第51話・サイン・フォー・アライアンス④
『……ガルタ公国国境付近で起きた軍車列襲撃事件に関しては、未だに詳しい事は判明しておりません。しかし、消火に駆けつけた消防官が何者かに銃撃される、という事態が起きており、他国からの攻撃では無いかと言う意見も上がっています」
カーラジオが女性キャスターの淡々とした声を流す。どうやら、レイン達が襲撃されたあの事件の事を言っているようだ。
話を聞くに、レインが戦闘を繰り広げた少し後辺りに消防隊が到着したらしい。
『次のニュースです。本日の午後十二時、我がガルタ公国とリーザ共和国との間で結ばれる同盟の調印式が行われます。つきましては……」
午後十二時。ふと発せられた時刻から連想し、レインは無意識に時計を探す。乗せられている軍用の四輪駆動車のセンターコンソール上に表示された、1:44と言うデジタル表記の数字が、現在の時刻を告げていた。
ハンドルを握る男が、ケッ、と喉を鳴らし、言った。
「リーザですと、大佐」
レインの隣、後部座席の右側に座るギャプランの方へ顔を傾け、嘲笑混じりに続ける。
「あんな小国と手を組んだ所で、我々の勝利が揺らぐと思ってるんですかねぇ?」
「黙って運転しろ。曹長」
運転席の男はそう言われ、すんません、と小声で言いながらフロントガラス越しの景色に注意を戻す。
その様子を見て、レインが小さく笑った。
「……テメェ何笑ってやがんだ?」
運転席の曹長が唸るように言う。不機嫌を隠そうともしない。レインは手錠を掛けられた手を開いて掲げ、何でもないですよ、と言うようなジェスチャーと共に言った。
「いや別に」
「おい、嘘ついてんじゃ――」
「言いたいことがあるなら、今のうちに言っておけ」
曹長の怒気を遮ったのは、ギャプランの冷たい声だ。彼はレインの方を横目で見ながら、言った。
「どうせ後先は短い。後悔の無い用にな」
敵国の大佐が続ける。あくまで淡々としているが、そこには嗜虐的な響きが混じっていた。
前の座席に座っていた二人が品の無い笑い声を上げる。死期が迫った男が何を言うか、楽しみにしているようだ。
「あっそ、なら言っとくよ」
しかし、レインは愉快そうに口角を歪め、言った。
「その小国の兵士一人にかき乱されるような、お粗末な部隊は何処だったかな?」
彼は侮蔑を込めて言う。頬の傷が開き、滴った血が着せられていたボロボロのヘンリーネックの上に落ちた。
「……なるほど、お前はリーザの男だった訳か」
ギャプランが言った。相変わらず表情が読めない。
「道理でデータベースにハッキングを掛けても何も出なかった訳だ。アレはガルタのだったからな」
納得したように喉を鳴らし、彼は続ける。
「だが、何故今になって自己紹介をしようと思った?」
レインは彼の方へ顔を向け、笑みを浮かべながら言った。
「後先短いんだろ? 墓に名前を掘ってもらおうと思ってな」
ギャプランも同じ様な笑みを浮かべ、言う。
「そうか。その潔さに敬意を表して、特別にちょっとしたコメントも掘っておいてやる。なにがいい?」
「そうだな、だったら――」
彼は少し考えた後、得意げに続ける。
「いい男が眠ってる、って掘っといてくれ」
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