第31話・追跡③
レインは自分に倒れ込んで来た死体を押しのけ、積雪の上に立ちあがる。左手の拳銃を捨て、先程捨てたCZ75を拾い上げ、弾倉を引き抜き、ジャケットの内ポケットから取り出した新しい弾倉へ交換する。
古い方の弾倉にはまだ何発か残っているので、胸ポケットに滑り込ませておいた。
兵員輸送車の前で倒れていた軍用トラックの方へ歩き、すぐ隣に立てられていたKLR650のハンドルを掴んだ。
鍵は既に挿しこまれている。今しがたレインが壊滅させた部隊の誰かが挿したのだろう。
彼はふとそこで思い立ち、トラックの荷台に目をやった。まだ開けられていないハードケースが幾つかあり、彼はそれを引っ張り出して、中を開いてみた。
中には、ナギやシェラが身に着けているような、黒い戦闘用外套が折り畳まれた状態で入っていた。ただ、その外套は公国軍のそれとは少し違い、各部に施された装飾が無く、縫い目に沿って白いラインが奔っているだけのシンプルなものになっている。
(丁度いいか)
ハードケースを閉じ、他のケースも開いてみる。中には何か電子機器の様な物が入っていたが、さすがに砲弾やミサイルで引き起こされる衝撃まで受け止められるケースでは無かったのだろう。それらは何処かが欠けていたり、シリンダーの様な部品が割れていたりして、ただのガラクタと化していた。
レインはガラクタのハードケースを閉じ、コートのケースだけ軍用バイクのリアキャリアに積み込み、バイクに跨ってエンジンを掛ける。サイドスタンドを払ってギアをローに入れ、クラッチを繋いで発進した。
彼はナギが隠れていた茂みのすぐ近くにバイクを停め、ギアをニュートラルに入れて、スタンドを立て、エンジンを掛けたまま降りた。
ハードケースを取り外し、彼女の方へ歩く。
「案外上手くいくもんだな」
レインは言い、ハードケースをナギの方へ渡す。彼女はそれを受け取って、中を開くと、驚いた様子で口を開いた。
「こ、これって……」
「良い物なのか?」
「うん……。確か、防弾コート。軍の研究部が試作品を完成させたっていう話は聞いてたけど……」
言葉を詰まらせた彼女に対し、レインは軽く答えた。
「丁度いい。それ着ときな」
「え?」
「え、って、寒くないのか?」
「寒いけど……」
レインはバイクの方を後ろ手に指差し、言う。
「あれに乗ったらもっと寒いぞ」
「それは分かってるけど……」
彼から目を逸らし、コートを着るのをためらうナギに対し、レインは怪訝な様子で言った。
「着たくない?」
「……着ちゃダメなの」
予想外の答えに、レインは更に首を傾げる。
「どうして?」
「だってこれ試作品だし……」
「だから?」
「それに、軍の上層部に納品されるコートだから、私みたいな一般兵が――」
レインは鼻を鳴らし、その防弾コートを手に取った。バサリ、と乱暴に音を立ててコートの皺を伸ばす。ボタンを開けて躊躇なくナギにそれを羽織らせ、言った。
「誰が気にすんだよ? この状況で」
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