第50話・サイン・フォー・アライアンス③
十数分後、シェラ達が居る地点から少し離れた辺りに、大きなコンテナが投下される。中には彼女が要請した銃器一式と、紫色の機体が三機収まっていた。
男兵士数人がそれを担ぎ出し、ナギが自身の機体を纏う。
「大丈夫か?」
ザイツがそう伺ったのは、彼女の表情が少し曇っていたからだ。
「うん。私はね」
ナギは、ザイツを心配させまいと小さな笑顔を取り繕いながら、ザイツの方へ顔を向ける。
「でも……」
「レインか?」
「……うん」
一秒たりとも無駄には出来ない、とザイツが言い切ったのだ。補給物資を待っていたとは言え、数十分間はかなり大きいタイムロスになる。
ただ、それをそれを言った本人の表情は軽く、あまり気にしている様子は無い。
「発破をかけるために、ああ言ったんだけど」
口元にいたずらな笑みを浮かべながら、彼は言う。その仕草は、何処か異国の協力者の面影があった。
「少し遅れたぐらいで死ぬような奴なら、僕達は最初からここには居ないよ」
「……そうだよね」
ナギは顔を綻ばせて返すが、まだ不安なようで、表情の曇りが完全に取れた様には見えなかった。
二人から少し離れた所で、ボディスーツ姿のシェラが、先程の黒い無線機に手を伸ばしている。
ザイツがそれを見て声を上げた。
「シェラ? どうしたんだ?」
彼が言うと、隣のナギも同じ方向へ目をやり、アーマーを纏った状態のまま、彼女の方へ歩く。脚部装甲に覆われた足が地面の土に大きな足跡を付け、金属の擦れるキリキリと言う音が鳴る。
ザイツも彼女の後を追うが、彼は脚部ブースターの出力を絞った状態で噴射し、地面を滑るような状態で移動していた。
シェラは二人を一瞥すると、溜息を付いて、言った。
「これから本部に連絡する。二人とも、覚悟はいいな?」
鋭い眼差しが、二人に向けられる。上官の目だ。二人は顔を合わせ、うなずき合い、ザイツが言った。
「あぁ、頼む」
シェラが、無線機本体からコードで繋がった受話器を伸ばし、発進ボタンを押し込む。
その時、銃声が轟いた。
弾丸が無線機本体を破壊し、シェラは咄嗟に頭を低くする。立て続けに連続する銃声が空へ轟き、発火炎が暗い森を照らし出す、短い間隔で焚かれるフラッシュの様だ。
ザイツとナギは一旦頭を低くし、空へ飛び上がろうとする。が、その時、軽率そうな声がそれを遮った。
「おっと、辞めときな。彼女の頭が吹っ飛ぶことになるぜ?」
後頭部。シェラは、そこに冷たい金属が付きつけられるのを感じた。
「こんな時に……ッ!」
彼女は歯を食いしばりながら、煩わし気に言う。
「まぁ、俺もそんなこたぁしたかねぇけど」
背後で同じ声が上がる。銃声に反応したガルタの兵士たちが怒号を上げ、背後の敵に補給物資のコンテナから引っ張り出したライフルや短機関銃を向けるが、更に別の銃声が上がり、彼等の手の内をそれを弾き飛ばした。
銃声を聞くに、軽機関銃だろうか。
「お仕事ご苦労さん。なーに、ちょっとぐらいサボったって怒鳴られやしねぇよ」
別の声だ。巨人が発するような、ガラの悪い濁声。
「さてと、乱暴な真似をして悪かった。別に俺達はアンタ等をどうこうしたいって訳じゃねぇんだ」
同じ濁声が続ける。シェラは舌を打った。
「ちょっと人を探しに来ただけだ。なに、見つけたらすぐ帰る。それまで大人しくしていてくれよ」
人探し。その一言に反応したのは、ザイツだった。彼は怪訝そうな表情を浮かべながら、シェラの後方に居る男の方を向く。シェラの真後ろに居るので、彼は身体を傾ける必要があった。
「おい、やめろ。こっち見んじゃねぇ」
軽い声が響く。見えたのは髪の毛だけだ。
シェラと同じ、金髪。
「……お前は!」
「だからこっち見んじゃねぇって!」
金髪男は、銃の照準をザイツの方へ向け、あっ、と言う気の抜けた声を上げて、言った。
「お前あの時の! もや――」
「おい! ローリングストーン!」
彼の背後に、あの濁声が掛けられる。金髪男はザイツに銃を向けたまま、大声で返した。
「何だよ!? タイタン!?」
「居ねぇんだけど!?」
「はぁ!?」
「いや、だから、アイツ何処捜してもいねぇんだよ! 部隊間違えたんじゃねぇのか!?」
「んな訳あるか! 俺は一度見た美人は忘れねぇんだよ!」
そう言いながら、金髪男はシェラの後頭部を指差す。
「んな事言ってもよぉ」
濁声の巨人が、森の闇から姿を現す。すると、ナギが、あっ、と声を上げ、彼の方を指差した。
巨人の方はそれを気にも留めず、金髪男の方を叩く。
「ロードランナーが居ねぇんじゃ、来た意味がねぇだろうが」
金髪男は舌を打ち、拳銃を下ろした。
「何で居ねぇんだよ?」
「知らねぇよ。ったく、上の制止振り切ってはるばるここまで来たってのに、無駄足か?」
「何処ほっつき歩いてんだ、アイツ」
「
小さく笑う二人の隙を見て、シェラは素早く振り返り、脚に巻いたホルスターから拳銃を引き抜く。
が、見覚えのある金髪男の顔を見て、向けた銃口をゆっくりと下ろした。
「……君達は!」
振り向いたシェラの顔を見ながら、金髪男が言った。
「あのさ、姐さん。ちょっと聞きてぇんだけど」
彼女の眼前に居る二人、カークとマックスの声が重なる。
「「
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