第24話・『一般人』レイネス・フォーミュラ③
レインは暫く思いあぐねた揚句、取り敢えず煙が立ち昇っている方向へ進むことにした。
背中のリンクスを揺らしながら、彼は雪の上に足跡を残し、しっかりとした足取りで歩いて行く。十一キロの重りを背負っているため、走る事は出来そうにない。
車列の側では、銃を携えたガルタ公国軍兵士が何名もこと切れているのが見えた。白い雪の上に真っ赤な血だまりを作り、その上に寝そべっている状態だ。
縦一列に並んでいた装甲車両は全車破壊され、スクラップ同然だ。
見る影も無い。
生き残りはどこに居るのだろうか?
何の確証も無く、孤立無援のまま、レインは足を動かす。吹雪きが彼を襲い、ジャケットの裾や短く切った髪が風に揺れる。
車列があった辺りから暫く離れた辺りだと思っていたが、彼の向かう先で幾つかの死体がまた見つかった。
ワルキューレと戦おうとしたのだろう。彼等の腕に携えられていたのは、車列周辺で倒れていた連中と違い、ミサイルランチャーやレインの持っているような対物ライフルの様な、重火器と呼ばれるものだった。
彼は死体の一つが握っていた、スティンガー・ミサイルランチャーを手を伸ばす。
その時、離れた地点に着陸するワルキューレの姿が見えた。灰色の機体で、二機編隊を組んでいるようだ。
レインはリンクスを腕に回して銃身を展開。二脚を立て、伏せ撃ちの態勢を取る。長距離狙撃用のスコープを覗き込み、前方のワルキューレ二機に照準を合わせる。
一人はアヴェンジャー機関砲を地面に向け、もう一人は斧を持っていた。
アヴェンジャーの銃口の先に照準を移す。ボロボロになった紫の機体が見えた。彼女は青みがかった長い黒髪を振り乱し、敵兵に雪玉を投げつけている。
「ナギ……?」
レインはぼそりと呟く。その時、空を覆う厚い雲の切れ端から、太陽が一瞬顔を出した。
陽光がスコープに反射され、その反射光に反応した紫のワルキューレの顔がこちらへ向く。
黄色い右目に碧眼の左目。
間違いない、ナギだ。
レインは灰色のアーマーを纏うワルキューレの頭に照準を向け、風速と風向の目安を付け、弾道の偏差を大体で見積もって狙いを修正する。
引き金に指を掛け、力を掛ける――。
その時、ふと戦友の言葉を思い出す。
(軍隊やめたんだし、女の子撃ちたかねぇや)
脳裏をよぎったカークのそれを鼻で笑い、レインは一人でに呟いた。
「言ってる場合じゃねぇだろ」
砲声と共に飛来した十二・五ミリの弾丸は、彼女に向けられたアヴェンジャー機関砲の砲身を撃ち抜いた。立て続けに飛来するもう一発の弾丸が機関部を突き破る。
ベルトリンク式の弾丸がバラバラと地面に散らばり、機関砲本体は爆発する。
「マズい! スナイパー!」
女兵士が叫んだと同時に、三発目が斧を持ったワルキューレの右翼を千切り取った。
機関砲の女兵士がすぐさま相方の方へ寄り、バランスを崩す彼女の身体を抱え上げる。
「クソ! 全員始末したんじゃなかったのか!?」
言うと同時に、彼女はジェットエンジンの出力を上げて急上昇。煙を上げて、ナギの視界から消える。
それとほぼ同時に、砲声が聞こえた辺りから地対空ミサイルの白煙が伸びるのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます