第55話・共同戦線④
少し離れた位置にあるもう一台の軽装甲車の裏から、二人分の軍靴の音が聞こえてくる。
「客が来たぜ?」
「出迎えてやろう」
レインはリボルバーを、カークはSCARを構え直し、二人は歓迎会の準備をする。
その時、左方から小さく鉄の猛獣の唸り声がしたのを、レインは聞き逃さなかった。
「ちょっと待て」
「何だよ!?」
逸るカークを制しながら、レインは言う。そうこうしている間にも、敵の軍靴の音は近づいて来る。
だが、それより早く猛獣の咆哮は二人に迫って来た。
「……ヤベっ! 伏せろ!」
「おいなんだ――うおっ!?」
カークが身に着けていた民間用の黒いボディーアーマーを後ろに引きながら、レインは彼と共に地面に倒れ込んだ。直後、クゥエル兵の生き残り二人が装甲車の影から姿を現し、レイン達の方へライフルの銃口を向ける。
銃口から発火炎が上がり、銃声と共に地面に伏せた二人の身体を弾丸がズタズタにする。
……はずだった。
鉄の猛獣が今一度力強く咆哮し、ハイビームの眼光が敵の姿を照らし上げ、影が長く伸びた。クゥエル兵二人は咄嗟にそちらの方を向くが、時すでに遅く、猛獣の前部に取り付けられたカンガルーバンパーが二人の身体を撥ね上げる。
行きかけの駄賃、と言わんばかりに猛獣はそのまま無人の軽装甲車に牙を向き、迷彩柄が施された車体を五メートル程吹き飛ばした。
「……相変わらず、無茶苦茶しやがって」
レインが少し離れた先で繰り広げられた、その光景を見て声を漏らした。二人はゆっくりと立ち上がり、鉄の猛獣、マックスの駆るFJクルーザーを出迎える。
マックスは右の運転席を二人に横付けするように車を止め、窓を開き、高らかに言った。
「ストライク! ってヤツだな」
ドスの効いた野太い声を響かせながら、彼は得意げに笑う。
「……バンパーブッ潰れてんぞ」
レインがへしゃげて使い物にならなくなったカンガルーバンパーに目をやりながら言う。カークが車体前部に回り、銃床でバンパーの根元を叩き、無理やりガラクタとなったそれを取り外した。
「修理完了だ! 行こうぜ!」
「それは潰してんだよ」
カークが助手席に回り、上機嫌にドアを開けて車に乗り込む、レインもそちら側へ回り、観音開き後部ドアを開けて、狭い後部座席に乗り込もうとする。
「動くな! そこで止まれ!」
頭上から女の声。ジェットエンジンの轟音と共に飛来したそれは、空中に浮遊しながら、右手の二十ミリのバルカン砲を眼下のFJクルーザーに向けている。隣にはもう一人いて、彼女の持っている火砲は、見たところ六十ミリの代物だろう。
暗くて機体の色はよく見えないが、翼端に張り付けられたエンブレムはクゥエルの物だった。
「クソッ! 増援が来ちまった!」
カークが車内からSCARをフロントガラス越しに敵へ向ける。が、こちらは五・五六ミリ、対する相手は二十ミリだ。戦力の差は歴然だった。
「どうする? 振り切れるか?」
「やめとけ、ミンチにされて終わりだ」
マックスの無茶な提案を撥ねつけ、レインは言う。
「じゃあどうするってんだよ?」
「慌てんなよ、デカいの」
焦るマックスとは対照的に、カークは落ち着いた、むしろ楽しむような言い方で言った。
「そうだ、慌てるなマックス」
「あぁ?」
レインも同じ調子で言い、マックスの不機嫌な返事を聞き流した。彼は観音開きの後部ドアを閉めると、両手を掲げながら、敵のワルキューレの方へ近づく。
「俺達は空を飛べない」
彼はFJクルーザーの前に出て、独り言を呟く。
「だったら、飛べる連中に任せればいいんだ」
「その通り」
数キロ離れた先、カークに渡しておいた盗聴器から聞こえたレインの声に応えながら、金髪の隊長は照準を合わせ終えた狙撃用レーザーライフルの引き金を引いた。
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