第84話・入隊試験⑥
ブリーフィングの内容は、四輪駆動車の中でニールに聞かされた内容とほぼ変わらなかった。
「さて、作戦内容は以上だ。何か質問は?」
前に立つニールが、椅子に座る部下を見渡しながら言う。
「一ついいですか?」
前列に座っていた、黒い戦闘服に身を包んだ男が手を上げる。いいぞ、とニールが彼を指差すと、その男はレインの方へ向き、指を差しながら言った。
「アイツは?」
感情の見えない声だった。振り返った彼の顔をレインは見返す。レインを迎えに来た連中の中には無かった顔だ。
「彼はレイネス・フォーミュラ。周知の通り他国の人間だが、訳あって、今回の作戦に同行することになった」
ニールの発言に、部屋の中が少しザワつく。何人かの兵士が、近くにいた仲間と短く一言二言交わすのが見えた。しかしすぐに動揺は収まり、レインの方を向いていた彼は、物珍しい物を見た様に眉を動かし、前へ向き直った。
「私もいいですか?」
別の男が手を上げ、言う。
「確か、彼は軍を抜けたと聞いています。使い物になるのでしょうか?」
もっともな疑問だと、レインは思った。外交上の理由があるにせよ、作戦に支障をきたす恐れがある要素は、不用意に増やすべきでは無いのではないか。
ニールは小さく頷き、質問者に答える。
「それは大丈夫だろう。彼をここへ連れて来る際、簡単なテストをやってみたんだが、体は鈍っていないようだった」
あれがテストかよ、という意味を込めて、レインは鼻で笑う。
「それに、彼の他に二人、本物の特殊部隊員を呼んである。仮にフォーミュラ氏が使い物にならなかったとして、そちらの二人が十分にカバーしてくれるはずだ」
二人。そう聞いて、レインの思考の中に暗雲が立ち込めた。
(何で居るのかと思ったけど、まさか――!)
「紹介しよう、入ってくれ」
ニールが言うと、レインの背後のドアから、男が二人入って来る。それが誰なのか、レインには振り返らずとも分かった。
「久しぶりに会ったってのに、チョップかます奴が居るか?」
「そらあんなボロカス言ってたらよぉ、――あ」
軽率そうな声、そして、聞き覚えのある濁声。
レインは頭を抱えたくなった。
「あっ、て……あっ!」
カークの声が後ろで響く。レインは溜息を付き、そちらへ振り返った。
「お前何でこんなとこ居んだよ!?」
「こっちのセリフだよ、それは」
突然の大声に、部屋中の視線がドアの方へ向く。
カークが恨めしそうにレインを指差して言った。
「お前、さっきの事覚えてろよ!」
「出来たらきれいさっぱり忘れてぇよ」
突如始まった言い合いに、カークの隣にいたマックスが肩を竦め、投げやりな視線をニールの方へ向ける。ニールが頭を掻きながら言った。
「えーと、その二人が作戦に同行するリーザ軍人なんだが……」
ニールが歯切れ悪く言う。部屋の中央辺りで座っていた、レインに親しく話しかけてきた隊員、ライドが苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「尚更不安になって来たな」
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