第85話・再編成①
「改めて聞くが、お前は何でここに居るんだよ?」
レインを真っ直ぐ指差しながら、カークは言った。
ブリーフィングの後、レイン達は整理を付ける為、一旦先程の食堂に戻って来たのだった。
レインは腹が減っていたので、そこで昼食を買った。
栄養バランスが考えられたメニューの載ったプレートをテーブルに置き、眼前に座るカークや、右に座るマックスを尻目に、食べ始めようと箸を持った矢先に投げ掛けられた言葉だった。
「言ったろ、あの隊長さんに呼ばれたんだよ」
レインはぶっきらぼうに言い、プレートの上の鶏肉を箸でつまむ。
「作戦に参加するとか聞いたが、ホントか?」
マックスが言う。レインは口の中の物を飲み込んでから、言った。
「本当だよ。政治上の理由でな」
「政治上ねぇ」
レインが箸を動かしながら答えると、マックスが返し、喉を鳴らす。どうも納得がいかない様だ。
「さっきの連中も言ってたが、足手まといになんじゃねぇの?」
カークが鼻をほじりながら言う。レインはムッとなって答えた。
「隊長さん、言ってただろ? テストは合格だ」
「テストって、何したんだよ?」
「拳銃向けられたから、素手で奪い取った」
「それだけ?」
カークが茶化すように言い、レインは舌を打って目を逸らす。
「んな事だろうと思ったぜ」
声高々にカークが言い、マックスが彼の方へ視線を移した。
「声がデカい」
カークは鼻を鳴らし、椅子の上へふんぞり返る。レインが食事を終えて箸を置き、言った。
「お前こそ何でここに居る? 菓子屋継いだんじゃなかったのか?」
「そこだ」
マックスが突如口を挟み、レインを指差す。
「あの除隊命令? あれ全部嘘だったんだ」
「おい馬鹿!」
真剣な声色で続けるマックスを、カークが一喝する。マックスは彼の方を向き、言った。
「コイツには行ってもいいだろ?」
「いやでもな……」
「なに、レインが口滑らせなきゃいいだけの話よ」
マックスが言うと、カークは不承不承といった様子で喉を鳴らしながら頷く。顔をレインの方へ寄せ、口の周りを右手で囲いながらマックスは続けた。
「実はな、上層部の連中は、極秘任務に使うような、秘匿性の高い部隊を作ろうとしてたみたいなんだ。それこそ、稲妻のように現れて、煙の様に消える部隊をな」
レインは腕を組み、マックスの話へ耳を傾ける。
「そんな部隊を作る時に、軍の中にいる連中を起用したら、そういう記録が残る。ウチの軍のセキュリティはかなり弱いからな。そこで、俺達を一旦クビにして、記録をすべて抹消した上で部隊を組織しようとした訳だ」
「ま、当り前よ。俺達の部隊は優秀だからな」
カークが胸を張る。レインはそれを無視し、言った。
「それはいいが、俺はそんな話聞いてない」
「そらそうだろうよ。抜けてから暫くしてから送られてきた通知なんだから」
「え?」
レインが困惑した様子で言うと、カークが口を開いた。
「お前、ここ最近何してたよ?」
「何って、ナギの世話を――」
「それだ」
カークが突然レインを指差して言う。レインが続けた。
「それ、って何だ?」
「お前はナギちゃんの世話をしてるんだろ? それは誰の命令だ?」
「別に誰に命令されたったわけでもねぇけど……」
「聞き方を変えよう。金を払ってるのは誰だ?」
「誰って、ガルタの――」
「軍だ」
レインの言葉を遮って、カークが言う。
「そう、お前はガルタに雇われてるんだ。お前自身がどう思ってるか知ったこっちゃねぇが、つまりはそういう事だ」
首を傾げ、レインは言う。
「だったら何だってんだ?」
「そんな奴が、リーザの極秘部隊に入れると思うか?」
「まぁ、それはそうだが……」
「それにな、お前があの子の世話をするってのは、ガルタの上層部の取り決めだそうだ。それに待ったを掛けられるほど、国力が強くねぇのよウチらの国は」
レインが鼻を鳴らす。カークが続けた。
「まぁ、俺達はガルタの特殊部隊員として、協力を要請されてここに居るわけだが」
カークが突然立ち上がり、言う。
「さ、プールに行くぞ」
「プール?」
「あぁ、この基地の中にある訓練用のな」
マックスが座りながら、カークの方へ視線を向けて言う。
「何でそんな所に?」
カークが彼を見返し、言う。
「決まってんだろ?」
それからレインを見下ろし、言った。
「コイツを鍛え直すんだ」
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