第57話・共同戦線⑥
眼前の大木を急ハンドルで右に避け、重い車体が慣性に乗る。咄嗟に切ったカウンターステアで土の上を暴れるタイヤを落ち着かせ、横滑りしながら木と木の間を疾走する。
後方のレオパルド2はその巨体に物を言わせ、木々をなぎ倒しながらレイン達を追跡していた。怪物の十二気筒の心臓が脈打ち、その鼓動が前を走るオレンジの車体を駆り立てる。
レイン達のFJクルーザーはただの民間用乗用車だ。馬力の差は顕著であり、大木は避けて通るしかない。制動を掛け、ハンドルを切るたび必然的に減速する。
二車の距離は、先程からほとんど変わっていなかった。
そして、砲声。
レイン達のすぐ後ろで砲弾が炸裂し、車体後部が跳ね上がる。助手席のカークが叫び声を上げながら、ドアグリップと前方のグローブボックス上に取り付けられたグリップにしがみ付いた。
「クッソッ!」
レインは悪態を付きながら、巧みなハンドル操作でJFクルーザーを押さえつける。しかし、跳ね上がった後輪が地面に着地し、そしてバウンドしたその瞬間、荷重が抜け、それまで少し右を向いていた車体が、一気に左へ旋回した。
アクセルを抜き、レインは咄嗟に右へカウンターステアを当てる。リア荷重が回復し、FJクルーザーは取り返しがつかなくなる角度になる前に後輪のグリップが回復する。ペダルを微調整しながら車体を右へ流し、不整地の上でドリフト走行へ移行する。
土を噴き上げながらタイヤを滑らせるFJクルーザーを、再びの砲声が襲う。砲弾がボンネットの上スレスレを通過し、少し離れた地面の上で炸裂する。
大柄な車体でその爆風をもろに受けたFJクルーザーは、右二輪を跳ね上げながら車体を左へ回転させる。これ幸いと踏んだレインは左へハンドルを切り、バランスを取りながら片輪走行へ移行。地面から生えていた大木の幹を撥ね上げた二輪の下すれすれで躱し、ハンドルを更に切って着地させた。
「チクショウ! 命がいくらあっても足りやしねぇよ!」
カークの喚き声を無視し、レインはルームミラーへと目を向ける。鏡に映った戦車は少し離れていたが、中々止まらないFJクルーザーにイラついて来たのか、先程より運転が荒くなっているようだ。
「しかもこれ……あぁ、やっぱりだ! レイン! ダメだ!」
胸ポケットから取り出した端末を操作しながら、カークは言う。
「お前、何処でそれを?」
その端末に目をやったレインがそう言ったのは、それが丸い輪の形をしていたからだ。手に掛けるのに丁度よい、ブレスレットの様な形状をしている。
シェラやナギが手に付けていた、あの端末だ。
「え? ここに来る前渡されたんだよ、地図替わりだって。それよりレイン!」
ホログラムで投影される地図をレイン向けながら、彼は言った。
「こっちじゃねぇ! ガルタの連中との合流地点は真反対だ!」
「早く言えっての!」
レインは進行方向を変えるために右へハンドルを切る。しかし、それを見越したように、また砲声が上がり、炸裂した砲弾が彼の進路を塞いだ。
「だったら!」
今度は左にハンドルを切る。右を向いた砲塔はFJクルーザーを追えず、砲身が逆を向いたままだ。
しかし、左方から姿を現した軽装甲車二台がレインの進路を塞ぎ、屋根に取り付けられた機関銃がFJクルーザーを襲った。
「伏せろ!」
その叫び声と共にカークが助手席で体勢を低くし、レインはハンドルを右へ切る。生えた木々に身を隠しながら、降り注ぐ弾丸から逃げる様に戦車の前へ舞い戻った。
「レイン! 悪い知らせだ!」
すると、突然カークが叫び声を上げた。
「いい知らせから聞きてぇんだけど!?」
「ねぇんだよ! いい知らせは!」
「じゃあさっさと言ってくれ!」
「さっき寂れた看板が見えたんだけど――」
彼は青ざめた顔でレインの方を見ながら続ける。
「この先、崖!」
「あぁ、最高」
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