オーロラを見にいってみよう
絶望したあの日。
わたしは全てを捨てて最後の夢を叶えにフィンランドに向かった。
バカみたいに寒かった。
冷静に考えればバカすぎる。
言葉もわからない。
食べ物もわからない。
ホテルもとってない。
キャリーに適当に荷物を詰めたから衣服の季節感も違う。
全てがわからない。
全てが足りない。
全てが全て腐っている。
きっとこれもあの会社が悪い。
きっとわたしの日本語が汚いのもあの会社が悪い。
きっとわたしの準備が下手くそなのも、
全てあの会社が悪い。
精神が荒んでいる。
だからこそ、オーロラを見たい。
飛行機の中から予約したホテルまでたどり着く前に死ぬ。
流石に夏服では外に出れない。
まあ、買えば良い。
貯金がずっしりとあるわけではない。
けど、最後のわがまま。
そんな気持ちできたこの場所だから。
帰りの飛行機も取っていない。
ホテルの予約日数も取れる場所で最低限。
まあ、問題ないでしょ。
甘い考えではなく、本当に心から思っている。
もう疲れすぎた心にはこれしかないから。
生きる希望がないわたしの最後の夢だ。
1日目
見れなかった。やっぱり難しい。
神様は味方してくれないようだ。
やっぱり、生きた方が良いという暗示か?
いや、そんなことはない。
だって、まだ時間はある。
2日目
見れなかった。そうだよね。
流石に2日間待っても無理か。
3日前まで見れたらしい。
運がないねって慰められた。
きっといつか見れると蔑まれた。
まだ、時間はある。
3日目
やっぱり出ない。
また無理だった。
おかしい。
何かがおかしい。
1番いい場所を教えてもらったはずなのに。
もうあまり時間はない。
タイムリミットはないけど、お金に余裕がない。
4日目
少し見れた。
でも、少しだけだった。
美しかった。断片的に少しだけ見れたけど。
欲が出てきた。
もう明日がラストチャンスだ。
5日目
見れた。美しかった。
本当にこの世のものかと思えるくらい素晴らしい。
この写真があれば。
慌てて日本に帰国した。
間に合った。
最後の力を振り絞って僕の目を見て
「ありがとう」
って伝えてくれた。
僕にもっと力があれば。
僕にもっとお金があれば。
僕がもっと早く気づければ。
君は今も僕の隣にいてくれたのだろうか。
僕たちの新婚旅行で見たオーロラが見たいと君がいってくれて僕は幸せだった。
君を連れてけなくてごめん。
僕は君を忘れない。
君が僕にくれた愛情も全部忘れない。
これからは僕が伝えていくよ。
君のためだけに。
だから、少しだけ待ってて。
あと50年ぐらいは待ってて。
本当は君に見せたい景色がいっぱいあるから。
写真を持って会いにいくよ。
君が好きそうな写真を持って。
またね、奥さん。
オーロラが見える空の下でまた会おう。
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