第52話・共同戦線①
山間部を抜け、開けた場所に出る。左右を覆っていた木々はもう生えていない。水平線の様に伸びた地面には、砂利が埋まっていた。
中央。一直線に伸びた舗装路を、先頭と最後尾に、車列を挟み込むように装輪装甲車が走っていた。深緑に茶色を混ぜたジャングル用の迷彩が施されていて、砲塔部分からは百二十ミリの滑空砲の砲身が伸びている。
非武装の軍用四駆の前後を挟むのは、車体上部に機関銃を搭載した軽装甲車だ。先頭と最後尾を行く二台と同じ柄の迷彩が施されていて、開いた上部ハッチからクゥエル兵が上体を出し、常に周囲を警戒している。
「厳重だな」
レインがポツリと呟くと、ギャプランは勝ち誇ったように言った。
「元々は、女帝様をお迎えするための車列だった」
「女帝?」
「エンブレス……何だ、聞いていないのか?」
彼が怪訝そうに言うと、レインは首を傾げ、返す。
「誰だよ、そいつは?」
「ほう……連中、お前に隠し事が多々あるらしいな」
「そりゃそうさ、俺は彼女たちの仲間じゃない」
「ならなぜ助けた?」
ギャプランが言うと、レインが得意げに返す。
「聞くなよ。野暮ってもんだぜ?」
不機嫌に、フン、と鼻を鳴らし、ギャプランは続ける。
「話したくないなら、それで構わん。しかし、連中も薄情なものだな」
ギャプランは大仰に手を上に広げ、バカにするように言った。
「そこまでやったのに、助けにすら来ないでは無いか」
レインも負けじと、自虐的な笑みを浮かべながら、言った。
「そんなもんだろうよ」
「連中からすれば、都合のいい男という訳か」
嘲笑混じりに言うギャプランの方を向き、レインは言う。
「……アンタも下品な事言うんだな」
「なに、お前を見習ったまでの事」
「俺を?」
「あぁ」
視線を、逃がすようにフロントガラスの方へ向け、レインはくたびれたように返す。
「あっそ」
その時、彼が乗せられている軍用四駆のコンソールから、甲高い警告音が鳴った。それと同時に車列が速度を上げ、広い荒野のど真ん中で荒々しいエンジン音が轟く。
「何事だ!」
ギャプランが怒気を強め、前の二人へ言った。助手席に座っていたクゥエル兵がセンターコンソールを操作しながら、ギャプランの声に応える。
「護衛のワルキューレ二機のうち、一機が撃墜された模様! 残りの一機も現在戦闘中……ダメだ! レーダー反応消失! 大佐! 奴等です!」
クゥエル兵が言い終えたのと同時に、前後を行く軽装甲車に取り付けられた機関銃が火を噴いた。銃口は上を向き、銃声と発火炎が静かな闇夜を賑やかせる。しかし、暗闇を舞うワルキューレを捉えられるはずも無く、時折銃口から飛び出す曳光弾の明かりが無意味に夜の闇へ吸い込まれて行くばかりだ。
瞬間、先頭と最後尾の装輪装甲車が爆散し、熱で膨張した空気が空間を揺らす。御自慢の百二十ミリ滑空法は、一度も使われることも無くその役目を終わらせることとなった。
前を行く軽装甲車が急制動で停車し、レインの軍用四駆もボディを前に沈ませながら、無理くり停車する。
「私が出る! 援護を!」
彼の隣のギャプランが、器用に車内で軍服を脱ぎ、ワルキューレアーマーを纏う際のボディースーツ姿となって、車のドアを開く。
レインは突然、悟った様な笑い声を上げると、停止している車内の中、唐突にシートベルトを付けた。
「何をしている?」
その様子を横目で見たギャプランが言う。
「大佐殿、ご注意を」
レインは何処か勝ち誇ったように言いながら、言った。
「揺れるぜ?」
「何を言って――」
ギャプランがそこまで言った時、ハイビームが彼の背後を照らし、突然昼の様に明るくなった。
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