第80話・入隊試験②

「で? 隊長さん、一体俺に何の様だ」


 レインは両手を上げたまま言う。戦闘兵の銃口は彼に向いたままだ。


「君にお願いがあって来たんだ」

「これがモノを頼む態度か?」


 ニールが言い、レインが嘲笑混じりに返す。


「どっちかって言うと、脅しに来たって感じだな」

 

 視線を戦闘兵の方へ向けながら、彼は言う。ニールがレインの視線の先へ振り返り、部下へ銃を下げる様に命じた。


 銃口が下を向き、レインはやっと手を下ろす。


「取り敢えず、車に乗ってくれないか?」


 ニールは立てた親指で、背後の四輪駆動車を示しながら言った。レインはチラリとそちらへ目をやり、言う。


「あれ何人乗りだ?」

「四人だ」

が三人も降りて来たが、俺の乗る席はあるんだろうな?」


 短く整えられた金髪の下、サングラスに隠れたニールの碧眼を睨みつけながら、レインは言う。ニールは柔和な表情を浮かべながら、言った。


「もちろん」

「なら助手席に座らせてもらうぞ」

「構わないが、どうして?」

「後ろの席だと酔う」


 レインは言い、彼の言うサプライズ要員に視線を移し、続ける。


「それに、狭苦しいの御免だ」


 ニールは鼻で笑いながら、言った。


「結構だ」


 彼は踵を返し、四輪駆動車の方へ向かう。レインもその後を追う。ニールが運転席の方へ回り、ドアを開けた。


 レインは助手席のドアを開け、車内を通してニールに言う。


「アンタが運転するのか?」

「そうだ。何か問題でも?」


 レインは眉を顰める。


「いや別に」


 それだけ言い、レインは助手席へ腰を下ろし、ドアを閉める。ニールも運転席に着いた。


 後部座席のドアが左右共に閉まる。レインがルームミラーに目をやると、戦闘兵が二人、後部座席に座っているのが見えた。目だけを出したマスクを被っていて、二人とも目つきが鋭い。


 下手な事をするのは得策ではない、と感じさせる視線だ。


「あの、隊長」


 車の外、レインが座っている助手席の方から、男の声が聞こえた。そちらへレインが目をやると、戦闘兵の一人が車の側で突っ立っているのが見えた。レインに銃を向けた際、助手席から降りて来た男だ。

 

「何だ?」


 ニールが背広の内ポケットから、四輪駆動車のキーを取り出しながら言う。部下の方へ目を向けようともしない。


「自分は、何処へ座ればよいのでしょうか?」

「好きなところへ座ればいい」

「しかし……」


 レインはふと車内を見渡す。後席には三人が座れるスペースがあるが、銃とボディアーマーで武装した男が三人並ぶのはかなり狭苦しそうだ。おまけに、戦闘兵たちは三人ともガタイがいい。


 外にいる男がレインに視線を向ける。レインはわざと彼に目を合わせ、いたずらな笑みを浮かべながら言った。


「膝に乗るか?」


 ニールが笑い、後ろの二人もつられて小さく笑う。外にいる彼が恨めしそうに喉を鳴らし、後部座席のドアを乱暴に開けた。


 元々座っていた二人が肩を寄せ合って車内の左端により、僅かに開いたスペースに、外にいた彼が身を押し込む。


 案の定、後部座席はギュウギュウだ。


 レインはルームミラーを見ながら言う。


「狭そうだな」


 外にいた彼が、真っ先に口を開く。


「おかげさまでな」


 レインは鼻を鳴らし、左手を後ろへ差し出しながら言った。


「キツかったら、銃を預かろうか?」


 外にいた彼が、少し声を荒げて言う。


「黙って前を向いてろ」


 言い終えるのと同時に、ニールが車のエンジンを点火した。


 エンジン音が轟き、車体が揺れる。


 レインはシートベルトを締め、ニールの方を向いて言った。


「アンタの部下とは仲良くやれそうだ」


 ニールは笑い、言う。


「そうか、それは良かった」


 


 

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