第53話・共同戦線②
レインはその瞬間、軍用四駆のドアグリップと車内上部に取り付けられていたグリップとを、左右それぞれの手で掴んだ。
車外で襲撃者のV型6気筒エンジンが咆哮する。直後、軍用四駆の横っ腹に襲撃者が突進した。
とてつもない衝撃が車体を襲い、ガラスの割れる音や、フレームが無理やり歪ませられるメキメキと言う音が轟く。タイヤの付いたガラクタと成り果てたそれは、独楽のように左へ回転し、開けた砂利道の上へと突き飛ばされる。
地面との摩擦が車体を引き留め、軍用四駆だったそれは、二回点ほどした後動きを止めた。
レインの隣、そこに座っていたはずのギャプランの姿は既に無かった。無防備に開け放たれた右後部ドアを見るに、どうやら先程の衝撃で外に放り出されたようだ。
「……テメェこの野郎!」
前席に座っている兵士のうち、曹長では無い方、つまり助手席に座っていた方が銃を引き抜き、レインの方へ向ける。追い詰められ、判断能力が欠如した彼は、取り敢えず後席に座るレインだけでも撃ち殺そうと目論んだのだろう。
目論見は見事に失敗に終わり、更に彼には自身の判断を呪う暇すらも与えられなかった。
レインは自身に向けられた銃に掴み掛かり、銃口を上へ向ける。半狂乱になって乱射された弾丸は、防弾加工が施された軍用四駆の屋根に受け止められ、誰の命も奪う事は無かった。
拳銃を掴んでいたクゥエル兵の肘を前席のヘッドレストに叩きつけ、レインは敵の腕を叩き折る。彼は叫び声を上げ、拳銃を後席の足置きに取り落とした。
それを拾い上げて、レインは右側の運転席、曹長の頭へ拳銃の銃口を向ける。列車で彼が暴れた際、敵から奪い取った、あのUSP拳銃だ。
ダブルタップ。素早く引き金を二回引き、飛び出した二発の四十五口径の弾丸が曹長の頭を潰した。
レインは素早く身体を動かし、開きっぱなしの右後部ドアへ飛び込んだ。彼が座らされていた左側のドアは、内側から開けられないようにロックが掛かっていたからだ。
車外へ飛び出しながら、レインは身体を回し、助手席のクウェル兵へ照準器を合わせる。照星と照門を重ね、一度だけ引き金を引いた。
地面に倒れ込み、彼は素早く身を起こす。助手席の辺りで、脳漿のピンクが混じった赤い花がフロントガラス辺りで咲いているのが見えた。
四駆から飛び出して来たレインを見て、前後を走っていた軽装甲車から上体をせり出していた機関銃手が、彼の方へ得物を向ける。レインは自分から見て左の方の敵へ拳銃を向けたが、訓練されている敵兵はよく連携が取れていて、左右から十字砲火の形でレインの方へ機関銃の銃口を向けた。
(あっ、やべッ……!)
レインがそう冷や汗を掻いた瞬間、何処からともなく飛来した弾丸が、双方の敵の頭を撃ち抜いた。軍用の防弾ヘルメットを吹き飛ばした威力から見るに、恐らく五十口径の対物ライフルだろう。
そんな代物を扱う連中は、彼の中では一つしか知らない。軍だ。
レインはニヤリと笑い、声を張り上げる。
「待ちくたびれたぜ!」
その直後、軽装甲車のドアがすべて開き、中からフル装備のクゥエル兵が地面に足を着いた。足に履いた分厚いブーツや、胸に下げた防弾ベストから、実戦部隊だとすぐに判る。
ほぼ同時に、レインの後ろで再びV6エンジンが唸り、更に聞き覚えのある声が響いた。
「レイン!」
名前を呼ばれた彼は反射的にそちらへ振り返る。
「受け取れ!」
マックスの私用車、FJクルーザーの窓から身を乗り出したカークがレインに向かって、何やら銀色に光る物を放り投げた。レインはUSPを左に持ち替えると、飛んで来たそれを右手でキャッチし、目の前で左右に展開する敵に向けて、両手に持った拳銃二丁を構え、言った。
「さぁ、派手に行こうぜ」
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