第81話・入隊試験③

 ニールが車を発進させ、道なりに走らせる。

 暫くカーラジオだけが喋っている時間が過ぎ、交差点の信号に引っかかった時、思い出したように口を開いた。


「そうだ、中を見ろ」


 ニールは右手でグローブボックスを示しながら言う。右の窓ガラスから外を眺めていたレインは、上体を前に傾け、かったるそうにそこを開いた。

 

 中にはクリアファイルに収められた資料が入っていて、写真がクリップ止めされている。


「これは?」


 レインがそれに目を落としながら言う。


「今回の作戦内容だ」

 

 青になり、ニールが車を発進させながら言った。


「は?」

「私と君、後三人を加えた少数精鋭で敵地に侵入し、捕らえられた捕虜を救出する」

「おい待て」

「侵入経路は水路だ。こちらが開発した新兵器で、敵の目を欺いて侵入する」

「だから――」

「そううまくいくか。ごもっともの質問だ。だがそれに関しては――」

「待て!」


 つらつらと作戦内容とやらを告げるニールに対し、レインは声を上げる。ニールは驚き、彼の方へ目を向けた。


「何だ?」

「何だ、じゃねぇよ。一体何の話してやがる?」

「今までの話を聞いていなかったのか? 捕虜救出作戦だ」

「それがなんだって聞いてんだ」


 ニールは溜息を付き、やれやれ、と言わんばかりに首を振る。


「全く、察しが悪いな」

「はぁ!?」


 レインは怒気を含めながら、声を荒げた。


「先日、ガルタへの支援物資を積んだ大型輸送機が何者かによって撃墜された。新聞にも載ったんだぞ? 戦死者は輸送機に乗っていた全員。そこに映っている写真は、その時に生き延びた護衛の連中だ」

 

 ニールが、レインの持ったクリアファイルにクリップ止めされていた写真を指差して言った。


「彼女らに見覚えは?」


 そう言われ、レインは写真へ目を落とす。ボディースーツを着た女兵士が三人と、ヘリ用のパイロットスーツに身を包んだ男が二人いた。


 男の方に見覚えは無いが、女兵士の一人、茶髪をポニーテールに束ねた人物。レインはどうも彼女が気になった。


「これは?」


 レインがその女兵士を指差しながら言う。ニールはそれをチラリと見て、前に目を向け直しながら言った。


「それはリーザの兵だ」

「リーザ?」

「そうだ。例の支援物資は、リーザから送られてきた代物でな。彼女等がその護衛だった」

「嘘だ。リーザにはワルキューレを造る技術なんて無い」


 ニールは鼻で笑い、レインの方へ、視線だけを向けて言う。


「では、なぜ君は軍を首になった?」

「それは……」

「答えは簡単。作れるようになったからだ。何故か」

 

 レインが何も言えないでいると、ニールが先を続けた。


「我々が技術を提供したからだ。ただ、本来は基礎を教えるだけで、実用に耐えうる代物が出来るまでもうしばらくかかるはずだったんだがな」


 ニールは意味ありげにレインの方へ顔を向ける。


「……何だよ?」


 レインが不機嫌に返すと、ニールは言った。


「どこぞの馬鹿が、一個中隊に攫われたウチの隊を単身で救出する、何て所業をやらかしたものだから、それをネタに更なる技術提供を求められた」


 レインが笑う。ニールが顔を前へ向け直し、続けた。


「貸しがあるこちら側としては、断るわけにもいかん」

「んで、やっとできたアーマーを、試験も兼ねて護衛に就かせた、という訳か」

「そうだ」


 レインは目元の資料をファイルから出し、パラパラとめくりながら言う。


「早とちりだったな」

「全くだ。それで、今回の作戦が組まれたわけだが」


 車は再び信号に引っ掛かり、停止する。ニールははっきりとレインの方を向き、言った。


「丁度良く、お前が近くにいた、という訳だ」


 レインは鼻で笑い、言った。


「手前のケツは手前で拭けって訳か」


 ニールはニヤリと笑い、言った。


「そこまで察しが悪い訳では無いようだな」



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