第20話・雪上の奇襲⑤

「レーナ! カイエ! 起きろ!」


 剣を思わせるような鋭い声が車内に放たれる。そこに母親に似た優しさは無く、部下に命令を下す上官その物の声だった。


 白黒コンビの二人は目を開き、まるで機械のスイッチが入ったように素早く起き上がる。二人の纏う空気も今までの無邪気な子供の様なものでは無く、何処か殺伐罰とした、戦士を思わせる物に変わっていた。


緊急発進スクランブルだ。出るぞ!」


 そう声を張り上げて、シェラは兵員輸送車の後部ハッチを押し開く。ハッチの後ろには既に自立飛行モードのワルキューレアーマーが三機待機していて、シェラは一番先頭の機体に飛び移った。


 彼女の足が小型の戦闘機を思わせるそれの上に乗った瞬間、それは瞬時に形を変形し、シェラの身体に纏わり着いた。腕部と脚部に装甲が装着され、背中にはブースターと翼が伸びている。


 カイエとレーナもシェラと同じように飛び移り、アーマーを装着する。


「シェラ!」


 レインが席から立ちあがり、後部ハッチの向こうに広がった、白銀の大地の上を浮遊するシェラに向かって言った。


 シェラは開いたハッチに手を掛け、レインに言い放つ。


「フォーミュラ上等兵曹長! 姿勢を低く! ここは今から戦場になる!」


 そう告げると、彼女はハッチを勢いよく閉め、鉄と鉄が衝突する音が兵員輸送車の中へ響いた。その向こうで出力を上げたジェットエンジンの轟音が轟き、それは上方へと飛び立って行く。


 シェラ達が出撃したのを確認すると、兵員輸送車は速度を上げ、ディーゼルエンジンの唸り声が一層強くなった。

 

 兵員を八名収容できる後方キャビンで立ち上がっていたレインは、慣性に襲い掛かられてバランスを崩し、そのまま前のめりに輸送車の床へ倒れ込む。間の抜けた唸り声を上げるが、響き渡るロードノイズや上空で鳴り響く銃声にかき消され、運転席の公国軍兵士二人は彼にお構いなくアクセルペダルを踏み込んだ。


 路面の轍を踏んで跳ねたり、回避行動の急ハンドルで右へ左へ大きくロールする兵員輸送車の中、身体の数か所に青あざを作りながら、レインは何とか身を起こす。手錠を架せられた状態でもと居た座席に身を乗り上げ、シートベルトにしがみ付く。


 その時、運転席の一人が焦燥に駆られた叫び声を上げた。


「マズい! ミサイルだ!」


 その声が響き渡った直後、兵員輸送車の前部が爆発し、衝撃波がレインを襲う。彼は強烈は爆発エネルギーの前にどうする事も出来ず、彼の身体は先程閉められた後方ハッチへと吹き飛ばされ、頭を含め身体を鉄塊へと強打する。


 そのまま燃え盛る車内へと叩きつけられ、救援要請の無線が鳴り響く車内の中、彼の視界は徐々に黒く狭まって行き、そのまま意識を手放した。


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