第7話

 翌朝の朝九時。電車は東京駅を出発して下田に向かった。

 どこかの団体や家族連れで車内は込み合っている。シネマ同好会のメンバーもその中にいた。総員七名、気心の知れた女ばかりの旅である。同好会には男子学生も若干いるが華やいだ女たちの熱気にたじろぐのか途中から殆どが幽霊部員になってしまう。

 今朝は集合時間に遅れるものも七名全員滞りなく出発したのだった。陽気に笑いざわめく女たちにまじって、浮かぬ顔をした芙美子もいた。奈美恵のことが気になって頭から離れない。昨夜はあの後、電話が長引きそうだったので、忍び足でトイレに行き、また同じようにして二階の自分の部屋に戻ったのだった。奈美恵がちひろから別れ話を持ち掛けられていることは確かである。だが彼女は執拗に拒んでいた。

 朝、府も子が出かける時も自分の部屋にこもりきりだった。ドアの隙間から声をかけても、奈美恵はウーンと面倒臭そうにつぶやいたきり、布団の中から出てこない。遅刻しそうだったので芙美子は仕方なく家を出た。

「どうしたの、具合いでも悪いの。」

 隣に座っている仲間の誰かの声で、芙美子は目をあけた。

「ごめんなさい、睡眠不足なの。着くまで少し眠っていいかしら。」

 そう答えて、また両目を伏せる。すぐに眠ってしまい、しばらくして目が覚めたあとも狸寝入りをしていた。

「ねえ、中川君と芙美子さん、やっぱり別れちゃったのかな。」

 詮索好きな仲間の、ひそひそ声が聞こえてこる。中川というのは、芙美子がこっぴどくふった中川孝雄のことだ。

「だって中川君、最近他の女の子とよく一緒にいるじゃない。ほらポニーテールのジーンズはいてる子。」

 知ってる知ってると、他の仲間が口を揃えて答える。その女子学生を芙美子もよく見知っていた。孝雄との交際がまだ順調だった頃、彼自身漏らしていた。

「変な女だよなあ、しょっちゅう俺の方ジロジロ見てさ。ストーカーじゃねえのか、気味わりぃな。」

 口では悪しざまに言いながら、彼はあまり気にしてないようだった。女にもてるから付きまとわれるのに免疫があるのだ。それが女に対して傲慢にばる由縁でもあった。二人の噂はほんの束の間、芙美子を不快にさせたが、すぐにどうでもよくなった。

 お母さん大丈夫かしら。尋常でなかった母の様子を思い出し、芙美子はひどく不安だった。彼女の携帯に電話してみようか、と思ったが、今はやはりやめた。ちひろからのコールを何より待っているだろうから。

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