第22話・『一般人』レイネス・フォーミュラ①

  後部ハッチが破断する不快な音が響き渡り、開いた扉から外の明かりが差し込む。

 燃え盛る車内を、黒光りするHK416アサルトライフルの先端が覗き込んだ。


「生きてる奴は居るか?」


 外から男の声が響く。声がした距離から考えて、ライフルを車内へ向けている男では無いようだ。


(少なくとも二人以上は居るな)


 レインは胸の中でそう独り言ちる。


「居ると思うか? 死体しかねぇよ」


 別の男の声だ。どうやらライフルを持った男らしい。


 レインは行動を開始する。

 内側に開いたハッチの裏に隠れていた彼は、左腕を伸ばしてライフルのハンドガードを掴み、重い鉄の扉を蹴り返す。扉はライフルを持った男に直撃し、不意を突かれた彼はその弾みで銃把から手を放した。


 ドアから姿を現し、奪い取ったライフルを腕の中で一回転させ、レインはそれの銃口を敵の方へ向ける。

 敵もさすがによく訓練されている様で、すぐさま右腿に吊ったサイドアームへ手を伸ばした。


 が、遅い。


 レインは敵のボディアーマーに三連射、続いて頭の防弾ヘルメットに、至近距離から同じ場所に二発お見舞いする。

 頭を撃ち抜かれ、自身の方へ倒れ込む敵兵を押しのけながら左膝を付き、銃口を外へ向ける。

 

 ドアのすぐ側に、敵兵がもう一人。彼の照準は既にレインを捉えている。

 

 引き金が引かれ、銃声が鳴る。


 撃ち出された弾丸はレインの頭の上スレスレを掠め、兵員輸送車の内壁を抉った。鉄と鉛が衝突し、甲高い金属音が鳴る。


 膝を突いたのはこの為だ。敵には彼に照準し直すための一瞬の隙が出来る。


 そして、レインはその隙を見逃さなかった。

 引き金を素早く二度引く。ダダン、と立て続けに発射された二発の弾丸は、敵兵のゴーグルを突き破り、レンズの内側が真っ赤に染まる。


 敵兵はそのまま外へ倒れ込む。外に居た地上部隊の生き残りの喚き声が上がった。


 訓練されたプロなら、奇襲を受けた所ですぐに立て直し、襲撃者に対しすぐさま反撃を開始する。その間僅か数秒という事も何ら珍しくない。


 だが、レインはその事を重々承知の上、その数秒は彼がこの状況を打開するのに十分だった。


 ライフルのセレクターをフルオートに切り替え、彼は兵員輸送車の床を蹴って外へ飛び出した。空中で体を横に回転させ、積もった雪の上に背中で着地する。足を肩幅に開き、仰向けに寝そべった状態で足元の方向へ銃口を向けた。


 突然飛び出して来た大きな物体に、外に居た敵兵二人は反射的に銃を向ける。彼らはそれが敵か味方を判断するために、一瞬の隙を生じた。


 端から味方の居ないレインがその一瞬を制すのは、最早必然だったのだろう。引き金を引き切り、彼の手に持ったライフルが殺戮の調を奏でる。

 連続して吐き出される弾丸が彼の敵二人をズタズタに引き裂き、兵員輸送車の外壁に歪な赤い花模様が浮かび上がった。


 弾が切れ、ライフルの機関部が開いた状態で止まる。


 最後にレインが仕留めた二人は力が抜けたように項垂れ、ピクリとも動かなかった。


 レインは寝そべった状態で銃を構えたまま言う。


「死に損ないなら、居たな」



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る