第6話
前期試験が終わり、大学は夏期休暇に入った。芙美子の所属するシネマ同好会は毎年二泊三日の小旅行を企画している。特別なことをするわけではまい。旅先で、観光しつつ映画を一本観てシネマ談義をする、といったお気楽旅行だ。今年は盆が明けてすぐ伊豆にいくことになった。
七月から八月と暑い夏が過ぎていった。盆も終わり旅行に出発する前の晩、旅支度を終えた芙美子はいつもより早く床についた。なかなか寝つけなくトイレに降りていくと、階段の途中で奈美恵の押し殺した声が途切れ途切れ、渡り廊下の向こうから届いてくる。
「今更どうして別れるなんて、ひどいじゃないの。理由を言ってちょうだい、私が悪かったのなら直すから。」
芙美子は驚いた。ちひろと電話で話しているのだ、芙美子は彼の顔を思い出すがどうにも解せない。先日もうちに来て皆で楽しく過ごしたではないか。この二ヶ月近く週に一回はうちで夕食を食べていたのに。
「待ってよ、切らないで。お願い、もう一度話し合いましょう。」
奈美恵は泣き声になりながらも男を説得しようと必死だ。芙美子はいたたまれず、その場から逃げたかったが、前に進むことも部屋に戻ることもできなかった。仕方なく階段に座り込み、半ば泣いている母の声にうんざりしつつ、いったいどうしたものかと悩んだ。
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