第18話 婚礼衣装
愛麗は大きな鏡の前で、着せ替え人形のように婚礼衣装を着させられていた。
「お似合いですよー愛麗様」
「ほんとにお美しい」
仕立て屋と侍女と三、四人に囲まれて、婚礼衣装を選んでいる。
愛麗は別に一番最初に着たシンプルな白い衣装でよかったのだが、仕立て屋も持ってきたものすべて着てみて欲しいと言わんばかりの勢いで、周りの者たちのほうが本人より積極的だった。
愛麗はただ微笑んで、周りが言うことにそうね、とにこやかに相槌うつばかりだ。
「旦那様になられる方はどのようなお色を着られるの?」
侍女の一人が仕立て屋に訊いた。
「青ですねぇ」
「蒼国の貴族の方ですものね」
「そうです、本日は色合いを見られるのにちょうどよいかとお持ちしてるのですよ」
そう言って仕立て屋が持ってきた大きな箱へ衣装を取りに行く。
愁陽が待ってるのに……
部屋で待たせてしまってる彼のことが気になって仕方がない。忙しい政務の合間をぬって来てくれてるのだろうに。さっきは案外暇なのね、なんて言ったけど、愁陽が忙しいことくらいはわかる。
だから、早く部屋に戻りたいのに。
もう今着ているこの薄桃色のでいいって、仕立て屋が戻ってきたらそう言おう。
侍女がこの衣装にはこの髪飾りがいいと思います、と言いながら、薄桃色の髪飾りをつけ、耳飾りも揃いのをつけていく。
そうしているうちに、仕立て屋が新郎の衣装を手に戻ってきた。
見た瞬間、思わず愛麗の顔から笑顔がなくなり、体温が下がる気がした。
仕立て屋が持ってきたのは、愁陽がよく似合う薄い水色の衣装だった。
彼が着たら、似合いそう……
そう思ったら、彼が着ている姿を思い浮かべてしまう。
仕立て屋が気を効かせて、薄桃色の衣装を着た愛麗の横に新郎の水色の衣装を並べる。
鏡にうつる薄桃色の衣装を着た自分と水色の新郎用の衣装。
愛麗と愁陽の姿が重なる。
一瞬ときめいて、けれど現実に引き戻されて胸が苦しくなった。
この衣装を着るのは別の男。それも話しすらしたこともない自分より十以上離れている男だ。どうして愁陽じゃないのか。
この衣装を着て、隣に立つのが彼だったら、どんなに良かったことだろう。
知らない男に嫁ぐなんて……嫌だ。
初めて、そんなことを思う。姉の代わりだと言われて、結婚の話をされたときも、わかりましたと、何の感情もなく受け入れることが出来たのに。
愁陽がよかった……
もう鏡を見ることが出来ない。
愛麗は両手で顔を覆ってしまった。
「どうしました?愛麗様?」
「まあまあ、結婚前の花嫁にはよくあることですよ」
「そうそう、感情が不安定になるって言いますからね」
「愛麗様、きっと結婚式の日を想像して感激しちゃったんですわ」
「まあ、気の早いこと」
「素敵な殿方ですものね」
みんな違うのに。どうしてわかってくれないの?
我慢できずに、とうとう涙が溢れてしまった。
鏡に映る二つの衣装が涙で滲んで見えない。
結婚式当日、どうしよう。また愁陽のことを思い出してしまったら。
冷静でいられないかもしれない。
今日はもう会えない……ごめんね、愁陽。
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