第10話・ムーンナイト・クルーズ②

「シェラ! どういうつもりだ!」

 

 レインが船室の外へ出ると、もやし野郎がシェラに詰め寄った。


「そうカリカリするなよ。彼の母国とは近々同盟を組む予定なんだ」

「だからって……おい! お前!」

 

 もやし野郎が声を張り上げ、腿に吊った自動拳銃を抜いてレインの顔面へ向ける。


「中に戻れ!」


 彼がそう言うと、レインは何か言いたげに口を小さく開いた。が、すぐに口を閉じ、呆れたように顔を振る。


「聞こえなかったのか!? 中に戻るんだ」

「ザイツ」


 尚もレインに詰め寄るもやし野郎に対し、シェラが冷たい声で言う。クールを通り越して、氷の刃を思わせるような声だ。


「何だ!」

「やめるんだ」

「どうして!」


 言い争う二人の間に、レインの溜息が割り込む。


「安全装置」


 レインが呟くように言った。

 

 ザイツ、と呼ばれた緑髪の少年は自らの手に握ったHK45自動拳銃の左側面に目をやる。フレーム後方に搭載されたセレクター機構が斜め上へ向いていた。それはつまり、安全装置が掛っている状態だ。


「威嚇になってない」


 レインが言い、彼の拳銃を奪い取る。


「あと、相手の腕が届く範囲で銃を向けるな」


 そう言って奪い取った拳銃の銃把の方を向け、少年の前に差し出した。

 

 彼は舌打ちし、苦い顔でレインの手から拳銃を奪い取る。


「僕は認めないからな」


 そう吐き捨て、ザイツはレインとすれ違った。そのまま船内の通路を歩いて行く彼の背中を見送り、シェラが言う。


「すまない。彼はああいう性格なんだ」

「気にしちゃいない。責任感が強いのは悪い事じゃないさ」


 レインが言うと、シェラは少し笑い、言った。


「ザイツ・シュピーゲル。彼の名前だ」

「良い名前だ」

「同感だ。さて、邪魔者も居なくなったし、外に行こうか」

「外?」

「あぁ、甲板に上がってみないかい?」




 甲板に上がるため、レインはシェラの後に続いて船内に伸びた廊下を進んでいた。


「なぁ、二つほど質問があるんだが」

「だが~」

「だが!」


 レインが言うと、彼の後ろから気だるげな声と元気一杯の溌溂とした声が上がる。


「アンタ等はどうして俺達の場所が分かったんだ?」

「あぁ、それは……」

「んだ~」

「んだ!」

 

 シェラが口を開くと、それに被せる様に同じ声がレインの後ろから再度上がった。


「……もう一つの方から片付けよう」


 レインが言い、後ろを振り向いて、続けた。


「この子達は?」


 彼が下に向けた視線の先、そこに居たのは、白髪で眠たげな表情を浮かべた少女と、いたずら気に笑う褐色肌で少し茶色がかった髪の少女だった。二人とも同じ位の長さの短髪で、白黒コンビと言い表すのにさわしい二人だ。


「レーナ」

「カイエだぞ!」


 眠たげな少女が言い、同じタイミングで褐色肌の彼女も言う。


「まぁ、自己紹介通りだよ」

 

 シェラが言った。二人を見る彼女の目は、保護者のそれと相違ない。


「二人もワルキューレ?」

「当たり~」

「もちろんだ!」


 レインが言うと、二人から同じ調子の返事が返って来る。


「……随分と小さいな」


 彼がそう呟くと、二人の顔が真っ赤に染まる。


「何ですと?」

「何をー!」


 怒る小動物の様な声を上げ、二人はレインに襲い掛かった。



 

 

 

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