第23話・『一般人』レイネス・フォーミュラ②

 レインは立ち上がって、弾の切れたライフルを地面に捨てる。それから兵員輸送車の前に回ると、迷彩柄を施された軍用の貨物トラックが横倒しになっているのが見えた。


 荷台に掛けられた幌を突き破って、貨物の木箱やガンケースが散乱している。後輪のダブルタイヤは黒いダルダルのゴム片と化していて、深緑色のホイールが無残な形に破壊されている。

 プロペラシャフトはシャシ中央辺りで折れていて、六気筒のディーゼルエンジンを収める為に前に飛び出たボンネットは、機関砲の弾を受けてぽっかりと大きな口を開けていた。


 レインは散らばっているガンケースの側に膝を突き、細長いそれを開く。中には十二・五ミリ弾を使用する『リンクス』対物ライフルが銃身を後退させた状態で収められていた。


 彼はそれを手に取り、箱型弾倉を引き抜く。

 ブルパップ方式を採用しているので、給弾位置は銃把の後ろだ。十発の弾丸が装填されているのを確認し、再び機関部に押し込んだ。


 リンクスに付けられていたスリングに腕を通し、銃本体を背中に回す。

 

 少し離れた位置に落ちていた小ぶりなガンケースを開くと、その中にはCZ75自動拳銃がホルスターに収められた状態で入っていた。

 レインはそれを足に巻き付け、気前よく入れられていた予備弾倉二本をジャケットの内ポケットに収める。


(さてと、戦える状態にはなったが)


 腰を上げ、辺りを見回しながら、彼は心の内で言った。


「何処行きゃいいんだ?」




「痛そうだねぇ、お嬢ちゃん」


 灰色のワルキューレアーマーに身を包んだ女兵士が言った。彼女の向けるアヴェンジャー機関砲の銃口は、翼を奪い取られたナギの方へ真っ直ぐ向けられている。

 空に浮かぶ彼女の隣にはもう一機灰色の機体がおり、右手には斧の様な武器が握られていた。


 ザイツと鍔ぜり合った、あの機体だろう。


「随分と可愛らしい顔をしているじゃないかい。どうだい? ここは一つ、お姉さんと取引をしないかい?」


 ナギは動く腕で雪を握り、意地の悪い表情を浮かべる女兵士に向かってそれを投げつける。


「お断りします! あなた方とは、どんな取引にも応じるつもりはありません!」


 彼女は虚勢を張って応じるが、本当は恐怖で足が竦み、膝が小刻みに震えていた。


「へっ、フラれてやんの」


 斧を持った女兵士が、鼻で笑いながら言った。雪玉をぶつけられた方が煩わし気に舌を打ち、不機嫌を露わにして言い放つ。


「そうかい、なら男連中に相手してもらいな!」

「あーあ、可哀そうに。アイツ等限度ってもん知らないからねぇ」

「何時まで耐えられるか見ものだね。あたしは五分も持たない方に掛けるよ」

「趣味悪~。アンタ一人でやってなさいよ」


 勝ち誇ったように笑う二人に見下されながら、ナギは悔しさに歯を食いしばる。


 その時、厚い雲から覗いた僅かな太陽の光を、光学照準器が反射するチラつくような光が彼女の目の端に留まる。 

 

 反射的に彼女がそちらへ目を向けた時、狼の遠吠えを思わせるような砲声が響いた。

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