AH-project #7 「ウニさんの事情②」
悪魔のような翼を背中から生やして空を舞っているのは、涙目のアマネと翼になっているブドウだ。
跳ねては滑空、跳ねては滑空を繰り返して少し遠くにあった街を目指した。
目的は交番と柘植研究所から身を隠す事だ。
(よし、もうすぐで町に着きそうだ。)
(はぁ、もう疲れたよぉ…)
(頑張ってるのは俺なんだが。)
そしてアマネは名の知らぬ町に舞い降りた。
(交番はどこだ?)
(足の感覚がない……。)
ヨロヨロのアマネ。
(どんだけ高いの苦手なんだよ)
(怖いに理由なんてないの!
怖いものは怖いの!)
(…歩けるようになったら出発するぞ)
足が回復したアマネは交番探しを始めた。
少し歩くと商店街があった。
今まで商店街をテレビとかでした見たことがなかったアマネは、無性にそこを通りたくなった。
ハチマキを付けたイカツイおっちゃんの肉屋
紫パーマヘアーおばちゃんの服屋
といった、想像通りの商店街だった。
そんな商店街を眺めながら歩いていると、
自転車を押すお巡りさんが商店街のパトロールをしていた。
(おっアマネ。ちょうどいいところにいるぞ)
(交番に連れて行ってもらおうか。)
「あのちょっといいですか?」
「ん?どうかしましたか?」
「実は私、誘拐されて今逃げているんです」
内容が内容だったので小声で伝えた。
「え?ホントですか!?」
アマネは頷く。
「そうですか…とりあえず交番に行ってから詳しく話を聞きましょう」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた。
(計画通り…!)
(悪い奴だなお前。)
交番に向かって歩き始めようとした時、
「ところでお嬢さん、名前は?」
と聞いてきた。
「天音です」
それを聞いた瞬間、
お巡りさんの歩みがピタリと止まった。
「……苗字は?」
「宇仁ですけど」
するとお巡りさんはため息を吐いた。
「…君の連絡が入っている。」
え?
連絡が入ってる?
私の?
警官がウニの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。
その時、脳にブドウのテレパシーを受信した。
(逃げろ!)
アマネは全速力で商店街を走り抜けた。
砂ぼころが立つほどの速さで駆け抜けるアマネは注目の的だった。
~~~~~~~~
勢い任せに逃げると、知らない公園に行きついていた。
誰も追って来ている様子はなかった。
(大丈夫か?アマネ)
(とりあえず大丈夫だけど、どうしよう…)
本来は警察に「誘拐された」という口実で助けてもらう予定だったが。
まさか柘植研究所に警察を動かすほどの権力があるなんて、思ってもみなかった。
(もしかして私、指名手配犯みたいになってるのでは…!!)
アマネは人間不信になりかけていた。
(落ち着け。さっきの警察は名前を聞くまで気付かなかった、それくらいの認識だ。
大事を起こさなければ大丈夫)
(そっ そうだよね…)
(でも商店街であの走りをするのは目立ちすぎたな…この町は離れた方がいい)
(どこに…)
(今更だが、走ったり飛んだりして逃げるのは目立ちすぎる。
だから今後は極力使わないでいく。
てことで地下鉄とかどうだ?)
(…お金はどうするの?財布はリュックで研究所にあるよ)
(……。)
~~~~~~~~
アマネは町中を歩き回り、地下鉄を見つけた。
そして改札口前で誰かを待っている振りをしながら、チャンスを見計った。
この時、アマネは不安に駆られていた。
(すごい冷や汗だな)
(……。)
(このまま町に居続けたら、いずれは捕まってしまう。)
(分かってるよ。でも…)
(…ヒヨるなよ。)
その時電車がこの駅に到着したみたいで、
人がごった返しながら駅に流れこんできた。
そのうちアマネも人混みの中に飲まれた。
アマネはすれ違う人を次々に観察する。
すると、口が開きっぱなしのカバンを肩にかけた女性がいた。
(あの人ならいけそう)
(分かった!)
アマネの服の中から触手状のブドウがシュルシュルと這いでて、
その人のカバンに入った。
そしてすぐにアマネの元に戻った。
(持ってきたぞ)
ブドウはアマネの手の中に千円札を四枚落とした。
(……本当にごめんなさい。)
(アマネが気負うことない。
じゃなきゃあの研究所にまた捕まっちまう)
ブドウはそう言ってくれるが、私は紛れもなく盗みをしたんだ。
どういう事情があっても、やってはいけない事だ。
罪悪感が拭い切れない。
でもずっと引きずっている訳にもいけない。
(ごめんなさい。使わしていただきます……!)
改札を無事通過した。
ホームにて電車を待つ二人。
(あっ どこに行くか考えてない…)
(地下鉄なら家に帰れるんじゃないか?)
(いや帰れるけど、下校中に誘拐されたんだ。
たぶん家の場所バレてると思うし、なんだったらその地域に帰るのも、危ないような気がする。)
(じゃあどうするんだよ。
あとカナタをどうやって助けるんだ?)
(うーん…)
何も決まらないうちに電車が来た。
車内は混んでも
(で、どうするんだ?)
心配そうにブドウが聞いてくる。
(…最終手段)
(ッ?)
アマネは目の前に座っている男の社会人を凝視していた。
(…この人にしよう。)
見ているとたまたまその男と目が合ったが、キョドられ、目を逸らされてしまう。
その男は、ボサボサ髪で死んだ魚のような目で電源のついていないスマホを見ている。
そして、指輪はしていない。
(なるほど。アマネが赤の他人に頼るとは珍しいな)
これがアマネとヒラダ、そしてブドウとの邂逅。
この時、アマネは素直に一日を過ごせればいいと考えていた。
だがブドウの方にはそんな考えなかったようです。
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