第56話・共同戦線⑤
空を切る音と共に遠方から飛来した高出力レーザーが、浮遊するクゥエルのワルキューレの右翼を撃ち抜き、彼女は空中で体勢を崩す。もう一人のワルキューレは、すぐさま被弾した相棒を抱え上げ、メインブースターを点火して、空へ逃げ飛んだ。
「レイン! 今の内だ!」
運転席から顔を出したマックスが叫んだ。レインはすぐに振り返ると、FJクルーザーの方へ走る。カークが助手席を開き、続けて観音開きの後部ドアを開いた。
「さすが姐さんだ! いい腕してらぁ!」
車に乗り込むとレインは後部ドアを閉め、カークが助手席のドアを閉じた。
レインは後ろからマックスのシートを叩く。車を出せ、の合図だ。
「飛ばすぜぇ! 掴まってろ!」
マックスがセレクターを操作してRレンジに入れ、アクセルペダルを踏み込む。V6エンジンが唸り始め、タイヤが地面の土を削る。
その時、空気を揺らし、空間を叩き割るかの様な砲声と共に、FJクルーザーすぐ隣の地面が爆散した。爆風で車体が左へ傾く。車内の三人はシェイクされ、シートベルトを付けていなかったレインは車体左側へと吹き飛ばされた。
横転はしなかったものの、右側二輪の着地の衝撃を、クロカン車特有の強力なサスペンションが受け止め、カークとマックスはむち打ちに襲われる。
「クソッ! いってぇ!」
カークが叫び声を上げる。マックスは首を押さえながらフロントガラスに目をやり、そして、青ざめながら言った。
「あぁ……やっべぇ!」
「あん?」
「何だよ!?」
マックスが指差した先。そこには、V型十二気筒ディーゼルエンジンを搭載した、五トン越えの怪物、レオパルド2主力戦車が地面を踏み鳴らし、こちらにジリジリとにじり寄って来ていた。
「あぁ、ホントにヤバいわこれ」
「言ってる場合じゃねぇ! さっさと出せ!」
妙にとぼけた様な声色で言ったカークに対し、レインはがなりたてる様にマックスに言う。マックスはアクセルを床が抜けるまで踏み込み、FJクルーザーが後ろへ急発進した。
一瞬後、先程まで車体が鎮座していた場所が吹き飛び、FJクルーザーの前面が跳ね上がる。レインはまた後ろへ吹き飛ばされて頭を打ち、前席のカークは叫び声を上げる。
車体前部が着地し、小さくバウンドした。
「マックス? おいマックス!」
「どうした?」
カークの叫び声に反応し、レインは後頭部を摩りながら前席に顔を出す。
「マズい! マックスが気絶しやがった!」
「クソッ!」
レインは舌を打つ。そして、言った。
「……カーク、車の方は!?」
「大丈夫だ! まだ生きてる!」
「よし、マックスどかせ!」
「おい! 何するつもりだよ!?」
レインはカークと協力して、気絶したマックスを後部座席に押しやり、自分は運転席に座る。
「……オイオイ冗談だろ⁉」
「残念だがマジだ。大マジだ。他にどうしようもねぇ!」
「お前の運転でロクな目に遭った覚えがねぇ!」
「シートベルト閉めろ! ケガするぜ!?」
レインはそう叫ぶと、アクセルを思い切り踏み込み、勢いよくバックした。そのままハンドルを勢いよく切り、車体が凄まじい勢いで回転する。
その間にも、戦車の砲弾がFJクルーザーの天井スレスレを越えて行く。外れた砲弾は少し前に立っていた大木の幹に巨大な穴を空け、地面に当たって炸裂した。
完全に後ろを向いた時点でセレクターをDレンジに戻し、レインはすぐさまアクセルペダルを力強く踏む。さっきの砲弾で上がった土煙の中を突っ切り、深夜の森へ逃げ込んだ。
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