第12話・ムーンナイト・クルーズ④

「そういや、アイツは何でワルキューレアーマーを扱えるんだ?」


 シェラに引き起こされながら、レインは言う。


「え?」

「ザイツだ。アレは女性しか扱えないとか聞いてたが」

「あぁ、たまにいるんだよ。例外が」


 立ち上がった彼は埃を払い落とし、言った。


「アイツがソレ?」

「そう、適合率は驚異の八十パーセント。実は私よりも高い」

「へぇ、意外だな」

 

 倉庫から出て、レインはもと居た場所の手摺を掴もうとする。


「熱っ!」


 その手をすぐに引っ込めて、彼は叫び声を上げた。


「そりゃね」

 

 シェラが笑いながら言う。レインは火傷しかけた手を振りながら、彼女の方へ振り向いた。


「どうやったら分かるんだ? その……適合率? とやらは」

「下に診断機があるんだよ。やってみるかい?」

「……頭に変な機械付けたりしないよな?」

「しない。手を乗せるだけだ」

「よし、ならやってみよう」




「ゼロか……」

「ゼロ!」

「ゼロだ」

「……三回も言うな」


 シェラ、カイエ、レーナの三連装砲がレインをズタズタにする。


 レインはシェラたちに連れられて下の格納庫へ降り、隅に置かれていた端末を起動した。真ん中に手の形をした枠が描かれていて、そこに手を置いてくださいと言わんばかりの装置だった。

 彼は意気揚々とそこに手を置いたのだが、顔の高さに設置されていた液晶ディスプレイに表示されたのは、0%という無慈悲な数字だけだった。


 

「うわ、ゼロだ」

「初めて見たぜ」

「あの機械壊れてんじゃねぇの?」


 軍服に身を包んだ男達がレインの診断結果を見て言いたい放題に開口する。

 レインは赤面し、恥に身を震わせていた。彼自身はもう少し高いと思っていたようだ。


「これは意外な結果が出たな」


 顎の下に手をやったシェラが感心したように言う。


「どんなにセンスのない奴でも、十数パーセントの数値は出るはずなんだが」

「追い打ち掛けんな」




 レイン達は飛行甲板へ続く鉄の階段を上っていた。階段を照らすライトは赤く、無機質な鉄の船壁と相まって、不気味な雰囲気を醸し出している。


「疲れたー!」


 レインの前を歩いていたカイエが踊り場で急に寝転び、手足を大の字に投げ出して声を上げた。


「カイエ?」


 踊り場を通り過ぎ、既に三段目の階段に足を掛けていたシェラが彼女を振り返り、言う。


「もう歩きたくなーい!」


 カイエはさながら駄々をこねる少年のように手足をジタバタと振る。


「自分で歩きなさい」

「やだー!」


 喚くカイエに溜息を付き、シェラは階段を降りて、カイエの前で背中を向けて腰を下ろした。


「ほら」


 彼女がそう言うと、カイエは力の入っていないふにゃふにゃの身体でシェラの背中に這い上がる。


(デカいナメクジみたいだ)


 その様子を見たレインが、心の中でそう呟いた。


「よいしょっと」

 

 シェラはカイエを背中に背負い、再び階段を上り始める。レインも階段を彼女の後を追って、階段を上がり、カイエと同じ踊り場に居たレーナを追い越した。


「ん?」


 ちょうどその時、レインの服の裾が引っ張られ、レインはそっちに目を向ける。


 レーナが気だるげそうな顔で彼を見上げていた。


「何?」

「んー」


 彼女は喉を鳴らすように言い、階段を上がっていくシェラを指差す。


「アレをやれと?」


 レインが言うが、レーナはジト目で彼を見上げるだけだ。

 ただ、目は口ほどに物を言う。無言の眼光はどうやら、レインが言った事を求めているようだった。


 彼女が何も言わないのをいい事に、レインは暫くレーナとにらめっこを繰り広げていたが、結局無言の圧力に押しつぶされ、彼女を背負う事になったのは言うまでも無い。


 



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