第3話・船上でのひと時②

 甲板の中央で、男四人の笑い声が響く。彼らが取り囲む中央にはバーベキューグリルが置かれいていて、分厚い肉が揺れる火の中で音を立てていた。


「アイツ等とバカやれるのも、これで最後か」

 

 レインが言う。物悲し気な笑顔が浮かんでいた。


「そうか? なんだかんだ、俺はまたアイツ等とつるめる気がするぜ?」


 カークが言い、楽し気にビール瓶を覗き込む。


「あぁ、もうねぇや」

 

 そう呟くと、彼は中央の連中に手を振り、大声を上げる。


「マックス!」


 その声に反応したのは、例のガラの悪い男だった。巨体がカークの方を向き、大砲を思わせるような大口が開く。


「何!?」

「これ捨てといてくれ!」


 カークは空のビール瓶をマックスの方へ下薙ぎに放り投げる。

 岩すら砕くことが出来そうな大きな右手でそれをキャッチし、マックスは少し離れた所に置かれていた空のドラム缶へ、空瓶を投げ入れた。

 

 瓶の割れる音が、缶の中で反響する。


「カーク!」

 

 マックスの声が響いた。陸を行く戦車の轟音の様な声だ。


「駄賃だ! 受け取れ!」

 

 足元のクーラーボックスから瓶ビール二本を取り出し、マックスはそれをカーク達のいる方向へ投げた。

 カークとレインは一本ずつそれをキャッチする。


「いってぇ!」

 

 カークが叫んだ。隣のレインも声は出さないものの、ビール瓶を左手に持ち替えて、右手を痛そうに振っている。


「相変わらず、滅茶苦茶肩つえぇのな」

「何時だったか、アイツ、手榴弾をとんでもない高さまで投げてたの覚えてるか?」

「覚えてる覚えてる。アレ何階だっけ? 四階?」

「五階」


 レインが短く答え、受け取ったビール瓶を床に置いた。


「ちったぁ加減しろっての」

「言えてる」


 カークは手摺に栓を打ち付けて、ビール瓶を開いた。

 気が抜ける音と共に、中のビールが溢れ出す。




 その時、ジェットエンジンの高温が空を駆け抜けた。空気を揺らす衝撃波がレイン達の船を小さく揺らし、風が服と髪を揺らしていく。


「お! 見ろよレイン。噂をすればなんとやら、ワルキューレだ」

 

 カークが興味津々で柵から体を乗り出す。レインは鼻で笑い、呆れたように言った。


「ケツは見えるか?」

「も~バッチリよ! ケツどころか胸と顔まで見えるぜ!」

「あっそ」


 レインが顔を左右に振りながら、手摺に置いていたコーラの瓶を取り、口へ持って行く。

 

「あの真ん中の金髪の子! 中々イケてるぜ!」

「そりゃよかったな」

「泣きボクロが良いねぇ! モロ俺のタイプ!」

「え?」


 レインはカークの一言が引っ掛かり、後ろを振り向く。

 五機のワルキューレたちが空を疎らに駆け抜けていた。アーマーの色は紫色が主体で、所々に黒や白のアクセントが入っている。各機でデザインの好みが分かれている様で、入れられたアクセントは、一機一機微妙に位置が違っていた。


「あのエンブレム、ガルタ公国か?」

「え? あぁ、確かに。近々俺らと同盟を結ぶんだっけ? それがどうかしたのか?」

「いや、それじゃない」


 少し上を見上げながら、レインは言う。


「低すぎる」

「え?」

「高度だ。通常、俺達を輸送する航空機はもっと高いとこを飛んでたはずだ」

「あぁ、そうだな」

「彼女たちも、一応は航空機扱い。なら、もっと上を飛んでるはず」

「理屈じゃそうだ。でも緊急事態って事もあるだろ?」

「軍用機で、一番遭遇する緊急事態は?」

「敵の奇襲……まさか!」

 

 カークがハッとしたように声を上げた。レインは彼に顔を合わせ、言う。


「彼女たちは回避行動を取ってる最中だ! ミサイルが来るぞ!」


 



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