AH-project #5 「ブドウ」
水を飲んで落ち着いたヒラダと学校のジャージに着替えたウニさんは、食卓テーブル越しに向かい合うようにして座った。
膝の上に手を置き、とても良い姿勢で座るウニさん。
机の上で手を組み、ジッとウニさんを見つめるヒラダ。
まるで面接みたいな状況。
先に口を開いたのはウニさんだった。
「あの~」
若干引きつった笑顔をしながら言った。
「あっゴメン。何から聞いたらいいか…。」
組んでいた手を下げた。
ウニさんに聞きたいことは山ほどあった。
その中でも、ついさっきヒラダのことを襲ってきたソイツについては特にだった。
だが心のどこかでそれに触れることはダメな気がしていた。
<正体不明の正義のヒーローの素顔を探る>
みたいなタブー。
そんな風に感じていた。
そう考え、ヒラダが言いよどんでいると
「…何となく聞きたいことわかります。」
とウニさんが話始めた。
「多分ヒラダが聞きたいことって、この子の事ですよね?」
そう言うとウニさんは両手で自分の後ろ髪を持ち上げた。
すると、そこから首元から"黒い触手"が出てきた。
瞬間、ヒラダは身構えた。
「大丈夫ですよ、今は私がいますから。」
ウニさんはニッコリと笑った。
「…そいつは一体なんなんだ?」
何度見ても見慣れないソイツに、ヒラダは若干の恐怖心を覚える。
「この子は『ブドウ』。あっ 名付けたのは私です。
私が物心ついた時から、ずっと私の体の中に居るの。」
平然とした態度でウニさんは説明した。
「…ブドウって何者なの?」
「正直、私にも分からない事が多いんですけど、
とりあえずブドウが出来る事とかブドウに関するエピソードを説明しますね。」
そこからは、ウニさんがひたすらブドウについて説明するフェーズだった。
要約すると、こうだ。
1.普段はウニさんの体内で過ごし、ウニさんの体の穴(毛穴とか)を通って出入りしている。
2.ブドウの体はスライム状で、固くしようとすれば、鉄と同等の硬さに出来る。
3.こうのような見た目だが、思考や感情というものがあり、体内に少しでも残っていれば意思疎通することが出来る
4.体内にブドウがいる状態だとウニさんの身体能力はかなり上昇する
(常人が出せないレベルにまで上がるらしい)
5.ブドウのことは親から公言しないように言われていた。
6.ブドウという名前は「響きが可愛い」という理由で決めたらしい。
7.さっきヒラダを襲った理由
ブドウが今後のことを考えた結果
”家主を殺してこの家を占拠しよう”
という所に行き着いたらしい。
この時ウニさんはお風呂の気持ち良さについ寝てしまい、ブドウはその体を無理やり動かしてヒラダを襲った、とのこと。
(ブドウの発想がおかしいのもそうなんだけど、ウニさんの眠りの深さもおかしいだろ…)
「これくらいですね、私がブドウの事で知ってることは。」
「なんだか、ファンタジーを聞かされてるみたい…」
だが、ファンタジーでないことは、目に見えてわかっている。
この時にもブドウの一部が机の上でコロコロウネウネして動いていた。
何をしているのかは分からないけど、とりあえず、もう敵意はないみたいだ。
「ファンタジーだなんて…
この通りブドウはちゃんと生きてるんですよ。
そんな空想上の生物みたいな扱いしないであげてください」
ウニさんは口を尖らせた。
別に差別するつもりはなかったが、少し咎められてしまった。
「とりあえずブドウの事は、「ブドウじゃなくて『ブドウさん』にしてください。」
「…とりあえずブドウさんのことは大体わかったけど、
ウニさんはどうするの?今後の事とか。」
正直、最初の段階では一日だけ泊めさせるつもりだったが、少し心変わりしている自分がいる。
ブドウの存在を知ってしまったが故に、
気軽にこの子達を手放してはならない気がした。
「…どうしようかな。」
顎に手を当て、真剣に考えるウニさん。
「というか今更だけど、なんでウニさんは家出なんてしてるの?」
「…そういえば、話してませんでしたね。コホンッ」
ウニさんが咳払いをすると、
緩んでいた表情は凛々しくなり、
雰囲気がシリアスなものになった。
「まず、別に私は家出なんてしてません。」
とても真面目な返答にヒラダも態度を改めた。
「家出じゃないなら、どういう事情でこうなってるんだよ。」
「…結構、長くなってしまいますけど、話しますか?」
ブドウの次に聞きたかった事がこれだ。
どういう経緯が俺とウニさんを地下鉄で出会わせたのか
何があったら他人に宿泊をお願いするという状況下になるのか。
これからの話に価値があるか分からないが、ただヒラダは知りたかった。
「お願いしたいな…
嫌なら、話さなくてもいいけど。」
この言葉を聞いたウニさんは小声で
「…言うべきだ。」
と自分に言い聞かせ、覚悟を固めた。
「大丈夫です。ここまでの経緯を話しましょう。」
と言い放った。
ここからウニさんの過去の一部が語られる。
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