第58話・共同戦線⑦

『……イン? レイン! 聞こえるか!?』


 突如、カークが持っていたブレスレットからシェラの声が響く。


「喋った!?」

「シェラか? あぁ、聞こえるぞ」


 目を丸くするカークを他所に、レインは淡々と返事を返す。


『よかった! 生きているか!?』

「あぁ、何とかッ!」


 レインは語尾を強め、ハンドルを勢いよく左に切った。直後に砲声が鳴り、FJクルーザーが一瞬前に居た地点が炸裂する。

 もし彼が咄嗟に回避行動を取っていなかったら、爆風に巻き上げられたのは土煙では無く、粉々に砕け散った車体の欠片だったはずだ。


「死ぬ五秒前かもしれねぇけど!」

『……マズい状況みたいだな』


 ブレスレットの向こうのシェラが苦々しく言う。ピコン、と電子音が鳴り、新しい声がそこから響いた。


『心配は要らないぞヴァルチャーワン。そいつの五秒はかなり長い』


 少し高めの男の声。ザイツだ。レインは鼻で笑ってから、それに応える。


「言ってくれるぜ」

『実際、お前が死ぬところは想像できないからな。さて、状況を整理しよう』


 ザイツは言い、少し間を置いてから言った。


『合流地点から反対の方へ走っている。これは分かってるな?』

「あぁ、バッチリと」

『そこからUターンして、こちらへ向かう事は?』


 レインは左の茂みから飛び出して来た軽装甲車を躱すため、右へハンドルを切る。屋根から上体を出したクゥエル兵がFJクルーザーに弾丸を浴びせ、追い打ちをかける様にレオパルド2の主砲が火を噴いた。


 紙一重でブレーキを踏み込み、FJクルーザーの鼻先スレスレで砲弾が炸裂する。


 アクセルを踏み込んで土煙の中を突っ切り、その先のバンプでFJクルーザーの車体が撥ねた。

 運よく四輪で着地し、レインは再びアクセルを思い切り踏み込む。

 ボンネットはぐしゃぐしゃで、前面のバンパーはいつ取れてもおかしくない。


「あぁッ! ケツが痛ぇ!」

「俺はもう体中が痛ぇ!」


 シートの下に手を入れながら喚き散らすカークに対し、レインも同じ調子で返す。彼はつい数分前まで、人権すら保障されていない様な状況に居た捕虜だったのだ。体中の妙な場所が悲鳴を上げ始めても無理は無いだろう。


「で!? どう思う!?」

『……無理そうだな』


 そのままの調子で無線機に叫ぶ彼に対し、ザイツは若干引いた様子で答えた。


『しかしどうする? その先は――』

「あぁ! 崖だろ! 分かってるよ! 二回も言うんじゃねぇ!」

『……まだ一回しか言って無いぞ』

「俺は二回聞いたの!」


 もはやヤケクソ染みた答えを叫ぶレインに対し、ザイツは淡々と続ける。


『シェラ、前言撤回だ。かなりマズいかも知れん』

『あぁ……やっぱり……』


 ため息交じりに帰って来たシェラの声に対し、レインとカークの声が重なる。


「「いいからどうにかしてくれ!」」


 後方で再び砲声が上がる。砲弾はすぐ後ろで炸裂し、レイン達は後輪を跳ね上げ、前へ飛ばされる形になった。


『――レイン、一つ考えがあるぞ』


 シェラの声が響く。どういう訳か、妙に自信に満ちた声だった。


「考え?」

『あぁ、ワルキューレが二機程君らの方へ向かってる。あのわんぱく娘たちめ』

「あの二人か」


 少し笑いながら、レインは言った。


「そうだ。そして、その先には崖だ。察しのいい兵士なら、私が考えている事がすぐに判るんじゃないか?」


 レインは少し思案し、そして言う。


「おい、まさか――」

「そう、そのまさかだ」


 レインは緊張と狂乱が混じった微笑を浮かべ、言った。


「おいおい、


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