白になるという
この店の魔道着は少女がドレスと見間違うほど美しい純白
「これは高いよ旦那、あんまり売る気無い値段設定だしね」
「ちなみにおいくらで?」
「大金貨1枚」
わーお
この服一着で高級車が買えちまう
内心では驚きつつも俺は金渡使徒で掌に大金貨を生成していた
「OK、それでいいや」
「え…わっとっとっ!?」
大金を雑に投げ渡され慌てて受け取る店主
十数秒ほど固まって状況を把握した
「のえー!?マジかいあんた!正気かい!?」
真面目も真面目、大真面目
これを買えば得をする
これを買えば役に立つ
俺の直感が囁くような声で叫んでた
「買える物は買える時に買い叩くだけだよ、狂っちゃいない」
商人のレベルを上げて得た[買い物上手level4]
30%まで値引き可能
(しないけど)
商品の損得感覚
(性能最高)
そしてそれらと合わせて鑑定スキルを発動すれば…まぁ詐欺に引っ掛かる事はないかな
「前言撤回記録は最速だけどお会計よろしく、お姉さん」
「ま……まいどー!!」
気前の良い店主は他の服を全部サービスしてくれた
そりゃ1年くらい店開けなくてもいい大金が入ってきたら気前もよくなるかって話だ
「ごしゅ…ろーじさんは本当に大金持ちで超かっこいいです!」
ライチ、そんなに煽ててもさっきの魔道着はまだ着せてやれないぞ
「ライチ、俺はお人好しじゃない、大事な仕事の時しか着せないからな」
「そんなぁ~…」
落ち込むライチは残してきた妹にどこか似ていた
借金こそ返したが特段裕福になったわけじゃない加賀家では大抵欲しい物を買ってもらえない
妹はよく駄々を捏ねては最終的に泣く一歩手前の顔
「ところで朗志さんが始める仕事とはどのような内容なのですか?」
危うく黄昏かけてると買った眼鏡がよく似合うトロントに引き戻された
「先ほど看板に「よろず」と書いていましたがどのような意味で?」
「よろず屋ってのは所謂なんでも屋って意味だ、仕事内容は客次第って感じだな」
「なんでもとはまた…大きく出ましたね」
「せっかく何でも出来んのに答えを1つに絞るのは味気ないだろ?」
そう、何でも出来る
本来なら神殿経由じゃないと
戦闘職で金貨4枚
一般職でも金貨2枚
それも込み込みのあのお値段
法外的で人外的なあのお値段
【一般職】
職人level82
料理人level43
商人level31
村人level27
音楽家level18
芸人level21
王level14
専業主婦level68
派生・上位職多数
スキル多数
【戦闘職】
勇者level52
戦士level31
騎手level22
拳闘士level66
剣士level33
魔法使いlevel42
僧侶level51
賢者level14
盗賊level25
暗殺者level17
遊び人level5
吟遊詩人level11
錬金術士level30
派生・上位職多数
スキル多数
金渡使徒を自由にさせた結果
自分でも怖いくらい反則的に職とレベルを得ていた
勝手に危機感を覚えた俺は金渡使徒の自動操作を解除し
というのも商業ギルドに開業申請しに行った際にステータスを見せるはめになったので慌てて編集したのだ
もしこのままのステータスを見せてたなら恐らく大騒ぎになってたのは間違いない
後日冒険者ギルドにも登録しに行く予定なのでしばらく俺の扱いは才能のある拳闘士ってとこだろう
後生のために職人職も得ている堅実な男
そんな評価でいい
悪目立ちするのはよくないからな
「ふー疲れたー」
色々と必要な物を買い足していたら帰ってくる頃にはすっかり夕暮れ時
歩き回って疲れたライチは溶けた氷のように椅子に座った
「飯もまだだったからな、すぐ用意するよ」
「用意するって、オラ今日食いもん買ってるとこ見てねーだよ?」
ああ買ってない
間違いなく買ってないよ
だって野菜はしなしなだし
調味料の種類は少ないし
何の肉かわからないし
果物は得体の知れない配色だし
パンは硬いし
そもそも米が無いし
物価は安いが品質は酷い
安心安全のジャパンが恋しい今日この頃です、はい
という訳で
『金渡使徒さん、日本で手に入る食材を1000万円分アイテムボックスにブチ込んどいてください』
『かしこまりました、では栄養バランス重視で選択しておきます』
『ありがとう』
『どういたしまして』
最近知ったが金渡使徒と多少の意志疎通が出来る
感覚的にはsiriと喋ってるみたいだ
アイテムボックスに食材が入っているのを確認すると俺はもう一度金渡使徒に礼を言う
『しつこいです』
冷たい奴だ
一心同体なんだからもう少し仲良くしてもいいじゃないか
良くも悪くも業務的
「小一時間で出来るからその間に自分の部屋に荷物置いてこい」
「はーい」×5
言い忘れていたが五人にはそれぞれ一人一部屋割り振ってある
部屋を宛がった事に大層驚いていたがどのみち他に住むところもないだろうに…野垂れ死なれても困る
店の両サイドに建てたのは男子寮と女子寮
それぞれ部屋は6つずつ
一部屋はたいした大きさはないが二人で住んでも狭くない程度
空いてる部屋は宿として貸し出すのもいいだろう
気になるのは男組が自分の金で買ったもの
意外にも奴らは楽器屋で銀貨三枚でギリギリ手の届く安いギターみたいな楽器を買っていた
どうやらこの世界には子供達に色んな物語を弾き語るミュージシャンが各地に存在するらしく、ギターは一度は触れてみたい代物なんだとか
そんな路上ミュージシャンと紙芝居を足して2で割ったような文化は知ったこっちゃないが三人とも子供のように目を輝かせていたので俺は特に何も言わなかった
問題は誰の部屋に置くかだが…それは飯の時にそれとなく聞くとしよう
ライチは露店で果物を棒で刺した単純な食べ物を二本買って一本をリーサにあげていた
結局どっちの味も気になったライチに気付き半分ずつ分け合う光景は姉妹のようで不覚にも少しほっこりしてしまった
途中「上野のアメ横みたいだなあ」とか思ったがそんな感想は無粋である
リーサは一銭も使わなかったが聞いてみると笑顔で「貯金です」と言っていたので深追いはしない
それもまた一興
1日を振り返っていたらあっという間に今夜のディナーが完成していた
この世界に家電は無く、代わりに家庭用魔道具なるものが存在する
あまり見た目は変わらないが仕組みが全然違う
詳しく言うなら動力が全然違う
火や水を扱うのに全て魔法の玉を使っている
コンロなら火玉を
水道なら水玉を
冷蔵庫なら氷玉を
それぞれそのビー玉大の玉を嵌め込んで使用する
ちなみに明かりも火玉だ
これらは全て使い捨てで1個だいたい大銅貨二枚
そして1個はだいたい3ヶ月持つらしい
光熱費で言ったら安いもんだと思う
使い勝手もたいして変わらなかったので問題無し
「飯出来たぞー」
「待ってましたー!」
既に全員着席済みだった
どうやら匂いに釣られて早めに準備したらしい
「美味しそう!ねえねえろーじさん!これなに!?なにこれ!?」
全員分の配膳を終えて着席するとライチが発情期の猫のような勢いで聞いてくる
今夜のメニューはしょうが焼きにポテトサラダ、味噌汁にそして白米
炊飯器が無かったので土鍋で炊いてみたが…上手くいってよかった
メニューを紹介してみるも全員頭の上に疑問符が浮かんでいる
無理もない
こいつらにとっては異世界の料理
「食えばわかる、舌で覚えろ」
飯を前にして頭を使う事もない
本能のままに明日の糧にするのみだ
きっとこれから忙しくなる
だけど出来れば毎日全員で手を合わせて言いたいもんだ
「いただきます」
当たり前の事かもしれないけど
俺はこんな小さな幸せを大事にしたい
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます