AH-project #6 「ウニさんの事情①」
チャイムが鳴り、ぞろぞろと生徒が廊下に流れ出る。
「じゃあね~ アマネ~」
「じゃあね~」
女子高校生の
下校を開始した。
放課後
それは私のような変わり者にも平等にくる。
授業を耐えて、友達と適当に話していれば、無事に迎えることが出来る時間。
普遍的でつい雑に扱ってしまうが、大切にしなきゃいけない時間だ。
私はなんとなく、これがずっと続くと思っていた。
だが今日、それは終わった。
帰宅途中、家の近くの公園を通り過ぎようとしたその時、
二人の男に襲われた。
一人には両腕をつかまれ、もう一人には口を押さえられた。
体内にいたブドウも、突然の事に対応できなかった。
そしてそのまま、ウニは車に無理やり乗せられてしまった。
「捕まえたぞ!車を出せ!」
「わかった!」
運転席でスタンバイしていた男がアクセルを踏み込み、車が発進した。
ようやく状況把握できたブドウがウニにテレパシーを送る。
(左右に男、そして運転手。
それじゃあ、両耳から出て左右の頭を串刺しにして、
その後俺がナイフになるから運転手を脅して警察署まで行かせ……。)
突然ブドウの声が途切れた。
(ん? ブドウどうしたの?)
その時だった。
「後ろをみろ」
声がした。
恐るおそる振り向くと、そこには静かに眠っている少年とその子を抱っこする細身の男がいた。
そして眠っている少年というのは、私の弟である
『
「コイツ、お前の大切な弟だろ?」
「…カナタを解放してください。」
「ダメだ。お前の力は計り知れないからな、こいつは人質にさせてもらう。」
その言葉を耳に入れた瞬間、アマネはそいつに殴りかかろうと握った右手を振り上げたが、右の男にグローブをした手で腕をガシッ掴まれた。
「…やっぱり素直にしてくれないか。」
後ろの男はそんなウニの反抗的な態度を目にすると、次の行動に出た。
男は懐から武器を取り出した。
「ッ!?」
それを見た途端、ウニの動きはピタッと止まった。
今までドラマや漫画でしか見た事がない。
引き金を引くとハンマーという部分がおり爆発音とともに高速の
懐から出したのは拳銃だった。
そしてその男は、銃口をカナタの頭に向けた。
「大人しろ。そうすればお前も、コイツも、助かる。」
「…何が目的なの?」
その男とウニの間にシビアな空気が漂った。
「それぐらいなら、教えてもいいんじゃね?」
その時、突然運転手が話に入ってきた。
「そうだな…俺たちの目的はだな。」
その時、布がアマネの顔を覆った。
その布は濡れていて、とても冷たく感じた。
おそらく、何らかの化学薬品であろう。
必死に抵抗したが、ウニの力ではどうする事も出来ない。
段々と意識が遠のいていく。
その状況下で、後ろの男は言った。
「お前だよ。」
~~~~~~~~~~
目が覚めると、アマネはベッドで寝ていた。
(あれ?ここどこだ…?)
目を細めて、周りを見渡す。
部屋の左の角には机と丸椅子が設置され、その上に私の学校指定バッグ。
そして逆の所にはウィーンという音を立てながら開きそうな電子ロックのスライドドア。
そして、私が今座っているベッド。
この部屋にはそれしかなかった。
質素というより最低限のものしかないという感じだ。
(男に連れ去られて眠らされたんだっけ。
てことは、私監禁されちゃったってことか…。
てかなんでこんな眩しいんだろう?)
その原因は白だった。
壁も、天井も、机も、丸椅子も、照明の色、電子ロックも、すべてが真っ白だった。
(なんだろう…なんか、おかしい)
監禁というと物置やバスルームといったような窮屈な部屋に
または手足を縛られどこかに放置されるイメージがある。
しかし今の自分は閉じ込められてはいるが、白で整えられた清潔な部屋、寝心地の良いベッド、とあまりに丁寧すぎる。
監禁というより飼育されてる感覚だった。
しかし、そんなことを考えても何にもならない。
早くここから脱出しなければ。
まずは状況確認をしよう。
(ブドウ大丈夫?)
(…)
ブドウからの応答がない。
こんな事、今までになかった。
冷汗が額から零れ落ちた。
次に下校時に私が持っていたバック。
中身は変わらず、ジャージだけだ。
(リュックは持ってかれた…
あっちにスマホが入ってるのに…。)
頭の片隅で発案されていた脱出のアイディアは次々と断たれていく。
早く脱出しなければ…。
~~~~~~
いろいろ考えた結果、
アマネの出した案はこうだ。
ウニは手で持つタイプの学校指定バッグを背負い、電子ロックのドアの前でクラウチングスタートの構えを取った。
そして扉が開くのを察知し、アマネはスタートダッシュをくり出した。
「アマネさ…?!?!」
アマネは扉を開けた男にタックルをかました。
予想だにしていなかった突然のタックルに、男は吹っ飛んだ。
廊下に出たアマネは何も考えず右にあった階段に向かった。
(逃げろ!逃げろ!逃げろ!)
必死に逃げていると、
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
という警報が建物内全体に鳴り響いた。
その音にアマネの焦る気持ちがせかされた。
だが幸運なことに階段を駆け上がった先で、アマネはオレンジ色の光が差し込まれているのに気付いた。
その方向を見てみると、大きなガラスの壁、そして自動ドアを発見する。
エントランスに出たのだ。
近くには誰もいない。
自動ドアに近づくと、しっかり開く。
(ヤッタ!脱出できる!)
確実な安心感。
そのおかげでだいぶ落ち着けた。
そして、大事なことを思い出した。
(待って!カナタは!?)
アマネは考えた。
一度この場を出て態勢を立て直すべきか、
もう一度あの場所に戻って、カナタを捜索するべきか。
自動ドアを開けながら考えていると、
「見つかぞ!アイツだ!」
白衣を着た人の集団がいた。
(ヤバイ!)
アマネは外に出て、走った。
(アマネ!大丈夫か!?)
ブドウがやっと目覚めた。
(ブドウ逃げないと!早くして!!)
体の中でブドウが本領を取り戻す。
ブドウの力で車並みに上がった速度で、
ウニは森の中にあるこの建物と本道を繋いでいる長い道路をあっという間に走りきった。
その時後ろを振り返ったが誰もいなかった。
(撒いたみたいだな。)
(ブドウ大丈夫?全然返事がなくてビックリしちゃったよ)
(…何故かは分らないけど、いきなり意識がなくなったんだ。)
(絶対あの誘拐犯が何かしたんだよ!)
(…でもなんでアイツらは、俺のことを知ってたんだろう。)
(ん? そこに何かある。)
森の入り口に石が立っていた。
石には施設の名前が刻まれていた。
『
私たちを襲っていたのは研究所だった。
研究所。
この字面で奴らの目的がハッキリした。
(私自身とかじゃなくてブドウだ…!)
どうやったかは分からないがここの研究員はブドウの存在に気付き、
私に中からブドウを摘出して、
研究しようとしているに違いない。
(…そうだとしたら、無策であそこに戻るのは愚行だな。)
(とりあえず家に帰ろ…ってここどこなのよ)
今いる場所は研究所とどこかへ続く道路が交わっている地点としか言いようがなかった。
スマホも持っていかれている。
現在位置不明状態。
(うぅん…近くに交番ないかな?)
(なぜ交番なんだ?)
(だって私たち誘拐されたんだよ?
身柄を保護してくれるとしたら十分な理由でしょ。
あと、家まで連れてってくれそうだし。)
(じゃあ探すか、交番。)
(…でもどうやってやるの?)
(小3か4の時に家族みんなでピクニックに行って、森の奥深くまで行っちゃって迷子になったの覚えてるか?)
(もしかして、あの方法…?)
(ビビってないで、さっさと飛ぶぞ。)
両頬を叩き覚悟を決めたアマネは、
一回跳ね、もう一回跳ねて、
三回目に大ジャンプした。
その高さは約30m。それはマンションの10階相当である。
ブドウがコウモリの翼になって背中から出現し、パタパタと羽ばたき始めた。
そしてゆっくりと下降していった。
(…おいアマネ、目を開けろよ。じゃないと交番の位置が分からないだろうが…。)
(だってぇ…高いの怖いよぉぉぉぉぉ!)
(はぁ…仕方ない。)
ブドウは体内に少し残していた分をアマネの額部分に集めた。
すると、アマネの額に第三の目が現れた。
ギョロっと開き左右を確認するとすぐに目を体内に引っ込めた。
(11時の方向に建物が密集している。
そこへ向かおう)
(わっ分かったぁ…)
アマネは夕日の光の中、その方向に向かって跳躍と降下を繰り返した。
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