第2話

橋爪の放課後は非常に怠惰で不定期なものである。教室での読書を行う確率は約4割、1割が家への直帰で、全体の半分がウィンドウショッピングである。その確率は全て彼の気分に左右される。

彼の住む札幌市には、「大通」と「札幌駅」、大通と札幌駅を繋ぐ「駅前通り」、大通から少し南に行った「すすきの」と、大通とすすきのの間を繋ぐ「狸小路」、計5つのエリアからなる都心部が存在する。それら5つのエリアは地下鉄3駅分で完結しており、全て地下歩行空間で繋がっている。彼は気分によって、そのエリアのどこかをプラプラ徘徊するのである。

今日は全体の4割にあたる読書をして帰路に着いた橋爪。家に着く頃には19:00の10分前であった。

両親が自由奔放主義のため、橋爪は現在一人暮らしをしている。中学3年までは実家で暮らしていたが、高校1年からは自身の成長の意味も含めて、実家から少し離れたアパートに住んでいるのだ。毎日の自炊や洗濯といった家事と、勉強、趣味の両立に初めは戸惑っていたが、高校2年となった今では、勉強を全て登校中に完結させる学習法を身につけたことにより、家では家事と趣味に全て打ち込んでいる。

ここからは、彼の帰宅後ルーティンをお伝えしよう。

家に着くと、橋爪は直ぐにシャワーを浴びる。湯船には水道代がかかるので入っていない。風呂場で手洗いうがいを済ませ、全身を綺麗に洗い、乾かす。その後は夕食の支度だ。朝炊いたご飯と味噌汁の残りを確認して、味噌汁は加熱。卵、納豆、青汁、昨日作ったハンバーグの残りを食卓に並べ、温めていたお味噌汁とご飯をよそって並べる。リモコンでNHKのニュースをつけて、合掌。

「頂きます」

橋爪は礼儀正しい人間である。一人暮らしだからといって部屋をぐちゃぐちゃにする訳ではなく、常に部屋の綺麗を保っているのだ。外出時はなおさら部屋をピカピカにしてから出発する。帰ってきた時に気持ち良いからだ。そんな綺麗な空間に響くテレビのニュースにいちいちコメントを入れながらも着々とご飯を食べる。やがてニュースの終了と同時に食事も完食、合掌。

「ご馳走様でした」

食べ終わったあとの皿は全て手で洗い、その場で拭いて片付ける。

ここまで済むと、あとは自由時間だ。ここまでの工程を20:00までに終わらせるのが、彼なりのミッションである。今日は19:38に全て完了し、リビングのフローリングに大の字に寝転がった。

この後はだいたいゲームをするのだが、この日は違った。スマホを確認し、佐藤からの連絡の有無を確認する。案の定、数件メッセージが来ていた。

『さっきは突然ごめんね、これからよろしく』

『早速だけどさ、今週末カードショップを案内してくれないかな?橋爪くんのよく行く所を知りたいのと、何か一つ新しく始めたいんだ』

『あ、それと。校内ではアイツらいるからさ。なるべく話さないようにしよう』

『沢山遊ぼうね!』

だそうだ。

橋爪はデュエルマスターズをプレイしている。彼のデッキ構築モットーは、脳死嵌め殺し戦法。単純な効果の複数種類のカードを同時展開して互いに作用させることで、強制的に勝利を掴むという戦法だ。ちなみに、その戦法の命名をしたのは橋爪本人。勝手に作って勝手に命名しただけである。

他にも様々な戦い方があるデュエマは、個人の好みによって無限大の楽しみ方がある。彼はそこに惹かれて、高2となった今でもプレイしているのだ。

「彼女か......ゲームしよ」

彼は赤面し、現実逃避をするかの如く、近くにころがっていた充電済みのNintendo Switchを掴んだ。近いうちにゲームのオンライン大会があるので、それに備えるのである。

しかし、その日は佐藤の可愛い顔が脳裏を過り、ゲームに対して熱中出来なかったようであった。

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