第18話・雪上の奇襲③

 兵員輸送車の屋根の向こうで物音が鳴る。どうやら、哨戒に出ていたカイエとレーナが帰って来たようだ。


 ワルキューレは滑走路を必要としない上、回転翼機よりもずっと小型な為、戦車や装輪装甲車の上面装甲と言った非常に狭い場所にも着陸、更には離陸することが出来る。

 更に、ワルキューレアーマー自体に自動航行制御装置が搭載されていて、アーマーの纏い手から離れて自動で基地へ戻ったり、逆に呼び出したりする事も可能だ


「寒い!」


 砲塔のハッチが開き、アーマーを装着するためにボディスーツ一枚という姿のカイエが中に戻って来る。後にはレーナが続き、いつも通り気だるげで表情が読めないが、彼女は肩を抱いて小刻みに震えていた。


「次! ザイツな!」


 カイエが声を張り上げる。その元気がどこから湧いてくるのかは不明だ。


「分かった」


 ザイツは一言そう言うと、外套と制服を脱いだ。同乗者はどうやら全員が中にボディスーツを着こんでいる様で、制服の下からぴっちりとしたそれが姿を現す。


「ナギ、頼めるか?」


 彼はレインの隣に座っているナギに目を向けて言った。


「了解」


 彼女は一言そう言うと、ザイツと同じ様に服を脱ぐ。履いていたのはプリーツスカートでは無くショートパンツだった。


「じゃあ、行ってくる」


 席から立ち上がり、彼女はレインを見下ろして言う。


「寒くないのか?」

「アーマーを着たら、マシにはなるかな」


 少し表情を緩め、続けた。


「それまで地獄だけど」

「気を付けて」

「うん」


 レインも同じように返し、ナギは先に砲塔へ上がって行ったザイツの後を追った。


 ハッチが閉まり、兵員輸送車の中が少し暗くなる。


 カイエはシェラから渡されたタオルで雪に濡れた自身の頭を拭いていた。髪をくしゃくしゃにする様に自分の髪をいじめている。

 

 レーナの頭にも同じタオルが乗っているが、彼女は寒さに降伏し、自分の外套に丸まって震えていた。が、レインの方に視線を向けると突如立ち上がり、彼の前に移動する。


「……え?」


 座っていた彼と同じ目線の瞳を見返しながら、レインはマヌケな声を上げる。


「ん」


 そう一言言い、彼女は彼の方へ頭を突き出した。拭け、という事なのだろう。


 彼は手錠で繋がれた両手をレーナの頭に伸ばす。以前よりも反応は早かった。


「あ! ズルいぞ! カイエもだー!」


 そんなレーナの様子を見て、カイエは無防備なレインの腹元へ突撃した。彼女の小さな頭が彼の鳩尾へ炸裂する。

 

「……待て、シェラに頼めばいいだろ」


 胸元を押さえながら、レインは苦し紛れに言葉を漏らす。


「お休みなさ~い」


 そんな彼を尻目に、シェラは空いた隣の席へ身体を倒す。どうやら昼寝をするつもりの様だ。


「シェラさん? どうして?」

「軍人はいつ眠れるか分からないからね。眠れるときに寝ておくのが定石だよ」

「それは分かりますが、何故このタイミングで?」


 彼の言葉を受け流すように、シェラがわざとらしく寝息を立てる。


「ちょっと!?」

「……うるさい」


 喚くレインに対し、レーナが呟くように言った。


「シェラが寝れない。早く頭をふけー」

「レーナの言う通りだ! 早くしろー!」


 ちっこい頭が両方からレインに迫って来る。


(コイツ等・・・・・ッ!)


 そんな思いを胸の内で黙殺し、レインは白黒コンビの頭を拭いた。

 





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