第17話・雪上の奇襲②
ガルタ公国軍の制服は堅物な印象を受けるデザインをしているが、着こなし方には特に規則が無い用で、レインが押し込められた兵員輸送車の同乗者たちは制服を好きなように着用していた。
シェラは黒い戦闘用外套は肩から羽織っただけの状態が好きなようで、昨晩見た時とあまり変わらない。ただ、外套の下はネクタイが閉められた制服をきっちりと着こなしていて、細身の黒いパンツがよく似合っている。
ザイツもネクタイを締め、制服をきちんと着こなしていた。外套に腕を通しているが、前のボタンは開けたままで、軍人気質の強い彼らしく、堂々と制服を見える様なスタイルを取っている。
レーナとカイエは外套のボタンを全部閉め、腰のベルトもしっかりと巻いている。しかし、二人は堅苦しい軍服そのものがあまり好きでは無いらしく、実用的なカーゴパンツに、外套の首元からは黒色のタクティカルセーターが覗いている。
レインの隣に座っているナギは外套のボタンを全て閉め、寒いのか襟まで立てていた。襟元をぐるっと一周する細いベルトで、立てたそれを固定している。
トレンチコートの襟は、デザインにもよるが大方がかなり大きい。彼女の首元はおろか、口元まで隠れていた。
足元はプリーツスカートでも履いているのか、長い外套の裾元から、ワルキューレアーマーを着用する際に付けるぴっちりとしたソックスを履いた、細い足が覗いているだけだった。
「で? 俺は何でこんな物付けられてるんだ?」
レインは自身の手首に掛けられた手錠を睨みつけながら言った。
「悪いね、君は形式上捕虜として扱われる事になってるんだ」
彼の斜め前に座っていたシェラが、長くスタイルのいい足を組みながら言った。その隣にはザイツが座っていて、不機嫌そうに足を広げている。
「捕虜か……軍を抜けてからなるとはね」
レインは力を抜き、雪道を進む兵員輸送車の壁に背中を預ける。装甲車両の内部は熱い、狭い、煩いが定石だが、外が寒いおかげで温度だけは丁度よい塩梅になっていた。
「じゃあ、俺を何処に連れて行くつもりなんだ?」
「それは言えない。何しろ君はもう少しで行方不明になるんだから」
シェラの言葉に、レインは鋭い目を向けた。途端に彼から穏やかではない雰囲気が漂う。
「どういう意味?」
だが、彼より先に鋭い語気で言ったのは、隣で座っていたナギだった。
「あぁ、別に彼を殺す、とかそういう事を言ってるんじゃない。何せ、君はもう民間人。それに手錠をかけて連れまわし、殺害したとなると、私たちが軍に居られなくなる」
彼女は特に驚いた様子も無く続ける。
「この先に駅があるんだけど、君にはそこで降りてもらうってだけさ」
レインが納得したように肩を竦め、言う。
「そこからは?」
「それは……」
言葉を濁し、レインから目を背けたシェラの代わりにザイツが口を開く。
「自分で帰れ」
「……冗談だろ?」
「マジだ。大マジだ」
「ここから家まで幾らかかるよ?」
「知らん。駅で調べろ」
「運賃が足りなかったら?」
ザイツは嫌に勝ち誇ったような笑みを浮かべ、レインに言った。
「ヒッチハイクのコツを教えてやろうか?」
レインは溜息を付き、言った。
「ご親切にどうも!」
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