第54話・共同戦線③

 モデル627PC。

 

 四十四マグナム用のシリンダーを改良し、三五七マグナム弾を八発装填可能なシリンダーを備えた、主に競技などでの使用を想定して設計されたリボルバー拳銃だ。フレームから伸びた銃身は、先端へ向けてバレルシュラウドがエッジを描くように傾斜をしているため、刀を思わせる様な造形になっている。


 この銃はレインの私物だ。確か、家の箪笥の裏に隠しておいたはずだが、カークは彼の家へ勝手に入り込み、更には中を物色してこの銃を見つけたのだろうか?


(あの野郎……)


 わずかな光を反射して、右手で銀色に光るそれを見ながら、レインは心の中で呟いた。


 前の軽装甲車から降りて来たクウェル兵が、レインの方へ手に持ったアサルトライフルを向ける。


 二発、右手の得物が咆哮した。


 一発目は、レインから見て右手の装甲車、そこの後部座席から降りて来たクゥエル兵のボディーアーマーに受け止められた。

 ただし、彼のリボルバーから放たれる弾丸は、通常より火薬用を増やした弾、すなわちマグナム弾だ。軍で通常の場合使用されている九ミリパラベラム弾や、四十五ACP弾とは比べ物にならないほどのエネルギーを持っている。たとえ弾丸自体を止められたとしても、撃たれた側にはとてつもない激痛が奔るはずだ。


 撃たれたクゥエル兵は、案の定、胸を押さえて前に蹲る形になる。

 

 が、彼は痛みを脳で捉える前に、その脳そのものを二発目の弾丸で失う事となった。飛来したそれは彼の目に掛けていたサングラス型のゴーグルを突き破り、右の眼窩から後頭部へと左へ抜けて行く。


 レインは彼が崩れ落ちるより先に、リボルバーの狙いを少し左へ動かし、素早く引き金を引く。と同時に左へ飛び退き、軽装甲車の前席から降りて来たクゥエル兵が撃ち放った五・五六ミリの弾丸を紙一重で躱した。


 彼のリボルバーから放たれたマグナム弾は、照準の先の敵の喉元を撃ち抜き、血飛沫が散った。

 クゥエル兵は糸が切れたように膝から地面に崩れ落ちる。


 レインは背中から地面に着地するのと同時に、左手に持ったUSPを、レインから見て左の軽装甲車から降りて来た二人へ向けて、弾倉が切れるまで乱射する。

 しかし、狙いも付けず出鱈目に飛ばした弾丸が敵の身体を捉える筈も無く、クゥエル兵が彼に向けたライフルを撃発させるのを、ほんのコンマ数秒遅れさせただけだった。


 二方向から同時に飛んで来るライフルの弾丸が、レインの上腕と胸元を掠めて行く。先程、彼が咄嗟の判断で飛び退いていなかったら、その四発の弾丸は全てレインの胴体を捉えていたはずだ。


 レインは身体を回し、背面の状態で頭の方を敵二人の方へ向ける。少しでも被弾面積を小さくするためだ。彼は左手の自動拳銃を捨て、仰向けの状態のまま、両手でしっかりと構え直したリボルバーをクゥエル兵の方へ伸ばした。


 二発撃ち、脚と腕を貫いて一人を無力化。もう一人が保持するライフルの銃口が下を向き、レインの命を断とうとする。が、彼は身体を左へ回し、射線からわずかに左へズレた。


 撃発された弾丸がレインのすぐ隣の地面に着弾し、小さな土ぼこりを上げる。


 レインは腹ばいのまま、リボルバーの照準を敵に合わせ、一度だけ引き金を引いた。


 狙い通りの場所に着弾する。鼻先だ。


 目に映った敵を一掃したレインは素早く立ちあがり、眼前の軽装甲車に拳銃を向ける。

 軽装甲車から降りて来た敵兵は四人だけ。だが、あのモデルには一台に四人を収容することが出来る。装甲車は二台なので、最低でも八人はいる筈だ。


 リボルバーの弾は二発しかない。


 レインは装甲車に銃を向けながら、今しがた片づけた敵兵のライフルを奪おうとする。


 その時だった。


「死ね!」


 装甲車の後部。レインが銃を向けていたボンネットの方とは逆の方から、男の声が上がった。

 彼の目は殺意に血走っていて、向けられた銃口に交渉の余地は無いようだ。


 レインは素早く銃を敵の方へ動かす。が、敵は既に銃を彼に向けていて、指先の二キロの力で彼をこの世から排除できる状態だった。


 万事休すか、レイン自身そう思った時だ。


 新しい銃声が、敵兵の更に背後で上がった。頭を失ったクゥエル兵が地面に倒れ込む。

 

「よう、久しぶりだな」


 倒れ込んだクゥエル兵の背後。そこから姿を現した、金髪の軽率そうな男、カークが顔に笑みを浮かべながら言った。


「まだ三日しか経ってないが、不思議とそんな感じがするな」

  

 レインも同じ調子で言う。


「大冒険だった、って訳だ。濃い時間は振り返りゃ長ぇのよ」

「誰の受け売りだよ?」

「オリジナルに決まってんだろうが」

「……ぜってぇ信じねぇぞ」

「俺を馬鹿か何かとでも思ってんのか」

「お前が馬鹿じゃなかったら、馬鹿って言葉を定義し直さなきゃいけなくなる」

「何だと!? テメェ――」


 いつも通りのやり取が続くかと思われた矢先、カークの表情が兵士のそれに代わり、声のトーンを落として叫んだ。

 

「伏せろ!」


 レインと相対するように立っていた、カークが声を上げる。レインは素早く屈み、射線を開けた。カークの握るSCARライフルがフルオートで三連射し、連続して放たれた三発の弾丸が、レインの背後でナイフを振り上げていたクゥエル兵のボディーアーマーを貫通した。

 

 地面に倒れ込んだクゥエル兵の腹から流れ出た血液が、地面に赤い水たまりを作っていた。


「続きは後にしようぜ? レイン」


 カークは地面に寝そべる戦友に手を差し伸べ、レインを引き起こす。


「同感だ」


 レインは言い、カークが差し出したスピードローダー二つを受け取って、リボルバーに弾丸を装填する。もう一つはジーンズのポケットに滑り込ませた。


 そして、言った。


「とっととこの連中を片づけよう」


 

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