第2話・船上でのひと時①

 レイン達を乗せた船が揺れている。海上に浮かぶ、嘗ての彼等の基地から、本国大陸へと彼らを送り届けるためだ。


 第八一一空挺部隊。

かつて彼が所属していた部隊の名前だ。所謂エアボーン部隊。高速で飛行する航空機から飛び降り、パラシュートで戦地へと降下する。戦闘が終われば目標地点へと移動し、回収を待つ。

 空から現れ、戦況をひっくり返し、去って行く。彼らの部隊のおかげで勝利した戦線や、救われた命も少なくない。


 ただ、それも昔の話。


 空を自在に駆ける鉄の鎧に身を包む、「ワルキューレ」が現れてから、彼等の出番はめっきり減った。

 戦闘機に匹敵する推力を持ったエンジンを背中に備え、肩の辺りから真っ直ぐに伸びた鉄の翼。武装は一般兵が扱える火器の何十倍もの威力を持ったガトリングガンや、六十五ミリのカノン砲が腰の腰の辺りからマウントされていて、外部ジェネレーターを取り付ければ、実験投入されたばかりのエネルギー兵器を取り扱う事も出来る。

 自立飛行可能な彼女らは、回収を待つ必要も無い。


 おまけに、驚くべきはそのコストだ。

 ワルキューレアーマーを一機作るのに、戦車一台の半分程度。速い、強い、安いとなれば各国が飛びつかない訳がない。


 五年と経たない内に、戦場は彼女たちの物となった。




「で、そのをわり食らったのが俺達」

 

 金髪の男が言う。船の甲板で転落防止用の柵にもたれ掛かっていたレインの隣に立っていた男だ。

 手にはピールの瓶が握られていて、ほんのりと赤い顔が、出来上がりかけ、を示している。


「ロッカールームでも聞いた」

 

 レインは彼の方を向いて言った。彼の手にも瓶が握られているが、中身はコーラだ。


「最近は出撃することも無かったからな、話のタネがそれしかねぇのさ」

 

 金髪の男がビールをあおりながら言う。何処か哀し気だ。


「戦乙女に乾杯だ。レイン」


 そう言って、やけくそ気味にビール瓶を前に突き出す。


「乾杯、カーク」


 レインは突き出されたそれに、コツンとコーラの瓶を打ち付けた。

 

「そういや、お前酒は飲まねぇのか?」


 金髪の男、カークがレインのコーラを指差しながら言う。


「下にバイクが積んである。港から家まではそれを転がさないと」

「あれか? あの、ナナハンマグナとかいう奴」

「それ。正確にはV45」


 へぇ、と興味なさげにカークは相槌を打ち、再びビールをあおった。


「酔った頭で乗るもんじゃないのさ」

「聞いてねぇっての」


 レインが言い、カークが彼の肩を小突く。溜息を付いてから、カークが言った。


「大陸に戻ったら、どうするんだ?」


 コーラを一口飲んでから、レインは光る海面に目を移す。


「軍の給料が溜まる一方だったから、暫くはあたふたせずに過ごせるはず」

「どれくらい?」

「半年ぐらい? その間、暫く旅に出てみようかと思ってる」

「バイクで?」

「あぁ、バイクで」


 カークが鼻で笑い、体を回して、柵に両肘を突く。


「良いねぇ、自由気ままな生活って奴?」

「そんなとこ。お前は?」

「俺は実家を継ぐことにした。菓子屋だぜ? 和菓子」

「うーわ、イメージ無いわ」

「言うな。俺が一番できてねぇっての」

 

 甲板の上、戦友二人の笑い声が響いた。

 

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