第4話 ぎこちなく並び
そらがきれいだぁ。
おひさまきもちいぃ。
つくえひんやり〜。
「おい、いつまでそうしてんだよ。いいかげん元気出せって」
机に突っ伏している俺に、裕樹は呆れた表情で話しかけてくる。せっかく物思いにふけていたというのに。
「あのさ、雛木陽奈はいろんなやつが告って、んで玉砕してんの。確かに話しかけたのに大したリアクションがもらえずどっか行かれたのは辛いと思うぜ? だけどそんな思いつめんなって」
裕樹は俺を励ますために優しい言葉を投げかける。その言葉を受け、流石にこのまま項垂れ続けるのは悪いと思い、体を起こした。
「お、ようやく立ち直ったか。おせぇぞ」
「悪い。迷惑かけた」
謝罪をし、感謝を告げた。
とはいえ立ち直ったわけではない。そりゃそうだろ? 何年も付き合っていた彼女が死に戻ったら俺を避けてるんだ。それはつまり、付き合っている時は我慢していたが、俺のことは嫌いだったということである。
ただ相手にされないより精神的ダメージがとんでもない。おかげで幼児退行してしまっていた。
「はぁ、どうすっかな……諦める、は無理だ。だって好きだし」
「圭、そこまで本気なら止めねぇけどさ、引き際だけは頭に入れとけよ」
「わかってる。しつこく行き過ぎても迷惑だろうし、もう何回か話しかけて、無理そうなら諦めるよ。この気持ちは心の中にしまっとく」
正直俺が甘かった。俺が陽奈を好きなように、陽奈も俺のことを好きでいてくれているものだと、記憶があれば話は早いと思っていたことは、おごりが過ぎたと反省せざるをえない。
いやまぁ速攻で拒否されたから話自体は早かったんだけどね。
「なぁ裕樹、もしだぞ、もしもう一度人生をやり直したとして、元の彼女が自分のこと嫌ってたらどうする?」
「なんだよその質問? 頭悪そうだな。……そうだな、とりあえず泣くな」
わかる。今学校じゃなければ泣いていた可能性は高い。
「とりあえず泣いて、そしたらどこが悪いのか聞いてみるかな」
「ほぉ、メンタル鋼だな」
「聞かずに放置したらよ、そのモヤモヤで数日飯が喉を通らなさそうだしな。……って、何真面目に返してんだ?」
俺はなんでこいつと距離を置いたのだろうと思うほどに、真面目に回答してくれた裕樹。その言葉は何をすべきか迷っていた俺の背中を強く押した。
「うし、決めた! 俺、陽奈……雛木さんに話を聞いてみるよ! サンキューな!」
「おう。……ん? なんでそうなった? (人生もう一度やり直したらうんぬんの話だったのに。あ、なるほど。遅れてきた厨二病か。これはそっとしておくに限るな)」
その後、なんて陽奈に声をかけようかと授業中に思案し続ける。幸い、授業は理解している内容だったので、じっくりと考えることができた。先生には申し訳ないと思っている。
ただ、生徒の未来についての大事なことなので、許していただきたい。
そして迎えた昼休み。俺は陽奈がいるであろうとある場所へと向かった。
それは、頭上に別校舎が建てられてあるピロティだ。陽奈はいつもここに設置されたベンチに座りながら昼を友達と昼を食べていた。
ちなみに初めて話したのもこの場所だ。
俺も母さんに持たされた弁当をもち、ピロティに向かう。裕樹には『突撃してくる』とだけ伝えた。なんだか可哀想な子を見るような目だったが、送り出してくれたので伝わりはしたのだろう。
「お、やっぱりいた」
彼女は案の定、ベンチに座りながら友達と仲良く昼ご飯を食べている。その光景を見ていると、なんだかそこに割り込んで邪魔をするのが申し訳なくなってきた。
「放課後にしようかな……うん、放課後にしよ」
肝心なところで二の足を踏んでしまうのは俺の悪いところらしいが、これはしょうがないだろう。あそこで割り込むデリカシーのない男にはなりたくない。
そう思ってい来た道を振り返った時、陽奈の友達が俺に気がつき、大きめな声で指を差した。
「あ、朝の人だ!」
朝の人て。そう口に出しそうになり、反射的に振り返ってしまった。そして陽奈と思いっきり目が合ってしまった。これから無視は逆に失礼である。
「あ、えっと……今朝はどうも」
「あ、はい……どうも」
「その、たまたまここに来まして」
「そう、なんですね」
お互いぎこちない言葉を交わす。初対面の時ですらここまで辿々しくなかった気がする。
記憶持ちというのはこういう欠点があるらしい。すごく傷つく。
すると、そんな俺たちを見ていた友達は、俺の手元にある弁当箱をじっと見て、そして自身の弁当箱の中身を同じくじっと窺った。
そして何か決断したように深く頷き、いきなり弁当の中身をかき込んだ。
「亜美ちゃん!? 何やってんのいきなり……!?」
「ごめん陽奈ちゃん、私先生に呼び出しくらってたの忘れてた! また明日一緒にお昼食べよう! それじゃあまた!」
そう言ってベンチから立ち上がり、颯爽と走り去っていった亜美ちゃんと呼ばれた友達。一瞬こちらに視線を向けた彼女からは、『道は作った。あとは自分で頑張れ』という熱いメッセージを感じざるを得なかった。
何あれカッコ良すぎる。
ともかく、俺はこのチャンスを絶対に掴まなくてはいけないのだ。
「……陽奈、話があるんだ。よかったら昼ごはんでも食べながら」
「……わかった。私も話さなくちゃとは思ってたから」
こうして俺たちはベンチで並び座り、今後のことについて話し合うこととなったのであった。
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