第30話・追跡②
言うまでも無く、レインにそんなつもりは毛頭無い。敵に対し親し気に振舞うのは作戦の一環だ。
「なぁ! ちょっと聞きたいんだけど!?」
彼が声を張り上げると、地上部隊の視線が一斉に彼の方へ向いた。すぐ目の前に居た一人が咄嗟にライフルを構え、レインに銃口を向ける。
レインは両腕を開き、大げさに驚いて見せる。
「おいおい!? そうカリカリすんなって!」
「貴様! 何者だ!?」
「何者って、そんな……ちょっと金目のもん漁りに来ただけだって!」
「所属は!? 名前を言うんだ!」
「お、落ち着けって! まずはそのおっかねぇの下ろしてくれよ!」
「膝を突け! 膝を!」
彼はさも物わかりの悪い死体漁りを演じ、焦れた敵兵が銃を持ってレインに詰め寄る。真っ先に彼に銃を向けた一人だ。
(右に二人、左の奥、兵員輸送車の近くに二人。最初は目の前の奴から)
レインはざっくりと作戦を立て、身体の力を抜く。
「命令に従え! さもないと――」
銃口を額に押し付ける勢いで、目の前の敵兵は彼に詰め寄った。
瞬間、レインはライフルの先台を払いのけ、銃口を逸らす。右手を開き、親指と人差し指の隙間を相手の喉元へ打ち込む。
敵兵が情けなく喉を鳴らすのが聞こえた。
すぐさま腰のベルトから拳銃を引き抜き、右方の敵兵二人へ照準を向けた。ライフルを掴み、下に引きながら、彼は目の前の敵に肩で衝突する。彼の身体を左奥、兵員輸送車の二人からの攻撃の盾にして、その状態のまま彼らの方へ突進する。
標準を合わせ終えた拳銃が火を噴いた。立て続けの二発が一人目の防弾ベストに受け止められ、そいつは胸を押さえて体を丸める。レインはそのまま狙いを左にずらし、照準器の先に居たもう一人の敵兵へ向けて四発乱射した。
命中したのは三発だけだったようだ。その三発も全て胴体へ受け止められ、敵の命を奪うには至っていない。
しかし、防弾ベストが受け止められるのは銃弾その物だけだ。その衝撃力は人体へしっかりと届く。
二人の胴体には激痛が奔り、暫くはまともに動けない。
レインは拳銃を目の前の敵の腹に当て、三発接射する。力の抜けた腕からライフルを奪い取って地面へ投げ捨て、素早く敵が掛けていたゴーグルの中央に銃口を向け、引き金を引いた。
力が抜け、だらしなく四肢を垂れ下げる敵兵の身体を後ろへ蹴り飛ばす。
その先に居たのは、兵員輸送車の近くに居た敵兵だった。
彼が死体を払い退ける隙を利用して、レインは彼の懐へ入り込み、下顎へCZ75を突き立てる。
引き金を引き、下から上へ抜けた銃弾が敵の防弾ヘルメットを内側から歪ませた。
拳銃を地面に落とし、今しがた作った死体からライフルを奪い取って、腕の中で回転させ、レインは近くに居たもう一人の敵へ照準を合わせる。相手が先に銃を向けているのが見えたので、彼は素早く膝を突き、一瞬遅れて飛来した弾丸を避ける。
避け切れた訳では無く、頬を掠めた弾丸が、そこを小さく横一文字に切り裂いた。
レインはそれを気にも留めず、襲撃者に対しトリプルタップで報復する。バン、バンバンとリズムよく撃発された弾丸は、見事に三発とも敵の頭骨を撃ち抜いた。
ピンクの霧が散り、その敵兵は糸が切れたように地面へ倒れ込む。
レインは咄嗟に後ろへ転がり、兵員輸送車の残骸へ身を隠した。フルオートでばら撒かれた五・五六ミリの弾丸が彼を追って飛来し、鉄の残骸に新しい凹みを打ち込んだ。
火花が散り、甲高く不快な音が鳴る。最初の二人が、態勢を立て直してレインに襲い掛かって来たようだ。
体を横へ倒し、レインは地面と鉄塊の隙間から敵の方向を覗き込む。横に向けたライフルの照準器が、敵兵を睨みつけた。
引き金を引き、発射。弾丸は、彼に駆け寄って来る敵兵二人の内、後ろの一人の踝を撃ち抜き、彼は足をもつれさせて雪の上へ情けなく倒れ込む。
レインは体勢同じくして、赤い照準点を敵の頭へ持って行き、二連射。
ビンゴ。ど真ん中だ。
今しがた迎えを寄越した彼の前を走っていた敵兵がすぐ近くまで接近していた。レインは立ち上がり、その敵の方へライフルを向ける。鉄塊の角から姿を現した敵兵は素早く身を屈め、レインの引き金は虚無を撃ち抜いた。
敵兵は腰を低く保ったまま、レインの腰へタックルをかます。レインはライフルを取り落とし、地面へ押し倒された。敵は彼に馬乗りになり、肩に装着していたナイフを引き抜いて、逆手に持ったそれをレインに突き立てる。
レインは上体の柔軟性を生かして、それを左へ避けた。相手の右腿に装着されていたUSP自動拳銃を奪い取り、左手で握ったそれを相手の首元へ突きつける。
「詰めが甘いんだよ!
そう言い放ち、彼は引き金を引いた。
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